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1 状況がわからないんですが

「最近よく眠れなくてさ」

「えー、不眠症? 大丈夫?」

「あ、彼氏と別れたって話? 一人だと眠れないってこと?」

「まあ、そう」

「わかるわかる。さみしくてしょうがないよね」

「他に彼女が出来たんだっけ?」


 お酒が入っているからか、周りの友人達の言葉はストレートで容赦が無い。眠れないって話をしただけのに、すぐに恋愛話に食いついてくる。みんな、そういうの好きだから。


「って、梨奈(りな)の元カレってさ、あそこにいる先輩だよね?」

「え、新しい彼女って浮気されたってこと?」

「かっこいいけど、浮気かあ。それは嫌だな」

「今度は同じ学年の人らしいよ。並んで歩いてるの見たことある」

「ちょっと、そんな大きい声で話してたら聞こえるじゃん」


 お酒って、無駄に気を大きくさせる。いつもよりみんな声がでかい。

 周りもだから、私たちの声が紛れているといいんだけど。

 本当に聞こえているだろうかと思って、思わず先輩を見てしまう。目が合う。きまり悪そうに目を逸らされる。

 こっちだって、目なんか合わせたくない。

 それなのに、大学の同じサークルなんかに所属しているからどうしても顔を合わせてしまう。大きめのサークルで人数も多いから、意識しなければ視界に入らないのはいいんだけど。それに女子だけでこうして騒いでいてもいいのは気楽だ。

 それでも、やっぱり顔を合わせるは気まずい。楽しいからって誘われて断り切れなくてこうして来てしまったけど、やっぱり断ればよかった。

 ただ、私の方だけサークルの仲のいい友達との交流に支障が出るのはなんだか癪に障るから、当てつけみたいに来たってのもあるけど。だって、先輩も何食わぬ顔をして参加している。


「いいのいいの。別れたのはもういい。ただ、ちょっとさみしいだけだから」

「人肌恋しいってやつ?」

「確かに、いきなり一人で寝ろとか言われてもさみしいのわかるわ」

「ねー、誰かが隣で寝てくれてるのに慣れちゃうとねー」

「梨奈も早く新しい彼氏作ったら?」

「うーん。なんかさ、当分いいや」

「えー、梨奈可愛いのにもったいないよ」

「そう、かな?」

「そうそう、すぐ新しい彼氏出来るって。だから、今日は飲め飲めー!」

「おー!」


 私はグラスを掲げる。こういう時のノリと勢いって大事。

 全部忘れられる気がする。と言うか、忘れなきゃ。

 別れたのはもういいなんて、嘘。

 本当は結構引きずってる。じゃなきゃ、夜に眠れないはずがない。

 一人になると急にさみしくなって、泣きそうになって。

 だから、今は忘れておこう。忘れたふりをしておこう。



* * *



 私は夢を見ていた。

 誰かに抱きしめられて、温かくて幸せな気分で眠っている夢。

 ずっと夢の中にいたいような、そんな気持ちで、


「……んん」


 私は目を開けた。


「うう」


 頭が痛い。

 ここ、私の部屋だ。一人暮らしの狭い私の部屋。それにちゃんとベッドの上。

 二日酔いの気持ち悪さはある。だけど、なんだか久しぶりにちゃんと寝たような気がする。お酒のせいだろうか。

 すっきりって訳にはいかないけど、先輩と別れてから本当に眠れていなかったから、なんだか気分がいい気がする。

 それになんだか本当に暖かいような?

 起き上がりたくない。気持ちがいい。

 もしかして、まだ夢の中?


「ん?」


 違う。

 私は慌てて起き上がった。


「え?」


 ベッドの上に私以外の誰かがいる。それどころか、寄り添って寝ていたらしい。

 もちろん先輩じゃない。前はこうしてよく一緒に目覚めていたけれど。


「な、なんで……」


 私の声に、彼が眠そうに目を開ける。そして、言った。


「……おはよう」

「は?」


 私は挨拶も返さずに、彼をぽかんと見つめ返してしまう。


「何、この状況? え、まさか」


 慌てて自分の格好を見る。昨日着ていた服のままだ。このまま寝てしまったみたいだから、お気に入りの服がくしゃくしゃにはなっているけど……。

 彼の方も、同じような感じだ。

 ということは。


「別に何もしてないから!」


 彼がそう言ったのは私がまだ質問をする前だった。

 そもそもなんでこんなことに?

 同じサークルにいるから知らない顔ではないけど、そんな関係ではない。断じて。


「昨日、何があったの?」

「覚えてない? 結構酔っ払ってたもんな」


 言いながら彼がアクビをする。

 そもそも名前なんだっけ?

 話したことはあるけど、名前はぼんやりとしててちゃんと覚えてないくらい。

 あ、でも、いつもはこの人メガネ掛けてる気がする。そのせいで野暮ったい印象だったけど、今は寝起きのはずなのに意外と整った顔をしている。と言うか、ハッキリ言ってイケメンの部類だ。実はパッと見、誰かわからなかったくらい。それなりに好みの顔ではある。

 多分、サークルの中で誰も気付いてないと思う。

 って、それはいいとして。


「覚えてないのはさすがにショックなんだけど」

「いやいやいや、突然男が部屋にいる方がショックなんだけど」

「だから、突然じゃないし」

「え?」


 彼がため息を吐く。


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