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094 あの方。

「この歓声……あちらは上手くいったようですね」


シルフィーユは一人別行動をとり、城の地下牢にてハーゲンと対峙していた。

その瞳に慈悲の感情はなく、ただ無機質に尋問相手を捉えている。


「ふん、俺様を尋問しようとしても無駄だぞ。それとも拷問でもするのか? ん?」


ハーゲンは、小娘と思い目の前の女を侮っていた。

しかし……すぐにその考えは変わる。


スッとわずかに頬を風が凪いだと思えば、自身の肩が熱を帯び始めた。


「――ヒィッ!」


ハーゲンの目に映ったものは、自身の左肩に刺さる槍の切っ先だった。


「あなたに聞きたいことは二つ。一つは邪神像、もう一つはあの鐘についてです」


「し、知らん! 俺様だってくわしいことは知らんのだ! だから早くこれを抜いてくれ!」


ハーゲンは涙目で懇願する。

だが無慈悲にも、シルフィは突き刺した槍を抉るように捻って抜いた。


「ぅぎゃあぁぁぁぁッ――――!」


両手両足を縛られたまま、ハーゲンは痛みにのたうち回る。

しかしその痛みは長くは続かなかった。


シルフィの手から放たれた癒しの光が、ハーゲンの傷を塞いでいく。

ハーゲンは収まっていく痛みにホッと安堵した。


だがそれを嘲笑うかのように、今度は右肩へと槍が突き刺さる。


「話したくなるまで何度でも治して差し上げますよ。肩の次は足……眼球はショック死の可能性もあるので最終手段ですね」


話すまで何度でも同じ苦しみを味わってもらうぞ、というシルフィの意図に気づいたハーゲンは絶望を知る。

何せハーゲンは、本当に大した情報を持っていなかったのだ。


「ほ、本当に知らないんだ! ただ使い方を教わっただけで……」


「それは誰に?」


槍を持つシルフィの手に力が入る。

いい加減なことを言ったら、即抉るつもりなのだろう。


「しょ、書面だったから誰かは……。それも目を通したら処分するよう書かれていたから燃やしてしまった……。像の受け渡しも指定された場所に置いてあって、相手の顔も知らないんだ」


ハーゲンは恐怖に声を震わせながらも、必死に弁明した。


「……そうですか」


おそらく嘘はついていない。

シルフィはそう判断する。


「ちなみにその場所というのは?」


足がつかないよう、人気の少ない場所が考えられるが……。


「この交易都市に一つだけある教会だ」


「……!」


シルフィは絶句した――。


創造神を信仰する教会で邪神像の受け渡しとは、なんとも大胆な話だ。


たしかにあの教会はもぬけの殻だったためそれも可能だろう。

だがそれは、あくまでも今現在の話。

ハーゲンの話が本当なら、邪神像に支配されるより以前から、あの教会には人がいなかったことになる。


(その理由はわかりませんが……)


