其の二 後 悔
夏休みに入ると、念願の岸和田市全土の小学校生徒会役員が集う、一泊二日の旅行の日がやって来た。いつ何時かわい子ちゃんとチュウをする場面が訪れるやも知れないと、歯磨きは入念にし、ハァーと手に息を吹きかけては自分の息をチェックして集合場所に向かった。先生に引率されてバスに乗り宿舎に着くと、そこには岸和田市全土の小学校生徒会役員が集結していた。オイラとは違って、見渡す限り頭の良さそうな子達が勢ぞろいしていた。そんな中に、オイラは一輪の野菊のような美しい女の子を見付けた。その女の子は城内小学校の女の子だった。二人はS極とN極が引かれ合うように、互いを見付け合うのにさほど時間は掛からなかった。一日目の全てのスケジュールが終わり、就寝は大広間に布団が敷かれ、初めて知り合う他校の生徒達とワイワイガヤガヤ騒いだ後、担当の職員がやって来て、早く寝なさいよと注意を受けた。先生が何処かへ行くまで狸寝入りを決め込むと、もうそろそろ大丈夫だと起き上がって話し込む生徒はいなかった。やはり生徒のお手本となるべき、それぞれの学校から選ばれた生徒会役員のお利口さんな面々だった。しかしオイラのように先生の忠告などまったく無視する者と、そして恋故に先生の忠告を無視してまでも、ほんの僅かなひと時だけでも、一緒に居たいと思う者同士が廊下に出て話し合った。
オイラとその女の子は、遅くまで廊下で三角座りして横に並び、様々な話をして甘く幸せな時を過ごした。その夜「じゃあまた明日ね」と言って互いがそれぞれの布団に帰った後、オイラはその子の事を思うと、この上ない幸せな気持ちになってしばらく眠れなかった。
あくる日、帰りのバスが出る時、その女の子がオイラのバスの方に駆け寄り連絡先の書いたメモを渡してくれた。そのメモには女の子らしい、可愛いキャラクターが隅っこにプリントされてあった。オイラもノートを千切って連絡先を渡した。温かい思い出である。
後日その女の子からの手紙が届いた。内容は交換日記をして欲しいとの事だった。しかしオイラは年賀状も書かないほどの筆不精なので、このとき返事を送り返す事をしなかったのだ。
この件に付いては大人になった今でも後悔している。女の子を傷つけてしまったと……。