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其の六 午前0時のサンタクロース大作戦!

 各町によって多少の名称や年齢は異なるが、だんじり祭りの各町を構成している団体には、大きく分けて上から組織図を述べると、町会(67歳前後まで)、世話人(57歳くらいまで)、若頭(47歳くらいまで)、十五人組(37歳くらいまで)、青年団(27歳くらいまで)のこの四つの団体で構成されている。

 ある日曜日の夕方、オレは若頭の責任者と十五人組の組長に食事に誘われた。祭りに向けて直接だんじりに携わっているこの三団体の長で、祭り前から親睦を深めておこうという食事会である。若頭の責任者とはこのとき話すのが初めてだったが、十五人組の組長は面識があった。中学の時分に忠岡連中が八幡町を曳いた際、貸しハッピを貸してもらった事がきっかけで、その後顔を合わせて話をする事があったからだ。

 食事が始まるとたわいもない世間話から徐々に祭りの話しに切り替わり、酒もまたそれぞれに勢いという力を与えると、各自が祭りに対する思いを語り始めた時、オレは先輩方二人に腹立たしさを感じた。それはお二方が語ったこの年の祭りに対する思いが、オレとは対照的に守りに入っていたからである。詳しく述べると、自身が責任者をするこの年は、何事もなく無事に曳行を終えたいという気持ちを語った所まではよかったのだが、その後に続く言葉の中でオレが感じ取ったのは、穏便に事が過ぎ自身の名聞を守れるのなら、無難な祭りをしてこの年を乗り切りたいというものだった。そして更にオレにその協力を求めて来たのがなんとも腹立たしかった。そこでオレはこう言ってやったのである。


「若と十五人組がそういう祭りをしたいのなら勝手にすればいい。しかし青年団はこの年の祭りは、これまでで一番の祭りやったと皆に言われるようなそんな祭りをします!」


 この言葉に二人は面を食らっていた。だんじり祭りとは本来、その年その年、


「あぁ~、今年もええ祭りやったなぁ~!」


 と皆が喜べる心に残る最高の遣り廻し、そして遣り廻し以外にも人と対話し、酒を酌み交わし、時には羽目を外し、これまで以上に楽しい思い出を作らなければいけないものである。祭りが始まる前から守りに入り、これまで以上に高みを目差さなければ何が祭りと言えようか! オレの本質を突いた言葉に二人はしばらく黙って考え込んでいたが、


「武、すまんかった。どうやら俺ら歳いったせいか守りに入ってたわ。そやの、武の言うように、これまでで一番のええ祭りになるよう俺らも頑張るわ!」

「おう、俺らも青年団が最高の祭りを出来るよう、後ろから支えるわ!」


(十五人組は後ろ梃子だけに後ろからかかぁ~い! 上手いこと言いよるなぁ~)


 とこのときツッコんでやろうかと思ったが、場の空気を読んでそれは止めておいた。

 そんな話し合いが行われたその夜、寄り合いである出来事が起こった。それは青年団の若者が八幡町内にある、とある団地に花寄せに行った時の事、その団地の住民達から、


「内は八幡町に花を渡しません」


 と断られたというのだ。普通に花を断るのではなく、どのお宅も怒りをむき出しに断って来たという。その報告があった直後、町会を牛耳っているあるオッサンが青年団の詰所に怒り奮闘でやって来て、


「お前らあの団地に花寄せに行くなよッ!」


 と言って来たのだ。


(これは何かある?)


 と名探偵山本コナンはこの時ピンをきた。その事情をオレは独自のルートからすぐに入手した。その内容とは、これまで町会が同じ八幡町にも拘らず、その団地を村八分にして来た事、そしてその団地に住む子供たちまでだんじりを曳かせないようにしていた事などなど、聞けば聞くほど人としてあるまじき行為だった。大人達の軋轢(あつれき)に子供まで巻き込んでいるのは許せなかった。子供には何の罪もないのである。だんじりを曳きたくても曳けない子供がいると知ったオレは、即座に青年団を集めてこう言った。


「ええかお前ら、あの団地にはだんじりを曳きたぁ~ても曳かれへん子供らが町会と親のいがみ合いでたくさん居る。町会がこれまであの団地にやってきた事で、あの団地の親らが怒るのも当然の事や! そやからいうて子供らには何の罪もない。ええかお前ら、あの団地の住人らに青年団は町会と違って何の一物も持ってないいう所を解ってもらわな、いつまで経っても子供らがだんじり曳かれへん。そこでや! 今日の十二時回ったら、あそこの二棟ある団地の全ての家の扉の前に、花の返しの粗品そっと置いて来い! 名付けて『青年団サンタクロース大作戦』や!」

「そやけど町会のオッサンら、あそこの団地に行ったらアカンて言うてたのはどないするん?」

「心配すんな、町会のオッサンらが何を言うて来ようがすべてオレが責任を持つ! そこはオレに任せとけ!」


 こうして八幡町青年団は深夜の十二時を回ってから百二十世帯の各玄関扉の前に、八幡町青年団と書かれた粗品のティッシュペーパーの箱を置いて回ったのである。

 あくる日さっそく嬉しい出来事があった。寄り合いが始まり少し経つと、子供の手を引いたあの団地に住むとあるお母さんが、青年団の会館まで足を運んで来てくれ、


「町会には花はしませんけど、青年団の方たちは応援していますので……」


 と言って、花(寄付金)を持って来てくれたのだ。近い将来、その手を引かれた子供やあの団地に住む子供たちが、笑顔で八幡町のだんじりを曳いてくれる、そんな第一歩になったような気がした。

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