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第十八章『競い合う二人』 其の一 競い合う二人

 五年生の三学期がもうあと僅かで終わろうとする頃、JFC六年生の送別会が開かれる事になった。送別会は練習が終わってから一旦家に戻り、着替えてから小学校の図書室で行われる事になっていた。その際に来年度JFCキャプテンの発表もあるとの事だったが、オイラよりもサッカーが上手い子がたくさん居た事もあり、オイラはまず選ばれないと思っていたので、余裕をかまして自宅で半身浴をした後、大幅に集合時間を遅れて学校に向かった。

 学校に向かう道すがら、このキャプテン争いにタッケンが選ばれれば、オイラにまた黒星が付くと気が気でなかった。タッケンはというと、練習が終わった時の態度からして、まず自分が選ばれるものと自負していたのか、オイラと目を合わすなり勝ち誇った顔を向けて来たのである。

 廊下を歩き図書室の扉を開けて中に入ると、この年の後期から監督に就任した角野先生こと通称角爺が、険しい顔付きでオイラに近付いて来た。遅れて来た事に対してまた必殺の角爺ビンタをお見舞いされると、オイラは顔面に力をいれて足腰を踏ん張っていたが、


「お前遅いわぁ~、お前が来な始まらんやろぉ~」


 と、ビンタをお見舞いされるどころか角爺はオイラの背中に手を回し、オイラをエスコートするように前の席へと着かせた。


「来年度の新キャプテンが来たのでそろそろ始めよか!」


(ん? どういう事だ?)


 オイラの頭の中はクエスチョンマークで一杯になっていた。

 窓際の席を見るとタッケンがライバル心むき出しの形相で、オイラに怒りのメンチ光線を向けて来ていた。この瞬間オイラはキャプテン争いに勝利したのだと理解し、その怒りのメンチ光線を向けて来ているタッケンに向けて、オイラは余裕をかました勝ち誇った笑みを送り返してやった。

 この地点で、二勝一敗、一引き分け、一失恋と、若干恋の失恋を差し引くとタッケンとタイに持ち込んだのである。


 タッケンとの争いはこれだけでは終わらなかった。それは六年生になって間もない頃の話である。新学期が始まると、学校という社会では生徒会役員を決める選挙が始まる。現在の小学校ではどういった者が立候補するのかは知らないが、この当時の生徒会長は、学年で人気のある者や、お笑い芸人のように面白い者が生徒会長になるという傾向があった。いわば現在で言う所のAKBの総選挙のようなものである。上記した事もオイラにとっては動機の一つだったが、オイラが生徒会長に立候補しようと考えた真の動機は二つあった。一つは四年生の時に、二学年上の六年生のケンちゃんが生徒会長に立候補し、その演説を聞いて感銘を受けたからである。演説の最後に、


「どんぐり目ぇ~の坂本ですッ!」


 とそれはそれはインパクトのある抑揚を付けながら、「坂本ですッ!」と言う部分を宮尾すすむの「ハイッ!」のギャグの手ぶりを入れて、自分の名前を学生達に印象付けたのである。平成生まれの人には解り難いので現代風に説明すると、お笑いタレント宮迫博之の、「宮迫ですッ!」のギャグの手ぶりを取り入れて、自身の名前を「坂本ですッ!」と強調したようなものである。その後ケンちゃんは落選したものの、当時小学四年生のオイラにとって、この演説は面白さを兼ね備えた衝撃的な出来事だったのである。小学校時分にケンちゃんは生徒会の選挙では落選したかもしれないが、しかしケンちゃんは後にとある市で、市議会議員に出馬し、見事当選して議員になる偉大な男である。この話は後半の『ド祭りバカ 編!』で触れる事にしよう。かくしてオイラはこの時、オイラも六年生になればケンちゃんに負けないくらいの面白い演説をしてやろうと心に誓っていたのである。

 もう一つの動機はオイラが五年生の初め、うちの姉ちゃんが生徒会の副会長に就任し、岸和田市全土の小学校生徒会役員が集うサミットのような一泊二日の旅行に、姉ちゃん達生徒会役員が夏休みに行ったのを見て、これはオイラも生徒会長になれば旅行に行け、そこで他の小学校のかわい子ちゃんに出会えるのではと思ったからだ。但し、これは前期生徒会役員に限定されるというものだった。

