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第十三章『 大人の階段』 其の一 大人の階段パート1

 四年生の三学期も残りわずかという頃、授業が終わるとオイラはサッカーの練習着に着替え、サッカーシューズの紐を結び終えると、ボール片手にグランドに出ていた。大芝小学校には大芝JFCという少年サッカークラブがあり、オイラは三年生の頃から所属していた。

 オイラが大芝JFCに入部したきっかけは、アニメ『侍ジャイアンツ』の主人公番場蛮(ばんばばん)にあこがれ、ピッチャーを目差したかったのだが、あいにくオイラは球こそ速いがコントロールがなかった為、それでは手を使うスポーツより足を使うスポーツだと、サッカーを始めたのである。入部してみると知った顔ぶれがたくさんいた。一人一人上げていくと切りがないが、オイラの住む八幡町のメンバーだけでも学年を問わず多数いた。中でもマッサンの家の前に住む岩村イサムことイサム君は、オイラより二学年上の六年生で、この日練習が始まる直前まではキャプテンをしていた。詳しく話そう。このイサム君、俺の座右の銘は「生きてるだけで丸儲けや!」と豪語するくらい明石家さんまを崇拝していて、さんまに憧れるだけあってとにかくひょうきんな男なのだが、少し間の抜けている部分を持ち合わせているのである。まあそこが彼の良さと言えば良さなのだが、とにかくこの日も放課後練習着に着替えると、練習が始まるまでのひと時を、何をして遊ぼうかと模索していた。そこへボールを持って現れたオイラに、


「武、倉庫のドッチボールの球、校舎の屋上に何個蹴り上げれるか競争しよや!」


 とイサム君は、倉庫からドッチボールの球がたくさん入った籠ごと引っ張り出して来たのだ。

 これは面白いとオイラもイサム君の提案に乗り、まずはイサム君がドッチボールを蹴り始めた。一蹴り目、ボールは屋上に向けて高く蹴り上げられ、難なく学校の公共物をイサム君は一つ紛失させた。


「ほな次オイラの番やな!」


 オイラがそう言うと、


「いやいや、五回ずつ行こや!」


 と、屋上に乗せる快感を覚えたのかルールーを提案してきた。


「おぉ、ええよ!」


 オイラがその提案に応じると、イサム君は嬉しそうに二つ目を蹴り上げた。


「よっしゃぁ~、また行けたぁ~っ!」


 この上なく嬉しそうな表情でイサム君はそう言うと、三つ目を蹴り、


「うわぁ~、おっしぃ~!」


 外人のようなオーバーリアクションで頭を押さえ膝を着き、続いて一人ニコニコと四つ目を蹴り、


「うぉ~~~~っ、ゴーーーール!」


 成功するとワールドカップで外人がよく見せるポーズを取りながら、大はしゃぎして次の五つ目のボールを蹴る体勢に入った時、オイラは職員室前の廊下の窓からこちらを眺める赤ら顔のオッサンを見付けた。大芝JFCの鬼監督山田先生である。この山田先生、いつもメガホンを首にぶら下げ、シュートやパスをミスすれば、試合中でも選手を呼び寄せてはそのメガホンで頭を叩くのであるが、エスカレートしてくるとメガホンがビンタに変わるのである。平気で子供をシバキ倒すスパルタ鬼監督だったのだ。そんな事とは知らずにイサム君は五つ目のボールを蹴り上げると、


「うわぁ~、もうちょっとやったのになぁ~っ……」


 と大はしゃぎして、一人興奮気味に嬉しそうな顔で言った後、


「武、やっぱり十回勝負にしよや!」


 と、納得が行かないのかまたルールを変更してきた。

 オイラは寛大な男である。彼がルールを変更したいと言うならば、


「どうぞお好きなように!」


 とオイラは右手を広げ、六つ目のボールを蹴るよう促した。

 断続山田先生は、廊下の窓からイサム君の行動を、厳しい表情で一部始終見ていた。

 嬉しそうにイサム君は六つ目のボールを蹴り、見事に学校の公共物を四つ紛失させ、七つ目のボールを蹴り掛けた時、


「コラァァーーーッ、岩村ォォォーーーッ!」


 と、怒れるスパルタス山田が、メガホン片手に運動場に登場した。興奮のあまり顔が赤くなっている。いやっ、元からだ。

 オイラは後退り、イサム君はゆっくりと声のする方へと振り返った。スパルタス山田は二十メートル先から怒りの形相で駆け寄り、イサム君は恐怖のあまり気をつけの姿勢で硬直していた。


