其の五 三兎を追う者
またまた好みの女の子と出会ってしまった。これで去年から含めて三人目である。今回出会ったのは大阪のCLUBで知り合った芦屋のお嬢さんであるが、正直言って三人とも性格も容姿も異なった可愛さを持っていて、オレには一人に絞る事は出来なかった。酷い男と読者はお思いかもしれないが、それは間違いである。酷い男とは通常特定の彼女がいる状態で言葉巧みな嘘を吐き、女の子を騙して浮気をする男である。オレの場合はそれぞれ三人に純粋にお前達が皆好きだと正直に打ち明けていたので、酷い男ではなく、それ以上に質が悪い男だった。当然そうなると女の子達のオレに対する独占欲は増す訳で、かといって優柔不断な色事に関しては青く幼かったオレは、あろう事か三人をマウニに呼んで、皆の前で改めて優柔不断な言葉を吐いたのである。
「ホンマぁ~、オレ~、みんな好っきゃねぇ~ん。誰か一人に決めれ言われても無理やねぇ~ん。やから皆でちょっと話し合ってくれへんか?」
明石家さんまの恋愛ドラマでもこうも酷くはないだろう。しかしこれはフィクションでもなく実際にあった本当の話である。人にした事は自分にいつか返って来るとよく言うが、その代償は後に何十倍にもなって返って来る事になる。
三人の話し合いに終着点はなかった。その夜はマウ二で、四人で川の字になって夜を明かした。あくる日マウ二の階段を皆で下りて行くと、ちょうどマウ二に遊びに来た学達に偶然バッタリと会った。学達はそれぞれの女の子を勿論知っていた。それはこれまでにマウ二で何度か顔を合わせていたからだ。しかしその女の子達が勢ぞろいしている事に学達は度肝を抜かれていた。一番の驚きは女の子達がケンカしている訳でもなく、仲良さそうに階段を下りて来た事だろう。その時の学の一言は、
「武くん……、大丈夫なん……?」
である。
何食わぬ顔でオレは、
「えっ、何が? 全然大丈夫やで!」
と一言いうと、
「やっぱ武くんGotやわぁ~っ!」
と、この日以来学達はオレの事を神として崇めた。
女の子達は連絡先を交換し合っていたが、その内連絡を取り合っていたのは二人だけだった。
時は足踏みする事なく前へと進んでいた。桜子のような理想のBAR造りも、仕事の合間をみてコツコツと進んでいた。次の作業は土壁を落して廃棄する作業だった。土のう袋に土壁を詰め込み、一輪車でバッカン車に廃棄していく作業は、ハッキリ言って一人でするには過酷な作業だったが、近所に住む大学生の池内と隆作は暇があれば作業を手助けしてくれた。二人への報酬は、その日の作業が終わると飲みに連れて行ってやる事だったが、彼らはそんな些細な報酬だけでも喜んでくれていた。
錯綜する出来事の中で、日々と共に移り変わりゆく日常の変化は女の子達にも表れた。
まず結婚式の二次会で知り合った女の子が、先の見込みのない恋愛に去って行き、続いて芦屋のお嬢さんは、
「私やなかったんやね……。残念やわぁ~……」
と別れを告げてオレの許から離れた。残された一番付き合いの長かった女の子とはしばらく続いていたが、やはり縁がなかったのかそれから間もなくして別れた。しばらくしてその女の子は、後に付き合った人と結婚したのか、挙式で幸せそうに映るポストカードを送って来た。
(幸せになったんやなぁ~)
とオレは喜んでいたが、オレの周りの女友達から言わせると、それは当てつけに送って来たんやでと言っていた。女心はとにもかくにもオレには理解不能な未知なる領域だった。