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095 新たな女神像。

交易都市が邪神像の支配から解放されて3日が経った。


マーカス侯爵の宣言を聞き、都市から出て行った者ももちろんいたが、そのほとんどがハーゲンの悪政で足止めを食らっていた冒険者だったようだ。


金銭的に余裕のある冒険者は、ようやく元の生活に戻れると言って旅立ち。

金銭的に余裕のない冒険者は、交易都市の冒険者ギルドが本格稼働するのを待っていた。


現状は壊れた側防塔などの修復で日銭を稼いでいる者が多い。


なおお金に関しては、ハーゲンが寝室に貯め込んだ私財を使っていた。

本来なら住民に返すべき金だが、僕らは交易都市を文字通りいただいたのだ。

なのでエルラド公国の資財として有効活用すると宣言した。


納得いかない者は出て行ってもらって構わない。

なぜならこれは戦争なのだ……。


しかし交易都市の各部門代表者は、誰も異議を唱えなかった。


彼らの下にいる者の中には不満を漏らした者もいただろう。

それを説得できたのだとすれば、有能な人材なのかもしれない。


無論、好き放題していたハーゲンに怒りの矛先は向いたのだが……



「呪いか……」


シルフィさんから、尋問中にハーゲンが呪いによってその命を落としたことを聞かされた。

度々僕の性別も呪い扱いされることはあるが、ハーゲンのは本物の呪いだ。


鐘に関わる何者かの情報を口にしようとした途端、それは発動したらしい。

おそらくは口封じだろうと思われる。


でもね、僕が気になったのは尋問手段のほうだ。


ハーゲンの遺体には刺し傷が一つだけ。

でもそれにしては牢に飛び散った血の量が多く感じた。


シルフィさんにそのことを尋ねると……


「知りたいですか?」


と優しく微笑んできたので遠慮しておいた。


でもなんとなく想像はできる。

治癒魔法ってえげつないことできるんすね……。


そんなシルフィさんだが、今は再度教会をくわしく調べている。

何か気になることでもあったのだろう。



ハーゲンの私兵だったカザール四天王は、雇い主がいなくなったことで身の振り方を迫られることになる。


固定砲台ムボウは、騒動が落ち着く前に姿を消した。

おそらく帝国民であることを選んだのだろう。


韋駄天アゲハはメイさんに新たな忍者刀を打ってもらったのだが……


「タダやない言うたやろ? まさかハゲの情報と侯爵の行方だけで釣り合うとでも思ってたんか?」


と、見事にカモられていた。

僕はそこまでしろと提案した覚えはないんですけどね。


もちろんそんなものアゲハに払えるはずもなく……


「そ、そこをなんとか! 私にできることならなんでもします!」


意地でも忍者刀を手放そうとしなかった。

メイさんの打ったものがよほど良い出来だったらしい。


しかし「なんでも」は言っちゃまずいと思いますよ。


「ん? 今何でもする言うたな?」


ほら食いついたよ。


こうして、アゲハはメイさんのパシリへとジョブチェンジした。


でも一応給与は支払ってあげるらしい。

3食付きだが、二束三文のお給金……ハーゲンの私兵だったころどれぐらいもらっていたかは知らないが、間違いなく都落ちだろう。


まぁ……本人がそれで納得してるなら何も言わないけどね。



残るは沈黙のオーネストと動く要塞トロイだが、彼らの立ち位置はなんとも微妙なものだった。


ムボウとアゲハは元々単独行動が多かったらしいが、オーネストとトロイは正規兵との面識がある。

金で雇われていただけとはいえ、ハーゲンの手先だったのであまり印象が良くなかった。

強制的に従わせられていた正規の兵とは違うのだ。


そこで、リズさんが侯爵にとある提案をした。


それは、いっそのこと彼らを侯爵が雇ってはどうかというものだ。

無論私兵ではなく、ただの一般兵として。


これにはオーネストとトロイも反発。

なぜ我々が有象無象の一般兵と同じ扱いを受けねばないのかと……。


ならばと、リズさんはもう一つ案を出した。


「ここの兵は正直練度が低い。二人共々私に預けて見ないか?」


一般兵を鍛えなおすついでに、オーネストとトロイの能力も見てやろうというものだ。

そこで結果を出せれば、一般兵と同じ扱いにはならない。