 そういった邪な理由からオイラは生徒会長に立候補したのだが、オイラが名乗りを上げると、我が(にっく)きライバルタッケンも、生徒会長に名乗りを上げて来たのだ。

 立候補してからまず最初にする事は、スローガンを書いたポスターを製作して掲示板に貼る事だった。オイラのスローガンはこうである。


           挿絵(By みてみん)


 に対しタッケンは、


           挿絵(By みてみん)


 と、ある意味オイラとスローガンを被せて来やがったのだ。

 こうなれば後は演説である。演説当日、体育館には四年生から六年生までの高学年が席を埋め尽くしていた。ベビーブームの世代だけあって、その数はざっと見積もって四百人を優に超え、そんな中で演説が行われた。オイラ達以外にも数人会長に立候補した子が居たので、一組から順に行くと、オイラの回って来る順番は、五組だったので一番最後だった。四組からの立候補者は居なかったので、三組のタッケンはオイラの前に演説だった。

 一組から順番に演説が終わり、タッケンの番が回って来た。司会進行のアナウンスが、


「次の演説は、生徒会長立候補、六年三組竹村剛司君です」


 と解説すると、舞台袖から舞台中央に向かってタッケンが歩き出した。その動きはどことなく緊張しているのか、ロボットのように硬かった。演台の前にタッケンは立つと一礼し、注目している観衆に向けてスピーチを始めた。


「えー、この度生徒会長に立候補しました竹村剛司です」


 割と真面目な切り出し方だった。


「ボクが生徒会長に立候補しようと思ったのは、明るく笑顔のある学校を、生徒会長になって創って行きたいと思ったからです」


 オイラは舞台袖から聞きながら、


(お前ぇ~、女の子横通っただけでもお前の顔面見て泣き出すのに、お前が生徒会長なって学校引っ張って行ったら、世紀末の恐怖の学園なってまうチュウねん!)


 心の中でツッコんだ。


「そしてもしボクが──」


(お前さっきからボクボク言うてるけど、普段から俺しか言うてないやんけッ!)


「生徒会長に当選した暁には、教育委員会に掛け合って、土用の丑の日には給食にウナギをもう一品付けるようにいたします」


(コイツやりよったぁ~っ、お年玉握り締めて寿司屋行くぐらい、自分がウナギ食いたいだけやないかぁ~ッ! まあオイラの生徒会長になる動機も不純やけど、コイツの動機もオイラに負けてないなぁ~っ!)


「どうかこの竹村剛司に、清き一票をお願いします。以上です」


 拍手が止み、タッケンが堂々とした足取りで舞台袖に帰って来ると、オイラの横を通り過ぎる際に、オイラの目を見るなりドヤ顔で過ぎ去って行った。しかしオイラは臆する事はなかった。オイラには秘策があったのだ。

 舞台袖のオイラの横で、場内アナウンスを流す司会進行役の女の子がマイクのスイッチを入れると、


「最後の演説は、生徒会長立候補、六年五組山本武君です」


 と紹介してくれ、オイラの演説の番が回ってきた。オイラは女の子に「ちょっとマイク貸してくれる」と告げて女の子からマイクを受け取ると、舞台袖から一歩踏み出し、観客にオイラの姿が見える位置に止まった。そして行動に移った。


「ごめんください。どなたですか? 六年五組から生徒会長に立候補してまもなく当選する山本武君です。お入りください。ありがとう」


 桑原和男のギャグを引用してド派手な登場をすると、客席から笑い声と喝さいの拍手が沸き、吉本新喜劇さながらに盛り上がった。オイラはその喝さいに応えるように片手を上げて演台まで行くと、聴衆を(しず)めるように両手を上げて、


(まあまあまあお静かに……)


 のポーズを執った。

 少し補足しておくが、オイラは観衆の前でおちょけた事をする実績があった。それは一年ほど前の学芸会で、この舞台の上に布団を敷き、上半身裸で布団に潜り、ハナテン中古車センターのテレビCMをやってのけた事があったのだ。その時カセットデッキでそのCMソングを、ボリューム大で流したアシスタントは啓ちゃんである。平成生まれの人の為にこのCMの事を詳しく述べると、いや、これは述べるよりも百聞は一見に如かずである。詳しい事はこのURLでhttps://www.youtube.com/watch?v=F1c5n13wwKo でググってみてくれ! きっと面白い映像がお目に掛かれる事かと思う。