「お前JFCのキャプテンでもあろう者が何さらしとんのじゃーーッ!」


 スパルタス山田は駆け付けるなり、まずは右手に持つメガホンをフルスイングでイサム君の頭に一発入れ、続けざまに左手でビンタ。


「お前学校の公共物を何やと思とんのじゃーーッ!」


 更にメガホンを離した手でビンタ。


「お前みたいな(もん)もうキャプテン首じゃーーッ!」


 そして極めつけに左手のフルスイングで更にビンタし、


「お前、親に言うて金出してもうてボール弁償せえッ! わかったなァーッ!」

「はい……」


 と、これがキャプテンを降ろされた理由なのだが、先生が去って行くとオイラの方に向き直り、百万ドルの笑顔で、


「キャプテン、降ろされちゃったぁ~~~っ!」


 と抑揚を付け語尾を上げて言った後、右手を頭に乗せて「でへっ!」と舌を出した。


「もう山田先生職員室入って行ったから続きやろや!」


 彼はまったく懲りていなかった。この男、後に青年団というだんじり祭りの若手引手役の団体でも、素晴らしく見事な、とんでもない大チョンボを仕出かすのである。

 練習が始まるまでまだ三十分ほど時間があったので、同じJFCに所属している同級生の坂下と肋木で遊んでいると、そこに二学年上の八男君と後藤君が嬉しそうな顔を引っ提げてやって来た。この二人JFCきってのやんちゃコンビである。


「お前らちょお来いって!」


 そう言って来たのは八男君の方である。オイラと坂下は、何か面白い事でもあるのかと二人に寄って行った。するとこの上なく嬉しそうな表情で、


「お前らセックスって知ってるか?」


 と八男君が聞いてきた。


「八男、まだこいつら絶対知らんって」


 やはり後藤君もニヤついた表情をしていた。

 普段からおとなしく生真面目な坂下は、何の事だとばかりに一人難しい顔をして考え込んだ。しかしオイラはセックスをよく知っていた。毎週欠かさず土曜日の八時から見ていたからだ。なので物知り顔で自信を持って言ってやった。


「オイラは知ってるよ! あれやろ! 『8時だョ! 全員集合』で加トちゃんがちょっとだけよぉ~~~! って言うて、こうやって太股見せるやつやろ!」


 加トちゃんを真似て、太股をチラ見せて実演してやった。


「アホやこいつ、それをセックスやと思てんか!」


「えっ、あれとちゃうんけ?」


 オイラは八男君に聞き返した。


「アホやのぉ~、セックスてそんなんちゃうわぁ~よ! のう後藤」

「おう、ちゃうちゃう! セックスってもっと強烈なやつやぁ~!」

「え、ほたらセックスっていったいどんなんよ?」


 おとなしい坂下も二人に聞き返した。


「そんなん今すぐ教えられへん。坂下、お前今日家帰ったら親に聞け! そしたら教えてくれら」


 この上なく嬉しそうに八男君が言った。横では後藤君も笑っている。


「坂下、お前今日親にそれ聞いたら、明日オレらに教えてもうたこと報告せえよ!」


 八男&後藤コンビは、端からセックスについて教えるつもりは無かったのである。家に帰り親に質問させ、聞かれた親が動揺しながらどう子供に説明するかを楽しんでいたのだ。まったくもって悪戯っ子な二人である。

 あくる日サッカーの練習が始まる前に、またオイラ達四人は肋木に集まった。


「おう、坂下どやったねん。親にちゃんと聞いたんか?」


 嬉しそうに八男君が尋ねた。横では相方の後藤君も期待顔で嬉しそうに笑っている。


「聞いた聞いた。ちゃんと聞いたよぉ~!」


 得意顔で坂下が言った。

 オイラも期待に胸を膨らませた。


「ほんでほんで、いつどんな状況で聞いたんな?」

「どんな状況って……、そやなぁ~、晩ご飯食べてる時に、お父さんとお母さんに、セックスって何? って聞いたら、二人ともご飯吹き出しとったなぁ~」

「アホやこいつ、ホンマに聞いたんや!」


 と、八男君と後藤君は笑い転げている。


「ほんでご飯食べ終わったら奥の座敷に呼ばれて、お父さんとお母さんが正座してる前にボクも座らされて、説明してくれたねん」

「何て説明してくれたんなっ?」


 八男君は先を急いだ。


「何かな、花びらの中の雄しべと雌しべが受粉して、そんで新しい生命が生まれて来るとか、(なん)かよう解らんこと言うてたわ」

「アホか、そんなもんセックスちゃうわぁ~よ!」

「えっ、ちゃうんけ?」

「ちゃうちゃう、お前親にウソ吐かれたんや!」


 とそんな所に、機嫌よく鼻歌まじりに、自身で作詞作曲した『貯金箱』というややこしい唄を、演歌調に歌いながらある男が現れた。マッサンである。彼も一年ほど前からJFCに所属していた。


「♪おケツの穴にぃ~、

  十円玉詰めてぇ~、

  親父見てくれ、貯金箱ぉ~ぃ♪」

「おう松本、こいつらまだセックス知らんやかぁ~!」

「何よ、面白そうな話やってるやん八男君! ほんで二人に教えたってんけ」

「おぉ、まあな」

「いや、ちゃうんやてマッサン。昨日からセックスについて八男君らオイラらに聞いてくるんやけど、もったいぶって全然教えてくれへんのやしぃ~。だから実際のところホンマは八男君ら知らんちゃうんかなぁ~と思てんねんけど」