「ふんっ、ならば格の違いというものを見せてやろう」


リズさんの提案に対し、彼らは自信があるようだった。

その結果……


「貴様らッ! 誰が休んで良いといった!」


リズさんの力強い声が、倒れている大勢の兵に向けられていた。

中にはすでに気を失っている者もいるようだ。


「もう…ぜぇ…ぜぇ……限界です……走れません」


地に伏したまま、誰かがそう答えた。

しかしその言い訳はリズさんには通用しない。


「本当に限界の者が人の言葉を話せるわけないだろう。つまりそれは、お前が自分で作った限界だッ!」


力強い言葉と共に、リズさんは拳を足元に叩きつけた――――


大地は割れ――――倒れた兵は衝撃で体が浮き上がる。


そんな中、空中でジタバタともがくオーネストとトロイの姿があった。

一応二人はまだ意識があるらしい。


彼らもまた、格の違いを見せられる側だったようだ。

気を失っている兵もいることを考えると、二人はまだ優秀なほうなのかもしれない。


……リズさん、王国の騎士団にいたときも同じことしてたのかな……。




といった具合に、公国の兵がこちらに到着するまで、各々が交易都市で過ごしていた。

なお僕はというと……


「風はまだひんやりしてるけど、日差しが心地良いな……」


北東方面の外壁の上で、外を眺めていた。


別にさぼっているわけではない。

ここはもう公国の領土なので、帝国がちょっかい出してこないか見張っているんだ。


まぁ……びっくりするぐらい何もないけど。


「……たまには街中の様子でも見に行くかな」


ふと、そう思った。

もちろんフードを被って、正体は隠しておく。



「物価は大分まともになったよね」


法外な値段で販売されてるものはあまり見なくなった。


だが街中で販売されている商品は、まだパッとするものではない。

公国の領土になったといっても、物流が回復するにはまだまだ時間がかかるだろう。


(でも……なんとなく活気があるように見えるな)


人の眼が活き活きとするだけで、こうも違う印象を受けるらしい。


さらには、交易都市の中心にあった噴水が様変わりしていた。


そこは憩いの場となり、昼食をとる者や雑談する者、待ち合わせに使う者など、正に都市の中心地らしい姿に見えた。

そして自然と耳に入る子供の元気な声……これは大事なBGMだ。


それに、ちょっと前まで枯れていたはずの噴水に綺麗な水が流れていた。

これは景観的にも良くなって……


「はて……こんな像あったかな?」


噴水の中心部に、女神像らしきものが設置されていた。

時折その像に向かって、短い祈りを捧げている者も見かける。


これは以前見た時にはなかった気がする。

見た目も初めて見るタイプの女神像だ。


それに……ナーサティヤ教の教会にある女神像より、さらに胸が小さい。


(ははーん、さては彫ったやつの趣味だな)


ま、僕も大きさより形が重要派なので気持ちはわかるよ。


あまり胸ばかり見るのもどうかと思い少しだけ視線を下げると、台座に刻まれた文字が目に入った。



――【 カザール再生の女神 】――



…………いやいや、さすがに違うよね。

こっちはただの侵略者ですよ。


まさか自分ではないだろうと何とか思いたかったが、噴水の前で女神について熱く語りだす者が現れる。


「俺は見たんだ! 公女様が空を飛び、見たこともない魔法を放つところを!」


まぁ……空飛ぶと目立つよね。

鐘を破壊して回っていたところを目撃されても、そりゃおかしくはない。

それに真っ白な髪も目立つし……。


「ほう、公女様は魔法を扱われるのか」

「見たこともない魔法となると、かなりの腕前なのでは?」

「公女様は女神様で魔女レベルの魔法使いということか……」


盛り上がる民衆の中で、僕の評価は勝手に上がっていった。


公女様で女神様で魔女か……。

それはどれも事実とは異なるが、僕にある事実を突きつけた。


あぁ――――やっぱりこの女神像、僕なんだ……。


ブックマーク、評価、誠にありがとうございます。

大変励みになってます。


誤字報告、非常に助かりました。

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