第一章『武士はピンク好き!』 其の一 完遂への帰郷
あれからどれほどの時が過ぎ去ったのだろう……。十数年という久方ぶりの帰郷に就いたせいか、電車が醸し出す「ガタンッ、ゴトンッ!」という音が、「オカンッ、オトンッ!」と聞こえて来る。車窓越しに見える懐かしの風景は、街並みが止まる事なく流れ続ける走馬灯のように映って見えた。
南海なんば駅から準急に乗り込み、電車に揺られること約二十五分、急行が止まる泉大津駅と岸和田駅の間に、唯一準急が止まる小さな駅がある。岸和田の中心からやや西北に位置するこの小さな駅は、岸和田競輪が開催される日には、競輪新聞片手に耳に鉛筆を差したオッサン達が、改札口から蜘蛛の子を散らしたように溢れ出す。
そんな一風変わったこの駅の名は……。
「次は春木、春木に止まります。お降りの際はお忘れ物の無いよう、足元に注意してお降りください。春木、春木に止まります」
(そう、南海春木駅だ!)
電車を降り改札口を抜けると懐かしの風景が広がっていた。その懐かしの風景に浸り、胸いっぱいに懐かしい故郷の空気を吸い込むと、俺は空を仰ぎ大きく伸びをした。
(帰って来た。再び俺は帰って来た! 思い起こせばあの時、俺はある目的を実現する為、男を磨く旅へとこの街を後にした……。そして今それを実現する為に、あれから時が経ったがこうしてこの街に帰って来たのだ!)
踏切を渡り、この思い出ある街を実家に向かって足を進める度、斉藤和義の歌の文句じゃないが、くすぐったい青い記憶が蘇った。
この街を離れた一番近い記憶……。
まだ青臭いオレと粋がっていた、大人への偏見を持ち始めた少し遠い記憶……。
何をやっても楽し過ぎるほど楽しくて、時間は永遠にあるものだと思っていた、ずっとずっと幼き日の記憶……。
その頃はまだサンタクロースの正体が父親だとは知らなかったほど幼くて、本当に世の中にはサンタクロースなる者がいるのだと疑わなかったあの頃、想像するサンタクロースや、お伽話に出て来る妖精でさえ、その余りにたくましい想像力故に、その頃は視えていたのでは? と、いや、サンタクロースや妖精が視えないまでも、少なくともあの頃は、自分の中に棲まい憑く、天使と悪魔の姿ぐらいは視えていたに違いない。薄っすらとそんな気がする。
そんな疑う事を知らなかった頃から少し経ち、サンタクロースの正体が解ってからも、クリスマスが近付くと必要以上に父親に近付いては、勿論その事実を知らない振りをして、
「サンタクロースさん、サンタクロースさん。今年のプレゼントは、仮面ライダーの変身ベルトにしてください!」
などと、天を見つめてそれとなく父親に聞こえるように言ったものだ。だがクリスマスの当日、目を覚まし枕元に置いてあった箱を開けてみると、バックルがチャンピオンベルト程もありそうな、オカンのワンピースの巨大なベルトだったのだ。
(なぁ~ぬぅいぃぃ~~~ッ!)である。
恐るべし両親なのだ。そんな楽しかったあの頃を思い出として語るよりも、その頃に還って物語る事にしよう。オイラと自称していたあの頃を……。
岸和田㊙物語シリーズとは別に、ローファンタジーの小説、
海賊姫ミーシア 『海賊に育てられたプリンセス』も同時連載しておりますので、よければ閲覧してくださいね! 作者 山本武より!
『海賊姫ミーシア』は、ジブリアニメの『紅の豚』に登場するどことなく憎めない空賊が、もしも赤ちゃんを育て、育てられた赤ちゃんが、ディズニーアニメに登場するヒロインのような女の子に成長して行けば、これまでにない新たなプリンセスストーリーが出来上がるのではと執筆しました。