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其の二 カルテ№1 美脚のアイドル

 引き戸に組み込まれたすりガラスに人影が映り、続いて引き違い戸がゆっくりと開いた。その隙間から、ミニスカートを穿いた太股まで素足を(さら)した美脚が、畳に正座しているオイラの目の高さに現れた。オイラはゴクリと生唾を飲み、目の前に現れた、美脚の爪先からスカートの下の太股までゆっくりと視線を移動すると、最後にその曲線美の持ち主の顔に目をやった。

 一番手は千里ちゃんだった。彼女の顔はべっぴんさんとはいかないまでも、爪先から腰に至るまでは目に見張るものがあった。学年はオイラより一つ上の四年生だが、小学四年生にしては発育しまくっているその腰つきにしてヒップは、かぶり付きたくなるほどプリンとした良いお尻をしていて、その美尻の下からは肉付きの良い見事な太股が生えていた。この時代よりずっと後にトップアイドルとして君臨する、あの森高千里の美脚をまさに持ち合わせていた。

 千里ちゃんがオイラの前でゆっくりと腰を下ろすと、オイラは興奮で鼻が膨らみそうになったが、その興奮を悟られないよう平静を装った。


「どうしましたか?」


 ドクター風にオイラは尋ねた。


「はい、最近身体がダルくって」


 まだ患者役になりきるのが恥ずかしいのか、照れ臭そうに千里ちゃんが言った。その照れ臭そうな表情が、オイラの目にはいつもより可愛らしく映って見えた。


「特にダルい所なんかありますか?」

「はい、この辺りが……」


 照れ臭そうに両手を自分の太股に置く千里ちゃんの頬は、成熟した桃のようにほのかに赤らめていた。オイラは興奮を抑えながらも、スカートで少し見え辛くなった両太股の隙間に目をやった。奥が見えそうで見えない魔のバミューダトライアングルに視線を移すと、未知の海域が見たいが為に、自ずと身体を傾け出している自分に気付き元に戻した。


「足がダルいのですか?」


 白々しくも聞いてみた。


「はい、特にこの太股の辺りが……」


 千里ちゃんは頬を赤く染め、視線をやや斜め45度上へと向けた。


(かわぃ~~~い!)

「それではちょっと仰向けになってもらえますか」


 オイラは急ぐ気持ちを抑えに抑えて、平静を保って千里ちゃんに横になるよう促した。

 千里ちゃんは恥じらいながらオイラの前で横になると、恥ずかしそうに目を瞑り、オイラとは反対の方向に顔を向けた。目の前にはかぶり付きたくなるほどもっちりとした白い雪見だいふくのような素足が、好きに食べていいのよと言っているようだった。赤ずきんちゃんを襲うオオカミの気持ちが少し理解出来たような気がした。


「この辺りですか?」


 オイラは目の前の雪見だいふくに、両手で触れて千里ちゃんの言葉を待った。


「もうちょっと上の辺りです……」


 千里ちゃんは顔を背けたまま、恥ずかしそうに目を瞑っていた。

 もうちょと上はスカートの裾のほん()()だった。


(マジでぇ~~~~~~~っ!)


 野球で例えるならこれはもう、診察一発目からエンタイトルツーベースである。

 オイラは両手を右にズラし、千里ちゃんが指示する箇所を触ってみた。小指がスカートの裾に触れた。魔のバミューダトライアングルが見えないかと、小指でスカートを持ち上げてみた。ドキドキと興奮が治まらなかった。断続して千里ちゃんは顔を背けて目を瞑っている。オイラは魔の海域を一目見ようと上体を傾けたその時、左手に人の気配を感じた。オイラは恐る恐るゆっくりと左に顔を向けた。そこには鏡台に映る自分の顔があった。その表情は、目は鍋から零れた煮汁のように垂れ下がり、口はだらしなく開き、鼻は部屋中の酸素を独り占めしようかというくらい興奮して膨らんでいた。アランドロンのような男前モードの表情は、はっきし言って三分と持たないのである。特にこういった場面で女の子が目を瞑ると、側頭部に力を入れてキリッとした表情を作っていても、すぐに解除されてしまうのである。

