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其の十三 宮入り

 祭り二日目、本宮と呼ばれるその日、宮入りに向けての曳行が始まった。宮入りの順は毎年異なっているので、各町宮入りの順番が回って来るまでは、曳行を調整してそれに備えるのだが、この年八幡町は宮入りの順番が遅かったので、それまでの時間春木駅前で遣り廻しをして時間を調整し、時間が近付くと先に宮入りする町の(ケツ)に並んで本番の時を待った。そして先を行く宮川町がそろそろ弥栄神社を出るという連絡が入ると、いよいよ八幡町の順番が回って来た。男達は、


「行こかァ~いッ、行こかァ~いッ!」


 と威勢のよい血気盛んな声を張り上げ、これから行われる遣り廻しに己の意識を高めていた。

 綱が張られ、停止線位置までだんじりが出され、いよいよ本番の時がやって来た。直角に折れ曲がった綱が軋み緊張が走った。青年団が頭を下げてオレの笛の音を待った。次々に追い役がうちわを上げた。オレは全体を見渡し、そして右手のうちわを上げた。全ての準備が整った所でオレは笛を吹いた。神社前の坂道にオレの笛の音が響き、続いて太鼓が刻み直された。そのリズムに合わせて綱を引く青年団の片足が前に出た。だんじりが動き出す。凄まじいスピードで動き出す。緞子(どんす)の者達がインに入り、綱が一本の力綱に替わると、坂を上り切るまでがむしゃらに頭を下げて青年団が綱を引いた。だんじりが向きを変え坂道を上り、それでもなお青年団は力いっぱい綱を引いた。だんじりが坂を上り切ると足を止めずに青年団の頭が次々に上がって行った。喜びの瞬間である。追い役はうちわを使って全身で喜びを表現し、花道を作ってくれているギャラリーもまた、拍手と歓声で宮入りして来た町を祝福していた。

 前回にも述べたが、元々岸和田祭りは五穀豊穣を祈願し行った稲荷際が始まりとされているが、その稲荷際のルーツを更に遡って詳しく述べると、岸和田藩主岡部の殿様が、町民達に野菜や米などを献上させるのに、荷車に乗せて競わせ、一番に城に到着した者に褒美を取らせたのが始まりとされている。それが現在の岸和田祭りに進化して行ったのだが、だんじりを宮入りさせて五穀豊穣と曳行の無事を祈願してもらうという意味では、岸和田祭りでは宮入りが一番の意味あるイベント事かもしれない。

 そんな宮入りでの祈祷の為、この年は団長をしているので、宮入りでの青年団の休憩に参加出来なかったが、祈祷が終わり青年団が円になって休憩している所へ戻ってみると、例年のように青年団は面白おかしく騒いでいた。いつもならオレと学そしてイサム君とが、自宅が神社の裏と近いので、タンスの引き出しからオカンの下着を持ち出し、その青年団の輪の中でオカンの下着を着けて芸をするのだが、この年は若き学にその主役の座を譲った。そんな休憩が終わると宮を出て通常の曳行に戻るのだが、宮を出る際に行う八幡公園横の遣り廻しが春木の祭りでは見物でもあった。特に八幡町は宮も公園も自町なので、どの町よりも上手く行わなければいけないという自覚があるだけに、失敗は許されなかった。坂から少し勢いを付けて行う遣り廻しは、この年もスピードが乗った気持ちの良い遣り廻しだった。

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