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第三十五章『挨拶代わり!』

 年が明け、オレ達は旧会館で顔を合わせて話し合っていた。メンバーは一学年上のマッサン、伊戸ちゃん、とっちゃん、そしてオレである。


「そやけど自町で一学年上は三人しか居らんのやから、この中の誰かが団長いかなしゃあないやろ」


 オレの言葉に、


「俺、二年連続はいややで」


 と、とっちゃんが言った。


「となるとマッサンか伊戸ちゃんやなぁ~」


 またまたオレが言葉を吐くと、


「マッサンやってよ」


 と伊戸ちゃんが言った。


「俺は団長っていうキャラやないよ! 俺は裏方でサポートする方が性に合ってるわ。伊戸お前やれよ!」


 マッサンが言うと、


「武が副団やってくれるんやったら俺やるわ」


 と伊戸ちゃんがすんなり言った。

 岸和田祭りで青年団の団長をするには、おおよその適齢期があり、この頃は基本的に自町に住んでいる者に限るといった制限もあったので、青年団にその年適任の学年がいなければ、とっちゃん達のように二年連続で、その学年の誰かが団長をしなければいけないという事態が起こるのである。オレはこの風習に疑問を抱き始めていた。後にオレはこの風習を改善するのだが、ここではサラッと流しておこう。


「よっしゃわかった! ほなオレ、マッサンと二人で副団して伊戸ちゃんサポートするから、しっかり団長したってや!」

「わかった。頑張るわ!」


 こうした話し合いが行われたのが、祭りが始まるおおよそ七ヶ月前の事である。そして九月に入り寄り合いが頻繁に行われているある夜、


「武、大阪のCLUBで知り合った神戸のチーマー軍団なんやけど、今年の祭りに呼ぼうと思てんねんけどかめへんけ?」


 と伊戸ちゃんから相談があった。


「おぉ~、ええやぁ~ん。全然大丈夫やで」


 これまでマッサンと行って来た青年団を活気づける活動は、オレ達以外にも見事に浸透していた。


「そこでお願いがあるんやけど……」

「何よ改まって」

「その軍団の中でも俺の知ってるのはリーダーのヒロキっていう奴だけやねんけど、なにせ血の気の多い奴が二十人ほど来るから、色々と武に面倒みておいて欲しいなと思って……」

「なんやそんな事かい。任せとき! みなオレが(まと)めたるよ! ところでそのヒロキっていう子は幾つなんよ?」

「俺より二つ下やから……、武の一っこ下やな」

「了解! 楽しい祭りにしようぜ!」


 そして祭り本番、神戸から元気の良いチーマー軍団が二十人ほどばかし来たのである。腕には漫画『クローズ』に登場しそうなタトゥーを入れた奴らばかりである。ヤンチャな奴は大好きである。それでいて面白い奴はもっと好きである。中でもガンジと呼ばれるスキンヘッドの男は、バンド(ヘビーメタル)のボーカルをしているらしく、非常に元気があって面白い男である。祭りの休憩時間に宴会になれば、率先してチンコを出して芸を披露していた。そんな中、軍団のリーダーヒロキと休憩時間に、二人で公園の横道を歩く機会があった。別段ヒロキ達が粗相をした訳ではなかったが、なんというか、男同士の挨拶代わりである。


「ヒロキ、オレはお前らみたいなヤンチャな連中は正直いうて嫌いやない! そやけどヒロキ、お前らは今年祭り曳くのん初めてやろ」

「うん」

「お前らは客人として接してもらってるからまあそんな事は起これへんと思うけど、団体で祭りしてると色々ともめごとも起こって来るもんや。そやからいうてもし気に食わん奴が居っても、絶対にお前らもめごと起こすなよ! そういう時はオレに言うて来い。もし万が一お前ら暴走して勝手にもめごと起こしたら、その時はオレがお前ら潰すからな! わかったな!」


 ヒロキはオレの目をジッと見据え、


「うん。わかった。なんかあったら一番先に武くんに言うわ!」


 と、ヒロキもアウトローな男だけに、オレの心の内をすぐに理解してくれた。

 この年から祭りに参加した人物はヒロキ達だけではなかった。オレの無二の幼馴染タッケンである。これまでだんじりを曳いていたのは磯ノ上町だったが、タッケンは全国大会が終わった約二年前からちょくちょく八幡町の寄り合いには遊びに来ていた。自身も日頃から遊ぶ仲間内と祭りをしたかったのか、自町でもある磯ノ上町を離れる踏ん切りがつくのに二年かかったのである。タッケン、ヒロキ達の導入により、この年、青年団約九十名と、着々と活気づいた八幡町青年団の形が出来上がって来たのである。

 祭りには参加していなかったが、この年、寝屋川から瀬尾も岸和田祭りを見物に来ていた。

 瀬尾もまたタッケンと同じく、岸和田に遊びに来た時には、寄り合いがあるとよくオレに付いて来ていて、八幡町青年団の若者達とは面識があった。瀬尾の温厚な性格は皆に好かれ、中でもオレの近所に住む学年は三つ下の(まなぶ)と大層気が合ったらしく、二人は兄弟のように仲が良かった。ここで学の事を詳しく紹介しておくと、JFC時分からオレのサッカーの後輩でもあり、明るい性格を更に通り越したその性格は、祭りになると一発芸で人を笑かすのが好きな男なのであるが、彼の持ち芸は海老チンチンという海老の頭を亀頭の上に被せ、独自のテンポで素っ裸になり踊り出すといったものだった。

