其の三 猿の惑星と睡魔
プールに行ったその日の夜、泳ぎ疲れたあとの晩飯は最高に美味かった。
晩飯を食べ終わった後、今日から夏休みだと思うと、開放感が水泳で疲れた身体をなお元気にさせてくれた。意気込みとしては夜中まで起きているつもりだった。早く寝なさいとうるさく親に言われる事もなく、盆と正月以外の深夜という未知の領域を体験するまたとない機会だった。
PM8時50分、姉ちゃんがゴールデン洋画劇場の『猿の惑星』を見ようと言い出し、
「おっ、いいねぇ~!」
オイラはオッサン臭く言葉を返すと、十分後、8チャンネルでゴールデン洋画劇場が始まった。オープニングソングのミュージックとシンクロする単純なアニメ動画は、愛と涙と笑いが凝縮されたていた。
前説が始まると、本編の映像が部分的に映し出され、それに伴う高島忠夫の解説が、オイラの好奇心をくすぐり、早くも映画の世界へと引き込まれた。
PM9時05分、猿の惑星が始まった。子供の視点から見る猿の惑星は、そんな惑星などこの宇宙にある筈もないのに、さも現実に存在するかのように映って見えて、なんとも言えない不気味さを感じた。
時間が進むにつれ、目も離せないストーリー展開に、しばらくの間、姉ちゃんとのおしゃべりも忘れて映画を見入っていた。
映画がCMに切り替わり、(今だ!)とばかりに股間を押さえてトイレに駆け込み、オシッコを即座に済ませてテレビの前に戻った。
「ここからの放送は、タケダ薬品、JT、日本石油、UCC、花王の提供でお送りします」
ブラウン管からは各提供会社の案内が流れ始め、本編が始まる前だった。
「あんたちゃんと手洗て来たかッ!」腰を下ろすなり姉ちゃんに言われた。
本編が始まり、また猿が登場した。雌の猿の胸だけを見ていると、しっかりと膨らみがあり、人間の女性を思わせたが、胸から上を見ると、やはり猿以外の何者でもなかった。それでも猿の胸に目が行くオイラは、自分自身猿に近いのかも知れない。そんな事を思いながらテレビを見ていたが、30分もしない内にあくびが出始めた。しかしこの時は、身体と気持ちにもまだ余裕があったが、更に5分が経過すると、瞼が心持ちしょぼしょぼし始めた。それでも目を擦りブラウン管と睨めっこして頑張っていたが、更に2分が経過すると、瞼に鉄アレイがぶら下がったように重くなってきた。時折、顔をブルブルと左右に振っては眠気を覚まし、重たい瞼を必死に開いた。しかし瞼を開いても開いても更に鉄アレイの重量が増して行き、
(アカン、アカン! 今日は絶対に最後まで見るんやぁ~ッ!)
と自分にそう言い聞かせたが、オイラの意識とは裏腹に、それから間もなくしてオイラは深い眠りに落ちていった。それからの事は覚えていない。おそらくお母ちゃんか父ちゃんが、オイラを起こさないように抱きかかえ、そぉ~っと布団に寝かせてくれたのだろう……。