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其の二 新たなる挑戦者

 休み時間に入るとクラスもさる事ながら、他のクラスの春木小学校から上がって来た奴らとも知り合いになる事が多いが、オレは双葉保育園に通っていた事もあり、ある程度春木小学校の男共は知っていた。しかしオレの事を知らない奴も多数いた為、当然起こりうる初対面の挨拶が、


「お前が山本武かッ!」


 とケンカを吹っ掛けてくるヤツもいるのである。


(ハイハイ、山本武くんにケンカをご希望の方は一列にお並びください)


 とは言わないが、初対面からしかもフルネームで呼び捨てされると、やはりここで交わす言葉は、


「なんなお前ッ、いつでもやったんどッ!」


 である。

 さてここで、どうして初対面なのにコイツはオレの名前を知っていたのか? というミステリークイズを出題したい所だが、読者の皆様が正解を言った所で、オレには伝わらないので早速回答を述べよう。それは一学年上のぐっちゃんという大芝小学校出身の上級生が、オレがまだ小学六年生の時分に春木小学校に出向いて行き、


「大芝小学校の山本武いうヤツはめちゃめちゃ根性の据わったヤツやぞ、お前ら負けるんとちゃうか!」


 などと言って中学に入ってからケンカするようけしかけていたのである。ぐっちゃんはJFCの卒業生でもあったので、オレが六年生の時に時折JFCを覗きに来ては、


「武、春木小学校のお前らの学年の番長は南口いうヤツやぞ、どやお前勝てる自信あるか?」


 などと俺にもそんな事を言って来た事があった。しかしオレはその時、


「ぐっちゃん、悪いけどオイラそんな事に興味ないねん」


 とこう言ってやったのである。ぐっちゃんとも五年生の時分にJFCの練習中にケンカをした事があった。正直な話し、大芝小学校の一学年上のヤツらにケンカを売られてオレは負けた事がなかった。なので生意気なオレを懲らしめる為に打った策だったのだろうが、そんな事はお見通しだったのである。

 さて話を戻そう。


「お前が山本武かッ!」


 と言って来たヤツは、春木小学校NO2の、通称『ドン』と呼ばれるヤツだった。


「なんなお前ッ、いつでもやったんどッ!」


 とこの時のオレの言葉に、


「なんてなコラァ~ッ!」


 とドンはオレの胸倉を掴んで来た。場所は三組前の廊下である。早速オレはパチキに続いて右拳をドンの顔面に放ったが、ドンはこれまで対戦したどの相手とも違った。ドンはプロレスマニアだったので関節技が得意な男だったのだ。オレは右手を掴まれ関節を決められたが、なんとかその技から脱出し、再び殴り合っている最中にチャイムが鳴った。先生が教室に来るギリギリまで殴り合っていたが、そこでドンが、


「後でもう一回やっちゃるッ!」


 と言って一組に走って行った。これは後に解った事だが、一組の担任に見付かる事をドンは恐れていたのである。その一組の担任こそ、オレの中学校人生において、後にオレが因縁の大乱闘を起こす事になる最要注意人物だった。

 三時間目終了のチャイムと共にオレは一組に駆け込んだ。すると一組は二組と合同の保健体育の授業が終わった所で、教室には一組の男子と二組の男子、そして教台には最要注意人物の一組担任体育教師、中田明義こと通称IBが居た。IBの由来は、IBが春木中学に転任して来る以前の岸城中学の卒業生から聞いた話だが、当時IBファッションが流行していた最中、この教師はポロシャツの襟をいつも立て、忠実にIBファッションを再現していた事からこの名が付いたらしい……。そんなIBの転任して来た尾ひれが付いた噂は、なんでも岸城中学で生徒に馬面とバカにされ、ブチ切れ病院送りにした事から春木中学校に飛ばされて来たのだという。だがIBの母校でもある春木中学校に転任してくると、更にIBは気合を入れ出したのだから困ったものである。更にこのIB、体育教師だけあって、筋肉隆々オマケに色は日焼けサロンで焼いて来たのかというほど黒かった。実のところ年中肌が黒いのでそれは自黒だと判明したが、色が黒いだけではなかった。顔面は至ってヤクザの上に、その鋭い眼光は睨んだだけで相手を溶かすと言われていた。その上空手の黒帯、少林寺の黒帯、柔道の黒帯、剣道の黒帯、更に噂という物は恐ろしい物で、レーシングカーのA級ライセンスまで持っていると噂されていた。そらドンもビビる訳である。


「なんやお前、このクラスに何の用や!」


 教室に入るなり、眼光鋭いレーザービームのようなIBの視線がオレを捉えた。


「別に何も……」


 視線を外しながらオレは答えた。

 IBは出席簿と教材を束ね持つと、訝しげ気な眼光をオレに向けながら横を通り過ぎて職員室へと戻った。オレはそれを確認すると、窓際に座るドンを睨み付けながら一歩一歩ドンへと近付いた。ドンも向かって来るオレを睨みながら拳を握り身構えた。二人の間ではもうすでに第二ラウンドのゴングは鳴っていた。

 オレは射程距離に入ると拳を振り下ろした。ドンは明らかに関節技を狙っている様子だったので、オレはフェイントを掛けて振り下ろした拳でそのままドンの制服を掴み、柔道技でドンを(こか)してそのままヘッドロックを決めた。ドンがプロレス技を得意とするなら、オレの唯一得意とするプロレス技はヘッドロックである。ドンのこめかみにガッチリと決まったオレの両腕は、獲物を捕らえたカマキリのように放す事はなかった。もがけばもがくほど強くこめかみを締め上げてやった。するとドンは床をタップアウトした。格闘技における参ったという意味である。


「言葉で言わんかぁ~いッ!」

「参った……」


 オレは即座に締め上げている両腕を解いてやった。

 二人して立ち上がると、


「お前もう調子こいたこと言うてくんなよ」

「おぉ」


 この一言を聞いてオレは一組の教室を去った。

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