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098 鉱山都市ミスティア。

『――おやおや、珍しいお客さんダ』


突如背後から聞こえた声に、皆振り返り警戒する。

だがそこに人の姿はなく、あるのは3メートルほどの柱と、その上に固定されている水晶玉だけだった。


『あれ? 女4人だけか……反応は5人だったのにナァ』


声は水晶玉から発せられているように思える。

それに、声の主は視覚的にもこちらを捉えているようだ。


『ま、いいヤ。通れたということは、邪教徒や悪魔の類ではないだろうシ』


どうやらあちらも、こちらを敵とは認識していない様子。

こちらからしてみれば敵か味方かまだわからないが……。


「門は閉まってるし門番らしき人もいなかったので、上から入らせてもらいました……まずかったでしょうか?」


まだここがどこかハッキリしていないし、今はまだ事を荒立てる状況じゃない。

そう思い、下手に出てみることにした。


『……ん? あぁごめん、そっちの声はこっちには届かないんダ』


こっちの声は聞こえていないらしい。

となると、意思疎通もできないがどうしたものか……。


『うーん、多分こいつらのことだよね……。そのまま都市の中心、街のほうまで来てくれないカ? 入口に使いの者を回しておくヨ』


独り言のようにボソボソと何かを呟いたかと思えば、一方的に話を進め声はしなくなった。


はたして招かれるまま進んでいいものだろうか。

一先ずみんなの意見を聞いてみるとしよう。


「……どう思います?」


「そうだな……味方かどうかはわからないが、敵対の意思はないように思える」


「そうですね、それに邪教の類は結界内には入れないでしょうし……」


「敵の可能性は低いっちゅうわけやな」


僕も同意見なので満場一致だ。

とりあえず敵である可能性は低いだろうという結論のもと、このまま街を目指すこととなった。


それにしても、女4人か……はたしてどうすれば初見で男だと認識してもらえるのか……。


「……やはり筋肉が必要か」


「なんだ? 力が欲しいのか?」


これが謎の声なら覚醒できたのかもしれないが、声の主はリズさんだった。


「いえ、やっぱり僕には必要ないです」


リズさんにお願いしたら、地獄の鍛錬コースが待っていそうだからね……。





道中は閑散としたものだったが、街へ近づくにつれ徐々に人の姿を見かけるようになる。


「これは……」


煙突から上がる煙や、耳に入り始める賑やかな声。

それはこの街の活気を示していた。


「交易都市とはまるで違うな、目が死んでいない」


リズさんはすれ違う人を見てそう言った。

すると、シルフィさんは空を見上げる。


「この結界の中までは、邪教の者も手を出せないでしょうからね」


視線の先にある結界は、一度認識してしまえば陸地からでも微かに見える。

それはまるで薄いオーロラのようで幻想的な光景だ。


「ほな、鉱山都市は無事やったってことかいな?」


「……もしくは師匠が転移先間違えたとか」


実際予定外の国に飛ばされたことあるしね。


「どちらにしても敵地という感じはしないな……どうやらあそこが街の入口のようだぞ」


リズさんが指差した先には、ウェルカムと書かれた看板と、それを持った2メートルほどの大男の姿が見えた。

もしかして使いの者とはあの大男のことだろうか。


「ん……」


男はこちらと目が合うと、何も言わずに看板を持ったまま移動し始める。


ついてこいってことなのかな……。

無視するわけにもいかないので、皆男の後ろをついていく。


「罠じゃなければいいですけど……」


もし罠だったら、僕らは簡単にほいほい着いて行ったただのマヌケだ。


それに一つ違和感がある。

街の人があまりこちらを気にした様子がない。

門は閉じられ結界まで張られているのに、そんな状況で部外者がやってきたら気になるだろうに……。


(あるいは、だからこそ警戒心がないのかな)




男は小さな教会の前で立ち止まった。


「ん……」


そして、中に入れと言わんばかりに目で促してくる。


「どうやらここが結界の中心のようです」


シルフィさんは再び上空の結界を見てそう言った。

つまりここは都市の中心でもあるということだ。


「まぁ、ナーサティヤ教の人なら敵ではないですよね」


そう思い、僕は教会の扉ノックして開いた。


その瞬間――目の前に迫る人影があった。


「その考えは甘――――おぼふッ!」


人影から声が発せられたかと思えば、目の前を横切ったリズさんの右ストレートが鈍い音を立てた。


結果、シスターが床にめり込んでる……死んでないよね?