 オイラは再び千里ちゃんの太股に視線を戻し、気付かれないように小指を使って徐々にスカートの裾を捲っていった。バミューダトライアングルが少し見えてきた。その海域は白い生地で覆われていた。断続して千里ちゃんは目を瞑っていたので、オイラは調子に乗ってもう少しスカートをズラしてみた。白い生地の中に青い物が少し見えた。オイラは気になりそーっとスカートの裾を持ち上げてみた。見てはいけない物を見てしまうと人間という生き物は隠してしまう習性があるのか、オイラは習性に従ってスカートを元の位置に戻した。青い物の正体は、白いパンティーにプリントされたドラえもんだったのである。


「どんな具合ですか?」


 不意に目を開け千里ちゃんが聞いてきた。

 オイラは瞬時に男前モードに切り替えて、


「これはドッチボールによる筋肉疲労ですね。後でシップを出しておきますので、それを貼っていれば大丈夫でしょう。念のため心音も計っておきましょう。胸元を開けて大きく息を吸って下さい」


 と医者が言いそうな言葉を選んで、第二の未知なる海域に踏み込んだ。

 すると千里ちゃんはオイラを見上げ、


「たけし先生、Tシャツを捲るんですか?」


 と恥ずかしそうに聞いてきた。

 オイラはゴクリと生唾を飲み込みながら、


「はい、勿論!」


 と威厳ある態度でドクター役に専念した。


「わかりました……」


 千里ちゃんは横になったまま、ゆっくりとTシャツの裾に手を移動した。

 オイラは目の前で劇場の幕が上がるのを、もう一度生唾を飲み込み、これでもかぁ~ッ! といわんばかりに目を見開いてその瞬間を待った。

 劇場の幕がゆっくりと上がり出すにつれ、オイラの鼻もその速度に合わせて少しずつ膨らんでいった。おへそが「こんにちは!」と顔を出し、鳩尾(みぞおち)辺りで千里ちゃんは恥じらうように一度手を止め、目を瞑りながら、もうこれ以上幕は上がりませんという所まで一気にTシャツを捲り上げた。千里ちゃんの真っ赤になったその顔は、恥ずかしさのあまり横を向いて目を固く閉じていた。


(胸元さ~ん、いらっしゃ~~い!)


 オイラは喜びのあまり胸の内で、桂三枝(六代目 桂文枝)の『新婚さんいらっしゃい』のように叫んでいた。

 興奮のあまり鼻血が滴り落ちてきた。オイラは鼻血ごときでこのお医者さんごっこを中断されてはなるものかと、慌てて鏡台に置いてあるティッシュを手に取ると、丁度良いサイズに丸めて鼻の穴に突っ込んだ。千里ちゃんが目を開く前に、まるで何事もなかったようにドクター役を演じるよう心掛けた。そして聴診器を耳にセットし、その先端のチェストピースを右手に持つと、千里ちゃんの少し膨らみかけた両胸の間に、まずはチェストピースをそっと当てた。千里ちゃんの鼓動が聞こえた。チェストピースを少し右にズラし、小ぶりのサクランボに近付けた。小指があと少しでサクランボに届くと思うと、オイラの小指は意思とは裏腹に、無意識に指を立ててサクランボに触れていた。千里ちゃんの鼓動が少し早くなった。同様にオイラの鼓動も早くなっていった。千里ちゃんの顔に視線を移した。するとどうだ! 千里ちゃんはオイラに触られているサクランボの感覚を堪能するかのように、目を瞑ったまま下唇を噛んだ後、


「ふぅ~」


 と甘い息を漏らした。


【誤解がないように一言いっておくが、これは官能小説などではない。あくまでオイラの幼き頃の、愛らしいお医者さんごっこの話である】


 千里ちゃんが目を瞑っている間、オイラはこの夢のような目の前の現実に、自分自身夢でも見ているのではないのかと、左手で自分の頬を抓ってみた。やはり夢ではなかった。仮に夢で有るにせよ。無いにせよ。目の前に置かれた対処するべき事柄にベストを尽くすだけである。


(そうだ! ベストを尽くすのだ兄弟!)


