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4 ソフレじゃなくなっても

「今日、サークルの女の子達が永井君のことで騒いでたよ」


 今日も私は永井君の家に眠りに来ている。

 で、今日のことを話してみたんだけど永井君はピンときてないみたいに首を傾げている。


「かっこよくなったって言ってたよ。コンタクトにしてよかったね」

「そうなんだ」


 わかってないのかと思って、わかりやすく言ってみたんだけど反応は薄い。


「永井君と付き合いたいって言ってる子もいたよ」


 あまりに反応してくれないから、私はムキになって言った。本当はこんなこと言いたくないのに。


「俺と?」

「あのさ、もし好きな子が出来たらちゃんと言ってね。今はまだそんな気持ちにならないかもしれないけど。そのうちってことはあるでしょ? 相手がいないならいいけど、こんなのきっと相手がいたら嫌がられるに決まってるし。そしたら、私……」


 言葉に詰まった。

 ソフレなんてすぐに止めるから、って言いたかったのに。迷惑は掛けないからって言うつもりだったのに。

 思っていたよりずっと、永井君の側は居心地が良かったみたい。

 さみしいのかな、私。この関係が終わるのが。


「何? 俺に彼女が出来たら、今度は別の男とソフレになるってこと?」


 思わず言葉を失う。

 そういう選択肢もあったのかって、今気付いた。

 考えもしなかった。


「嫌だからな、俺。そんなの」

「え?」


 永井君、何を言いだしてるの?


「嫌ってどういうこと? もしかして、ソフレとしてすごく良かったってこと? え、でもダメだよそんなの。ちゃんとした相手がいるのにこういうのって」

「違うって、そうじゃなくて」


 永井君は頭を抱える。


「大丈夫?」

「ああ」


 永井君がさみしそうに笑う。


「宮里さんにとってはそういう関係だったんだな。けど、ただのソフレだもんな。しょうがない」

「しょうがないって、何が?」

「……それは」


 今度はため息を吐く。それから言った。


「彼女が出来たらって言うけど、俺にはそんなつもりないから。本当に気付いてないんだね。俺、ずっと宮里さんが好きなんだよ」

「好き? 好きって、私を? ずっと、って?」

「ソフレになる前から」

「え、え? いつ?」

「サークルに入ったばかりの時」

「そんな前? それって大学入ったばっかりじゃん! どうして?」


 突然の告白に頭が混乱する。


「俺、人に話し掛けるの苦手だからすごく困ってたんだ。それに根暗っぽい見た目だから、誰も話し掛けてくれなくて。でも、宮里さんは普通に話し掛けてくれたんだ」

「そうだっけ」


 そんなこともあった気がする。私もサークルに入ったばかりの頃は緊張してて、出来れば色んな人と仲良くなりたいなって話し掛けてたのは覚えてる。

 だけど、そんなことを覚えてて、それで好きになってくれたの?


「そうだよ。それで緊張がほぐれて他の人とも話せるようになったんだ。だから、ずっと感謝してる」

「そんなこと。私、大したことしてないのに」

「いいんだ。俺には大したことだっただけだから。それに、ここまで来たら言っちゃうけど」

「まだあるの?」

「俺が彼女に振られたってのも嘘」

「え、ちょ……。なんでそんな嘘!?」

「だって、普通にソフレになってくれって言っても断られそうだったから。それなら、同じような境遇だって言った方が親近感湧くかなって」

「なにそれ、ずるい」

「だよな。でも、必死だったから」


 なにそれ。なにそれ。

 本当にずるい。


「だから、俺が好きになったのは宮里さんが初めて」


 はにかむように笑うのもずるい。


「チャンスだって思ったんだ。話し掛けることすらなかなか出来なかったのに、逃がしてたまるかって思った。でも、迷惑だったらしょうがない。好きな子の負担になりたくないもんな。今日はこのまま帰って……」

「迷惑なんてそんなことない」


 私は永井君の言葉をさえぎるように言った。永井君がきょとんとしている。


「初めて好きになった人は違うけど」


 それは、ちょっぴりさみしいけど。


「私が今好きな人は永井君だよ」


 今度は永井君がびっくりした顔をしてる。


「宮里さん、俺のことただのソフレだと思ってたんじゃないの?」

「それはこっちのセリフ! ずっと私のこと好きだったなんて知らなかったんだから! というか、それで手出さずに我慢してたの? ちゃんと寝れてた?」

「う。……それは。実は、あんまり寝れてませんでした……。だって、好きな女の子が隣に寝てるんだから……。それに、恋人でもないのに手なんか出せないし……」


 しゅん、と子犬みたいにうなだれる永井君も可愛い。というか、なんていい人なんだ!


「じゃあ、安眠できてたの、私だけってこと? 言ってくれれば良かったのに。それ、ソフレの意味無くない?」

「じゃあ、最初に素直に言ってたら、俺のこと好きになってた?」

「それは~」


 私は目を泳がせる。


「段々好きになったというか、最初だったらちょっとわからなかったというか……」


 私の言葉に永井君がため息を吐く。


「それ、素直に言わなくてもいいのに……」

「別にいいでしょ。今は永井君が好きなんだから」

「そうれもそうか」


 ぱっと輝くような笑顔になるのも子犬っぽい。単純というかなんというか。


「じゃあ、今日からは恋人として寝てもいいってこと?」


 って、何を言い出すの! この子犬君は!

 でも。

 こくりと私は頷く。


「やった!」


 本当に嬉しそう。


「それなら俺も安眠出来そうだし」

「もう!」

「あ、でも、宮里さんは大丈夫? 俺がソフレじゃなくて恋人になっても安眠できそう? いきなり眠れなくなるとか無い?」

「当たり前でしょ。ソフレだからじゃなくて、永井君の隣だから安心して眠れてたんだから。彼氏になっても変わらないに決まってるでしょ?」

「そっか」


 たった今ソフレから私の彼氏になった永井君は、照れくさそうに笑ったのだった。



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