「リズさん……?」


「つ、つい反射的に……だが襲い掛かって来た向こうが悪いだろう」


まぁそりゃそうなんだけどね。


「ふふふっ、油断してるように見せかけてなかなかやるナ」


シスターは床から頭を抜いて不敵に笑った。

その姿は、ベールをしてはいるが、黒い短髪でボーイッシュな印象を受ける。

それと妙に語尾を強調する変わった話し方だった。


それにこの声って……


「ひょっとして門のところで声をかけてきたのは……」


「あぁ、それは何を隠そう……この私ダ!」


シスターは薄い胸を張ってドヤ顔で答える。

はたしてここは威張るとこなのだろうか。


それに、鼻血……流れてますよ。

ついでに膝も笑ってますよ。


だがシスターの強気な表情は崩れなかった。


「ふふっ、私のことはラストシスターエマと呼んでクレ」


「エマさんですね、わかりました」


エマは露骨に残念そうな顔をした。

なんやラストシスターって……。


「というか、なぜいきなり襲い掛かってきたんですか?」


「……ちょっとビビらせようと思ってサ」


さようですか……。

そう言ってエマさんはリズさんから距離をとっている。

どちらがビビっているかは歴然としていた。



「それより、この都市を覆っている結界についてお聞きしたいのですが……」


話題を切り替えようと、シルフィさんが一歩前に出てエマさんに尋ねた。


とてもエマさんが張っている結界とは思えないよね。

そもそも一介のシスターでは無理だろう。


「あれが見えるってことは、アンタはそれなりに高位の神官ナノカ?」


「そうですね、これでも一応ナーサティヤ教の司祭です」


そうシルフィが答えると、エマの目つきが鋭くなった。


「……ふーん、人は見かけによらないネ」


その眼には、あきらかな敵意が出始める。

何か気に障る部分でもあったのだろうか。

こういうときは、こちらも身分と名をさっさと明かしてしまったほうがいいのだろうけど……。


(はたして今、第2公女だと名乗るべきなのかどうか……)


などと悩んでいると、エマさんが「はぁ…」とため息をついた。


「まぁいいサ、私はあんたらを案内するように言われただけだ……ついてきナ」


エマが教会の奥へと視線を向ける。

どうやら彼女を介して、僕らをここへ誘導した者がいるらしい。


「言われたって……それは誰なんです?」


「……結界でこの都市を守られている御方ダ」


エマは渋々と答えた。


ということはナーサティヤ教、それも高い身分の人だと思うが……。

それならなぜ、シルフィさんの言葉に対し敵意を向けたのだろうか。



案内する道中、静かにエマは口を開いた。


「この鉱山都市ミスティアは、結界のおかげで魔帝国の支配から逃れられているんダ」


良かった、ここは目的地で間違いなかった。

僕はホッと安堵していたが、気にせずエマは言葉を続けた。


「いわばこれから案内するのは、この都市の生命線ダ。私個人としてはあまり歓迎できないのはわかってクレ」


そう語ったエマの表情はとても真剣なものだった。


「……使いの人が持ってた看板には『ウェルカム』って書いてありましたけど?」


「それはさ、歓迎しなさいって言われたから仕方なくダヨ」


どうやらこれから会う人は、エマさんにとって頭が上がらない人らしい。


「この部屋だ……あんたらが、この方の敵じゃないことを祈るヨ」


エマはそっと扉を開いた。

部屋の中でこちらを待っていたのは、ベッドに横たわる老齢の女性ただ一人。


それを見たシルフィは、驚愕の表情を浮かべる。


「……!」


そして我先にと、横たわる女性に駆け寄った。


「――ギス様? アイギス……司教様!」

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