 オイラの下半身に付いているリトル武も、立ち上がりスタンディングオベーションでそう言ってきた。

 ベストを尽くし、今を満喫しなければと改めて思い直したオイラは、またサクランボちゃんに視線を戻し、親指くんと人差し指くんにも、サクランボちゃんと仲良く遊んであげなさいと指令を出した。オイラは三人が仲良く遊ぶ姿と、千里ちゃんの顔を交互に見比べては自身の眼を喜ばせた。勿論、このとき男前モードは自動的に解除されていた。

 ほんの少しの間そんな事を繰り返しては本能のままに楽しんでいたが、千里ちゃんはもう飽きてしまったのか突然Tシャツを下ろした。千里ちゃんの顔を見ると、千里ちゃんは口いっぱいに空気を吸い込み、風船のようにほっぺを膨らませ、オイラを睨んだあと積極的にこう言ってきた。


「先生、胸はもういいですから、さっき言った足のダルい所をマッサージしてください」


 そして千里ちゃんは俯せになると、自分の両手を枕代わりにしてくつろいだ。


「はいはい、ドクター武は按摩でも何でもいたしますよぉ~っ!」


 俯せになった千里ちゃんのミニスカートは、本人は気付いていなかったが捲れ上がっていた。白い三角の生地のど真ん中には、にっこりと微笑んだドラミちゃんのバックプリントが描かれてあった。オイラにはその黄色い天使の顔が、「いらっしゃいませ!」と言っているように思えた。これこそまさに神からの贈り物だと、オイラは胸の内で桑原和男のように、


(おぉ~神さまぁ~~~!)


 と叫ばずにはいられなかった。


(さてどの辺りからマッサージしてこましちゃろうか……。いや、頭で考えるなッ! チンコで考えろッ!)


 これはオイラにとって本能のままに! という意味である。

 本能のままに従うとすぐにその答えは見付かった。オイラは千里ちゃんの裏太股に親指君を置くと、


「この辺りですかぁ~?」


 とドラミちゃんに向けて尋ねた。


「うん。その辺り」


 ドラミちゃんの口は動いてはいなかったが、すぐに返事は返って来た。

 マッサージしながらもオイラの頭の中では、たくましくもスケベな想像で溢れかえっていた。ドラミちゃんが膝元まで下りたがっていないかだとか、ドラミちゃんの下にはどんな桃のようなお尻が潜んでいるのだろうか? とか、顔を出した桃ちゃんはオイラの頬擦りを待ち望んでいるのではないだろうか? だとか、まあオイラに限らず健康的な男の子という者は、本来それぐらいの想像はするものである。


「先生、もうちょっと上の辺りもお願いできますか?」

「おおせのままに……」


 オイラはドラミちゃんに向けて言った。この時のオイラの表情はご想像にお任せする。

 オイラは親指君をいらっしゃいませパンティーに更に近付けた。


「この辺りはいかがなものでしょう」

「そこも気持ちいいわね!」


 もはやオイラはドクターという職業を忘れ、ただの召使いと化していた。しかし召使いであろうが無かろうが、オイラの座る位置から眺める光景は格別なものだった。普通では眺められないパンティーを(もろ)にお目に掛かれた上に、実際に綺麗なあんよに触れる事も出来るのだから、この上ない喜びである。それはまるでオイラが仰向けになり、女の子がミニスカートでオイラの頭を跨いだ体勢で時間がストップしたようなものだった。まさに盆と正月がいっぺんにやって来たようなものである。改めてお医者さんごっこの奥深さを痛感するばかりだった。

 そこからのオイラの行動は、マッサージ師という名の元において、一心不乱に千里ちゃんの美しいあんよを揉みまくった。揉んで揉んで揉みまくった。生まれて来た意味さえも忘れて揉みまくった。何かに取り憑かれていたのではというくらい揉んだので、どう揉んだかは記憶にないが、次に記憶があるのはその揉んでいる最中に、ティッシュを詰めていない方の鼻の穴から鼻血が滴り落ち、


「キャッ、冷たいっ!」


 と千里ちゃんが反応して、俯せのまま顔をオイラに向け、


「武くん鼻血が出てるじゃない」


 と気遣ってくれ、


「こんなの平気さ!」


 とオイラは答えたが、ここで一旦千里ちゃんの診察は中断となってしまったのである。


 再度ティッシュをもう片方の鼻の穴に詰め込むと、いつでも直ぐにティッシュが取れるよう箱を足元に置き、


「よっしゃぁ~!」


 と両手で頬に気合を入れた。そしてマイクテストのようにドクター風な発声練習を行った後、いよいよ次の患者を呼び入れる事にした。


「次の方お入りください」

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