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第二十二章『中学一年記』 其の一 ヤンチャの烙印

 小学生活という六年に渡る長き日々は、過ぎてしまえばあっという間の六年間だったようにも思えると、幼き少年は背伸びをして少し粋がり始め、自称オイラはオレに替わり、両親の呼び方もオカンとオトンに替わった。そしてチンチンにも毛が生え揃う頃、オレは丸刈りが初々しい中学生になっていた。新生活の幕開けである。


 この頃、岸和田市の中学校はまだ長髪が認められていなく、中学校からは丸坊主にしなければいけなかった。しかし中学校に上がる直前に丸坊主にすると頭皮が日に焼けていない分、青白い頭皮が目立ってしまい、皆から青ハゲと呼ばれるので、決まって男共は小学校六年生の半ばから坊主頭にする奴が続出するのだが、オレは青ハゲと呼ばれても中学校に上がる直前まで丸坊主にはしたくなかった。当然である。ドラマでよくある美男子が髪を掻き上げる事も、フーと自分の前髪に向けて息を吹き、ジャニーズのようになびかせる事も出来なくなるからである。誤解のないように言っておくが、オレは愛しのかわい子ちゃんには相手にされていなかったが、それ以外にはよくモテたのである。小学校高学年からはバレンタインの当日、休み時間に女子達に追い掛け回される程よくモテたのである。アランドロンもあながちウソではないのだ。しかし中学校直前までオレが丸坊主にしないでおこうと思っていても、それをオトンが許さなかった。昭和の世に、武士のような志を持った質実剛健な男に育てようとしていたオトンは、オレが小学校六年生の後半、家に帰るなり、


「坊主にして来い!」


 とこう来たのである。


「中学入ったら嫌でも坊主にせなアカンねんから、小学校卒業してからやるわ」


 一言いうと、


「アカン今すぐして来い!」


 とやはりそこは譲らず、


「いらん」

「アカン」

「いらん」

「アカンッ!」

「イラン人言うてるやろォ~ッ!」


 と口答えすると、ゲンコツが飛んで来るのである。しかしオレも頑固なものだから、


「絶対するかぁ~ッ!」


 とプチ家出を決行したが、この時ばかりは最終的にオレが折れるしか仕方なかった。そんな事があり、結局小学校を卒業する前から丸坊主にしていたので、中学校に上がって青ハゲと呼ばれる事はなかった。


 岸和田市立春木中学校は、大芝小学校と春木小学校が進学し、小学生の時に比べると、一学年の人数も約三〇〇人を超えて一気に二倍と化した。当然そうなればかわいい女の子に出逢える確率も跳ね上がり、オレの中の期待度も上昇するのだが、かわいい女の子に出逢っても、格好を付けて掻き上げる髪が無いのが悲しい所でもあった。坊主頭はどこまで行っても格好の付けようがないのである。そんな中、違うクラスには愛しのかわい子ちゃんが居たが、一年三組になったオレは、同じクラスになった春木小学校から上がって来た二人の女の子に目を惹かれた。バレー部と陸上部に入部した女の子達である。目移りするほどかわいい女の子がクラスに存在するというのは、青春を謳歌(おうか)できるのだから誠に持って喜ばしい限りである。目指すはアニメ『うる星やつら』の主人公諸星(もろぼし)あたるである。

 しかし喜ばしい事ばかりでもなかった。またもやタッケンと同じクラスになってしまったのだ。だが同じクラスになったからといって、相変わらずタッケンとは仲が悪かったが、殴り合いのケンカはする事はなかった。春木小学校から上がって来た新たな挑戦者や上級生達、そしてそれ以上に立ち向かうべき不条理な教師の抑圧が待ち受けていたからだ。その話は追い追いするとして、一年三組になったオレは順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な滑り出しだった。担任の野田先生はオレから見ればお袋さんのような信頼できる温かい先生だったし、初めての社会の授業では先生が教室に入るなり、


「このクラスに山本武は居るか?」


 と、首にプロのカメラマンが使用しそうな、望遠レンズ付きの高価なカメラをぶら下げて言ってきた。オレも有名になったものだなぁ~と思いつつ、手を上げると前に出て来いと先生は言ってきた。顔を合わすのは初めてだったが、オレはこの先生を知っていた。名門春木中学校柔道部を指導して来た実績ある先生だった。その曽田先生はもうおじいちゃん先生だったので、嘱託(しょくたく)で社会を教えに来ていた。なのでこの頃はもう柔道の指導はしていなかったが、過去には正木嘉美選手初め、数々の柔道選手を世に送り出した有名な先生だった。その中でも曽田先生が特に目を掛けていた選手が務のおっちゃんだったという。務のおっちゃん初め喜作のじいちゃん、それに内の父ちゃんも曽田先生とは親しかったので、オレがこのクラスに居る事を曽田先生は知っていたのだ。

 先生に呼ばれるまま教台の前まで歩いて行くと、


「お前が務の甥っ子か、なるほど、ええ面構えしとる。よし、記念撮影じゃ! そこに立て、おぉ~、そやそや、このクラスに同じ山本という苗字の子は居るか? 山本繋がりじゃ、一緒に写真撮ったるから前に出て来い!」


 と、無理やりもう一人クラスに居た山本清吾も前に呼ばれた。清吾からすれば訳の分からない話である。いや、クラスの連中も、オレと曽田先生の繋がりを知らないのだから、何故オレ達が記念撮影されるのか訳が分からなかった事だろう。しかしオレからすれば気になる女の子二人に、オレの存在を印象付けられた事は、まったくもって好機な事に思えた。


「しかしお前は務と違い、ヤンチャになる顔をしとるのぉ~!」


 曽田先生にこの時そう言われた。

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