 青年団では祭りの各休憩の際に、飯を食い酒を飲み宴会が盛り上がって来た所で、新団一年目に属する者達が、皆に顔と名前を覚えてもらうのを兼ねて、考えて来た芸を披露するのだが、八幡町では学のように青年団に入って七年目になっても自ずから芸を披露する、いわゆる芸達者と呼ばれる連中が健在していた。人が集まる前ではアホな事をせずにはいられない性格の持ち主達である。その中でも八幡町の三天王と呼ばれるべき存在の一人が学、そしてあの小学校時分に、JFCで校舎の屋上にドッチボールを乗せてキャプテンを降ろされたイサム君、そして八幡町のココリコ遠藤ことオレである。(ある時はアランドロン、そしてまたある時は徳永英明、そしてアホな事を率先してする時は、ココリコの遠藤によく似ていると言われていたのである)

 オレ達三天王は祭りが始まるずっと以前から、


「今年は何をやる?」


 と算段を立ててこれまでアホな事をして来た。そんな八幡町歴代のおもしろ芸の中でも『ウォシュレット』という名の芸は、ピコレットのテレビCMソングを、


「慌てちゃいけな~い。慌てちゃいけな~い。でぇ~ものんびりとしってら~れない!」


 と二人して歌い出し、


「ズボン脱いで! サーッ!」


 のタイミングで片方がパッチ(祭りのズボン)を脱ぎ、


「パンツ脱いで! サーッ!」


 と続けざまにパンツ(下着)もズリ下ろして尻を出し便器に座る格好をとった所で、もう一方がビール瓶をラッパ飲みで口にビールを含み、尻の真下に顔を持って行き、


「シャシャシャ、シュシュシュのススス~ぅ!」


 のタイミングで、口に含んだビールをウォシュレットのように尻の穴目掛けて一気に噴き上げるといったものである。


挿絵(By みてみん)


 勿論その尻を洗浄した液体は噴き上げた人の顔に無残に掛かるといった芸なのだが、なかなかこれは体を張った芸で評判が良かった。


 古典的なものでは、『ベンベン』という芸がある。これは講釈師(講談師)のように正座をして、片方の手には張り扇がわりに祭りのうちわを持ち、


「ベベンベンベン!」


 とうちわで釈台を叩くように地を叩いて調子を取りながら、


「時はセンズリ元年さね(あかつき)の頃!」


 と、講釈師見て来たような嘘を言うように始まり、


「ベンベン!」


 と観衆の合いの手が入る。


「江戸城内を荒らしまくるはマンコしたいとその一味!」

「ベンベン!」(観衆の合いの手)

「それを捕らえんとチンタ(むく)れの(かみ)とその配下!」

「ベンベン!」

「チンタ危うきとみるや、衛生サックをスポリと被り」

「ベンベン!」

「マンコ危うきとみるや、月経街道北へとまっしぐら」

「ベンベン!」

「チンが勝つかマンが勝つか! チンかマンかチンかマンか……チンカマンカ! チンカマンカ! ……」


 と音頭を取りながら、


「はぁ~あ~、春はよいよぉ~い! ちょいと桜の下ぁ~で!」


 と東京音頭の替え歌が始まるのである。


「ハァ、よいよぉ~い!」(観衆の合いの手)

「桜かきわぁ~け、桜かきわけ真ん中でぇ~、そぉ~っと入れたらよいよいよぉ~い! ググぃ~っと入れたらよいよいよぉ~い!

 お(っと)ちゃんもお(っか)ちゃんも、元気出して元気出して!(間奏)

 はぁ~あ~、夏はよいよぉ~い! ちょいと海水浴ぅ~で!」

「ハァ、よいよぉ~い!」

「波をかきわぁ~け、波かきわけ真ん中でぇ~、そぉ~っと入れたらよいよいよぉ~い! ググぃ~っと入れたらよいよいよぉ~い!

 お父ちゃんもお母ちゃんも、元気出して元気出して!

 はぁ~あ~、秋はよいよぉ~い! ちょいと紅葉の下ぁ~で!」

「ハァ、よいよぉ~い!」

「紅葉かきわぁ~け、紅葉かきわけ真ん中でぇ~、そぉ~っと入れたらよいよいよぉ~い! ググぃ~っと入れたらよいよいよぉ~い!

 お父ちゃんもお母ちゃんも、元気出して元気出して!

 はぁ~あ~、冬はよいよぉ~い! ちょいと炬燵(こたつ)の中ぁ~で!」

「ハァ、よいよぉ~い!」

「布団かきわぁ~け、布団かきわけ真ん中でぇ~、そぉ~っと入れたらよいよいよぉ~い! ググぃ~っと入れたらよいよいよぉ~い!」


 これ以外にも『日本一の洗濯屋』『オバQ』『チャーリーブラウン』学の『海老チンチン』『パルナス』などなど、酷い時などオカンの下着を持ち出し、それを穿いて宮入の休憩で披露する時もあった。まあこれも祭りの一環である。


 話を戻そう。この年瀬尾は祭りこそ参加しなかったが、祭りの楽しさを肌で感じ、祭りが終わった際に、


「瀬尾、来年はお前も祭り曳いたらどないな?」


 オレが誘うと、


「うん。めっちゃ楽しそうやし、俺、来年は絶対祭りに参加するわ!」


 とこう言った。

 しかし生真面目な瀬尾は祭りだけ曳かせてもらうのは気が引けると、この年の祭りが終わると岸和田に越して来て、一年間を通じて祭りに参加する事になるのである。因みに岸和田で自立するまでの一年間は、オレの家で共に暮らす事になるのだが……。

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