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ピンチな解呪  作者: 碧衣 奈美


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プロローグ-竜の里

 竜達が日々をのんびりすごし、暮らす場所。それが、竜の里だ。

 頂上が雲に隠れて見えない山。

 対岸がかすむ湖。

 濃い緑を茂らせる木々が延々と続く森。

 火の山や雪原、海へとつながる大河。

 朝日に輝く大地は、視界におさまらない。

 竜達は、それぞれが思い思いの場所で自由に暮らしていた。

 竜の里にはどれだけの数の竜が存在しているか。誰も数えたことがないのでわからない。

 人間が作る小さな町の人口くらいはいるだろう。

 誰がそんなことを言ったのか定かではないので、真偽は不明だが……とにかく、広い土地にたくさんの竜がいる。

 ブライゼは、そんな竜の里で生まれ育った。

 黒曜石のように光沢のある黒いうろこで全身が覆われ、身体の中で唯一色の違う瞳は、明るいエメラルドグリーン。しなやかで美しいその身体はおとな並に大きくなったが、まだ若い竜だ。

 他の竜達と同じように、水辺や木の陰などでのんびりと毎日を送っているブライゼ。お前がのんびりしているのを見ると、なぜかだらだらしているように思える、などと悪友に言われたりもするが、それはお互い様だと気にしない。

 そんなブライゼには、弟がいた。

 双子のデリアートとビアルズだ。

 普段は自分達だけだったり、近い年頃の竜と遊ぶのだが、時々ブライゼにも遊んでくれ、とねだってくる。

「ねー、おにーちゃん、あそぼー」

「あっちの森、いこーよー」

 兄と同じ黒い身体に、兄より少し色の薄い瞳。そんな若草色の瞳をきらきらさせ、弟達はブライゼを誘う。

 人間から見れば馬三頭を並べたより長い身体の彼らだが、ブライゼから見ればまだ自分の半分くらいの大きさしかない幼い竜達である。

「んー、また今度な」

 ブライゼはそう言って、弟達の誘いを断る。

 特に子どもが嫌いな訳ではないが、好きでもない。たまーに気分がのれば遊んでやらないでもないが、だいたいこんな返事だ。

 人間なら、一回り近く年の差がある兄弟。彼らといると、遊ぶと言うよりほとんど子守になってしまうのだ。

 子守なんて、正直疲れるばかり。ブライゼはのんびりすごす方が好きなので、どうしても断ってしまう。

「ちぇーっ」

 これ以上しつこくねだっても、同じ応えしか返ってこない。

 それを知っている弟達は、頬をふくらませて不満そうにしながら去るのが常である。

 いつものことなので、ブライゼも弟達の様子を気にすることはなかった。

「あー、いい天気だな」

 春になり、色とりどりに花が咲き乱れていい香りが広がり、太陽もちょうどいい暖かさの陽射しを地上へ向けてくれる。

 ブライゼは大きなあくびを一つして、木陰でうとうとし始めた。

 いつものように……。

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