何よりも、自身が崇める創造神を侮辱されてるようで、非常に不愉快だった。



「……では、あなたが仰っていた『あの方』というのは?」


「そ、それは……」


ここへきてハーゲンは言い渋る。


シルフィは、もうこれを忘れたのか? と言わんばかりに槍をピクリと動かした。


「――い、言うッ! 言うから! あの方というのは、あの鐘を作られた方だ」


「作った方……ですか」


ハーゲンの態度から、それが高い身分の者だと予想できる。


「……その者の名は?」


シルフィがその名を問うと、ハーゲンの視線が泳ぐ。

嘘をつくべきかどうか悩んでいるようにも見えるが、ただ周囲の確認をしているようだ。

よほどその名を口にするには勇気がいるらしい。


「あの方はナー……うぐッ!」


口を開いたハーゲンが突如苦悶の表情を浮かべたかと思えば、胸を抑えたまま静止する――――


「――ッ」


シルフィは突然のことに、突き刺していた槍を引き抜き後ずさった。


ハーゲンの反応はなくなり、完全に沈黙する。

そして、徐々にその瞳から光が失われていった……。


「心臓に持病でも抱えていたのでしょうか……」


胸を抑えていたのは、おそらく何かの発作だと考えられる。

だがその時シルフィは、ハーゲンから微かに漏れ出る魔力反応を見逃さなかった。


「これは呪い……ですか」


発動条件を満たしたことによって、それは効果を発揮したと考えていいだろう。

つまりこれは口封じ……。


「……せめてその魂に安らぎを――」


シルフィはハーゲンの遺体に祈りを捧げ、その場を後にした。



◇   ◇   ◇   ◇



「はぁ……ついに自分から第2公女だと名乗ってしまった」


しかもあれだけ大勢の前でだ。

実は男だし、しかもただの元孤児で冒険者だなんて知れた日には……。


考えるのは怖い、一先ず化粧を落として着替えてしまおう。



マーカス侯爵は交易都市の各部門代表者と、今後の話し合いを別室にて行っている。

牢から出たばかりだというのにタフな人だ。


「お嬢様の晴れ舞台、ご立派でしたよ」


リズさんはキリッとした表情で専属従者になりきっていた。

こちらは様になっているからズルイ。


そして僕の化粧を担当したメイさんはというと……


「こちらフェアリー1、こちらフェアリー1、ラビット1応答せよ、どうぞ」


何やら箱状の魔道具らしき物に向かって話していた。

一見独り言のように見えるが、ほどなくして箱が反応する。


『…ちら………ト1、こ…らラビット1、感度良好、どうぞ』


箱からは聞き覚えのある声が返ってきた。

これは誰かと会話してるのか……?


「我ら第一目標完遂、行軍開始されたし、繰り返す……我ら第一目標完遂、行軍開始されたし、どうぞ」


『……こちらラビット1了解、数日待て』


傍から見たら小さい子が無線機ごっこでもしているかのようだ。

この世界に無線機があればだが。


「メイさん、それは一体……」


「ん? これか? 魔道具協会におもろいもんあってな、それをウチなりに改造して作った伝達装置や」


たしかに魔道具協会の開発主任と名乗った人が、それっぽいものを使ってたな。

あれは一方的に伝えるものだったようだけど……。


「んで、今アンジェリカ嬢に報告しとったとこや」


道理で聞き覚えのある声だったわけだ。

つまりこれを使えば、遠方と通信可能ということか。


……僕の知らないところでどんどん技術が進歩していくよ。


そこへ、リズさんも興味を示した。


「ほう……ここを押せばいいのか?」


「せや、押してる間こっちの声が相手に届くっちゅうわけや。ただ押したままやと、相手の声を受け取れへんのが難点やな」


聞く限り、ホントに無線機のようだ。


リズさんは使い方を聞くと、早速ボタンを押した。


「あー…あー……これで伝わるのか?」


『あら、その声はお姉さまですね? お元気そうで何よりです』


「こちらは問題ない。そっちはどうだ?」


『お父様はまだ相変わらず……ただ新しい浄水施設は稼働の目処が立って――――』


どうやら向こうも順調のようだ。

Sランク冒険者が3人も滞在しているわけだし、魔帝国もそう簡単には手出しできないだろう。




「あのぉ……私の刀の件、どうなりました?」


リズさんとアンジェリカさんのやり取りが終わると、部屋の隅からスッとアゲハが姿を現した。


いたのか……全然気づかなかった。

伝達内容とか丸々聞かれた気がするけどいいのだろうか。


「あ? ……あぁ、せやったな」


これは多分、メイさん忘れてたな。


「ほな、近くに工房とかないんか?」


「もちろんありますとも、ご案内しますね。ふふふっ、ドワーフの打った刀……へへっ」


アゲハは涎を拭きながら、メイさんを案内していく。

すると部屋を出る寸前に、メイさんがこちらに向かってニヤッと笑みを浮かべ親指を立てる。

あれは何か悪い事を考えてる顔だ……。


それと入れ替わるように、シルフィさんが部屋へと入って来た。


「すいません、ハーゲンから情報を引き出そうと思ったのですが……」


その表情は、どことなく浮かない様子だった。


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