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其の十六 タイヤだんじりレース!

 昼の曳行が終わり、オレ達は提灯の段取りを即座に済ませてロケ班が到着するのを待っていると、ロケ班到着の前にまずはADさんが走ってやって来た。そしてロケ班が到着するまでにこれに目を通しておいてくれと台本を渡された。内容は単純なストーリーだったが、そのセリフを一つ一つ覚えるには時間がなさ過ぎた。そこでオレはADさんにセリフはアドリブで良いかと尋ねると、OKとの事だったので、あらましのストーリーを頭に叩き込んでロケ班到着の時を詰所で待っていた。しばらくするとロケ班がカメラを回しながら到着し、


「団長、団長さんはいらっしゃいますか?」


 と、大仰に東野幸治がオレの役職を叫びながら詰所に入って来たのである。

 詰所の中心部にはパレードで使用された、くにたんやマッサン達年上が作ってくれた垂れ幕が飾られていた。それを逸早く見つけた東野幸治が、


「ひと味違うこの男、八幡町青年団、団長、山本武!」


 と大きな声でこれを読み上げた。


「なんやぁ~、どないしたんやぁ~!」


 と、ここでオレの登場である。


「あ、これはこれは団長さん!」


 と東野幸治。


「あのぉ~、団長さんにお願いがあって伺わせて頂いたんですが……」

「お願いてなんやぁ~?」

「実はだんじりを皆で曳かせてもらいたいなと思いまして……」


 台本ではここでオレがキッパリと断る事になっていた。なのでオレは大仰に、それでいて吉本新喜劇並みのアドリブを効かせた。


「アっカぁぁぁ~~~ンよ!」

「うわっ、ミヤコ師匠バリのアカンよやなぁ!」


 と今田耕司のツッコミが炸裂。


「そこをなんとか曳かせて頂けないでしょうか?」


 と東野幸治。

 ここでまたまたオレのセリフである。


「よっしゃ、わかった。ほたらレースしよ! それに勝ったらだんじり曳かしちゃるわ!」

「レース?」


 と東野幸治と今田耕司。


「そや、タイヤ引っ張ってどっちが先にゴールするか、タイヤだんじり対決や!」

「おいお前ら! レースで勝ったらだんじり曳かせてもらえるねんて、皆やるか?」


 と東野幸治が今田耕司初めとする生徒達に告げると、男組軍団は俄然ヤル気を見せた。

 ここで一旦カメラが止まり、宮入りをした弥栄神社に場所を移した。

 タイヤだんじりはあらかじめ連絡が入っていたので、5、6人程度で曳ける物を二つ用意していた。ここで再びカメラが回った。


「瀬尾は男組メンバーなのでこちらにもらいますよ!」


 と東野幸治。


「どうぞ、どうぞ!」


 とオレ。


「レースのルールを説明してもらえますか?」


 と東野幸治。


「ルールは至って簡単! タイヤを引っ張ってあのコーンを回り、再びこのスタートラインに先に戻って来た方が勝ちです!」


 とオレ。

 そしていよいよレース本番。八幡町青年団チームはタイヤの上にオレが乗り、引綱はゴレンジャーの覆面を被った三浦やブチそして学達の五人である。そんなゴレンジャーを見て、


「八幡小ネタやぁ~~ん!」


 と今田耕司がぼやく。

 対する男組メンバーのタイヤの上には東野幸治。そして引綱には今田耕司と瀬尾率いる男組のメンバーが、若干八幡町青年団を上回る人数で引く準備をしていた。


「それでは位置について、よーい、ドン!」


 スターターピストルの耳を劈く火薬の音が境内に響くと、各タイヤが見事なスタートを切ったが、青年団は日頃からタイヤを引いて足腰の鍛錬がなされていたので、早くもスタート地点から一メートル過ぎた所で更に加速をつけてロケットダッシュを繰り出した。オレ達は折り返し地点のコーンを回るが、男組はまだ折り返し地点には程遠かった。結果は見事な八幡町青年団の圧勝で終わった。

 場面が替わり、レース後のインタビューをしようと東野幸治と今田耕司が並んでいる所、


「団長さん。勝負の結果はこういう結果になりましたが」


 と話しかけられた時に、オレはアカレンジャーの覆面を被って二人の間に登場した。すると今田耕司に、


「お前もかいッ!」


 とツッコミと同時に見事な張り手がオレの頭を直撃した。オレは仮面を被ったまま頭を押さえて大仰に痛がる仕草をとった。(実際にプロのツッコミ張り手は腹の立つぐらいにずっしりと重く、それでいてバシッといい音がした)


「この町八幡小ネタばっかりやぁ~~~ん!」


 と更に今田耕司がぼやく言葉を吐き、一旦神社での収録を終え、再びロケ現場をだんじりが止めてある紀州街道へと移った。

 男組のメンバーが整列した所で再びカメラが回った。


「いやぁ~団長さん。今日は勝負に負けてしまったので、だんじりは引かせてもらえないようなのでこのまま帰ろうと思っているのですが……」


 東野幸治のセリフである。


「いや、でも今日は皆さんよう頑張ったので、だんじりを引いて帰ってもらおうとちゃんと用意しておりますよ!」


 とオレ。


「えっ、本当ですか団長さん」

「はい、こちらです!」


 とオレは、少し離れた場所に置いてある直径50センチ程の子供だんじりを手の平で指した。


「えぇ~~っ、これですかぁ~団長さん?」

「はい、これです!」


 子供だんじりには三メートル程の引綱も括り付けられていた。


「おいお前ら、団長さんがせっかく用意してくれはっただんじり、引いて帰ろかァ~!」


 と東野幸治が男組のメンバーにそう言うと、男組のメンバーは含み笑いで綱に群がった。


「ほなお前ら行くぞぉ~!」


 と東野幸治率いる男組メンバーが、


「そうりゃ~! そうりゃ~!」


 と子供だんじりを引いて和歌山方面へ向けて去って行く所でロケは終了したが、子供だんじりはこけながら引きずられるように前へと進んでいた。夕飯前の収録である。

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