「あほか武、知ってらぁ~よ」


 オイラの挑発に八男君は乗ってきた。


「ほな早よ教えてぇ~や!」

「教えたってもええけど、お前らまだ理解でけへんやろ」

「ええよ八男君、知らんのやったらマッサンに聞くから」


 この頃マッサンは、スケベな事に関しては類まれな知識の持ち主だった為、ある方面ではマッサンならぬスケサンと呼ばれていた事もあった。


「わかったわかった。教えたる」


 ようやく八男君がセックスについて語り始めた。


「あんな、お前ら、子供はどうやって生まれて来るか知ってるか?」

「お腹からちゃうんけ?」


 オイラは答えた。


「お前その地点でそもそも間違いなんやんか!」

「えっ、そうなん?」


 オイラはマッサンの顔を見た。マッサンはうんうんと頷いている。彼の頷きは学校の先生のように学識ある頷きだった。


「お前らほなら、女に何個穴あるか知ってるか?」

「お尻の穴、一つとちゃうんけ?」

「アホやのぉ~、ほならオシッコどこから出てくるんな」

「あっ、そうか! ほなら二つやな」

「あほか、女には三つ穴あるんじゃ!」

「えっ、三つもあるんけ?」


 オイラの横では坂下が、衝撃を受けたのか開いた口が塞がらないでいる。


「そや、尻の穴とションベンの穴と、そして第三の穴、オ〇コや!」

「お〇こ……、何かぁ~、おかめインコみたいな響やなぁ~」

「アホなこと言うな」


 そう言う割に八男君はかなりウケていた。後藤君もマッサンも笑っている。坂下だけはまだ衝撃から立ち直っていないのか固まっていた。


「ほんでな、そのオ〇コ言う所から子供が生まれて来るんやが、そやけど子供作らな生まれて来えへんやろ?」

「えっ、子供ってそんなプラモデルみたいに簡単に作れるんけ?」

「お前プラモデルとセックス一緒にすなっ!」


 八男君がツッコむと、坂下以外が笑い声を上げた。笑いが治まるとまた八男君が話し始めた。


「その子供作る作業がセックス言うんや!」

「その作業ってどんな事するんよ?」

「そこやかぁ~い、お前らビックリするぞぉ~! なんとチンコをオ〇コに入れるんやかぁ~い!」

「えぇええぇ~~~~~~っ、マ・ジ・でぇ~~~~っ!」


 衝撃的だった……。チンコをそんな所に入れるなど想像もつかなかった。オイラにとっては徳川幕府崩壊的な、革命的知識を得る出来事だった。

 横では坂下が、信じられないとばかりに開いた口に己の手を当てていた。


「なんや武まだ知らんかったんけ?」

「初めて知った……」


 尋ねて来るマッサンに答えた。


「ほたら今日サッカー終わって家帰ったら、ええ物見せたるわ!」

「ええ物って何よ?」

「まあ楽しみにしとけって」


 マッサンが言った。


「後藤こいつの顔見ってん。あんまりビックリしたんかして、声も出えへんやんけ!」


 八男君がそう言うと、後藤君と二人して笑い合い、


「おい坂下、お前今教えたった事、今日家帰って親にホンマかどうか聞けよ!」


 坂下は声も出さずに目を丸くして頷いた。

 これは後日坂下から聞いた話だが、生真面目な坂下は八男君に言われたまま、


「なあお母さん、チンコをオ〇コに入れたら子供出来るの?」


 と晩飯時に尋ねたらしく、それを聞いた父親と母親は、米粒を互いの顔に噴き出したのだそうだ。こんな事があって坂下の両親は、教育上この地域の学校に通わせるのは問題があると、中学校からは坂下を私立の学校に入学させるのである。

 その日サッカーが終わると、マッサンが秘密基地に案内してくれた。その場所はオイラの家とマッサンの家のちょうど間にあった。シャッター付きのガレージと民家の細い間を通り抜け、野良猫以外は到底入ってこれない場所だった。そこの雨よけ代わりになっている、民家のちょうど炊事場の下には空間が有り、その空間からマッサンは、二千円の量産型ザクのプラモデルの大きな箱を引っ張り出して来た。


「ほら武、好きなん読んでええぞ!」


 マッサンが蓋を開けるとその箱の中には、女の人の裸の写真がいっぱい映ったエロ雑誌がぎっしり収納されていた。


「うわっ、何これェ~っ!」

「どや、すごいやろぉ~!」


 自慢げにマッサンが言った。


「オレの宝物や!」


 確かに凄かった。女の人のあそこの部分と男の人のチンコの部分にはボカシが入っていたが、オッパイはそのまま映っていた。見ているだけでチンコが固くなった。

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