 話をもどそう。喝さいが鎮まると、オイラは手に持つマイクのスイッチを切って演台の上に置いた。そして演台のマイクスタンドに備え付けてあるマイクのスイッチをONにして聴衆に向けて一礼した。


「ゴツッ!」


 という鈍い音がスピーカーから鳴ると、オイラは大仰に頭を押さえ痛さを表現した。オイラがマイクに頭を打ち付ける仕草を観て、聴衆はまた笑い声を上げた。

 もうここまで来るとオイラの独り舞台である。


「おじゃましまんにゃわぁ~!」


 演台での第一声を井上竜夫風に言うとまた笑いが起こり、何をやってもバカウケなのである。しかし笑いを取ってばかりいても演説は始まらないので本題に入る事にした。


     挿絵(By みてみん)


「この度生徒会長に立候補した沢田研二です」


 ついつい癖でまた笑いを取ってしまった。だが笑い声が治まると改めて本題に入った。


「オイラが生徒会長に立候補した理由は、スローガンにも書いていた通り、笑いある学校にしたかったからです。笑いは世界を救うとよく言いますが、誰が言っていたのかは聞かないでください。家で辛い事があったとしても、学校に来ると楽しいと思える事があれば、出席日数も自ずと向上して行く訳で、不登校を無くす為にも、やはり楽しい学園創りを目指さなければいけないと思ったからです」


 以外に真面目な事を言ったので聴衆は聞き入っていた。


「あの吉本新喜劇のチャーリー浜師匠は言いました。君たちがいて僕がいる。一見何の変哲もないチャーリー浜師匠のギャグのように思われますが、この君たちがいて僕がいるの深い意味は、人間が元気でいられるのは、関りある周りの人たちのおかげ、助け合いがあってこそ。といった、二重生命という互いに助け合って生かし合う環境を意味しているのだそうです」


 今言った事を更に深みのある物に変える為に、オイラはここで少し間をおいた。


「学校生活もしかり、互いに助け合い、笑かし合って共に楽しい学園創りをして行かなければいけないのです」


 また少し間をおいた。


「オイラは声を大にして言いたい。君たちがいて僕がいるじゃあ~りませんか!」


 最後の言葉をチャーリー浜のギャグで締め、ここでオイラはあえて何も言わず一礼して演説を終了した。聴衆は椅子から立ち上がり、割れんばかりの拍手が体育館を満たした。

 舞台袖に歩いて行きタッケンの横をすれ違う時、今度はオイラがドヤ顔でタッケンに返してやった。演説はこれで終了し、後は投票結果を待つばかりだった。

 投票はその日のうちに集計される事になっていた。放課後オイラ達はJFCの練習があったので、グランドでサッカーの練習をしながら投票結果を待っていた。グランドの隅にある旧校舎の一室が集計の行われている場所だった。オイラもタッケンもサッカーの練習をしながら、旧校舎から実行委員会の人が出て来るのを首を長~くして待っていた。しばらくして旧校舎の扉が開いた。オイラもタッケンもお互いの顔を見合わせ、二人して練習を中断し、その旧校舎に向かって駆け出した。

 結果は、圧倒的大差でオイラが生徒会長に就任したとの事だった。


「おい、また勝ってもうた。すまんのぉ~、人気あり過ぎて!」


 横に佇むタッケンに、厭味(いやみ)ったらしく笑みを浮かべながら言うと、


「チッ!」


 とタッケンは小さく舌打ちをした。


 これで通算、三勝一敗、一引き分け、一失恋と、一失恋を差し引いた小学校生活の中で、オイラが一歩リードしていたのである。


岸和田㊙物語シリーズとは別に、ローファンタジーの小説、海賊姫ミーシア 『海賊に育てられたプリンセス』も同時連載しておりますので、よければ閲覧してくださいね!                 

                          作者 山本武より! 


『海賊姫ミーシア』は、ジブリアニメの『紅の豚』に登場するどことなく憎めない空賊が、もしも赤ちゃんを育て、育てられた赤ちゃんが、ディズニーアニメに登場するヒロインのような女の子に成長して行けば、これまでにない新たなプリンセスストーリーが出来上がるのではと執筆しました。

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