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009 前途多難。

「ここ……どこ……?」


転移魔法で飛ばされて、最初に目に入ったのは草原だった。

道らしい道もない草原、人影らしいものもない。


「王都近くの街道って言ってたよね……道すらないんだけど」


周囲を見渡しながら、とりあえず歩いてみる。

今日が散策日和の良い天気でよかった。



小高い丘を登ったあたりで、遠くに森林と川が見えた。

しかし王都らしいものは見えない。


「そうだ、ポーチに地図とか入ってるかも」


必要な物が多少なり入ってる、と師匠が言っていたのを思い出す。

きっと水や食料もちょっとぐらい入っているだろう。


「ん? ……んん?」


ポーチに手を入れてみると、小石が1個入ってるような感触しかなかった。

そんなバカなと思い、逆さにひっくり返してみる。


「ウソでしょ……」


ポーチから出てきたのは、金貨1枚だけだった。



◇   ◇   ◇   ◇



道っぽいものを見つけたので、ひたすらその道を進んでいた。


喉が渇いた、腹が減った。

歩き続けて数時間が経ち、夕日が草原を赤く染めていた。


「アーちゃん、この道どこに続いてるんだろうね」


返事無き相棒に話しかける。


「死ぬときは一緒だよ、アーちゃん……アーちゃん!?」


そうだ、僕には相棒のアーちゃんこと人工精霊がいるのだった。

何をバカ正直に歩いてんだ。


そうだよ、飛べば……。


いや、長時間飛行できるだけの魔力は元々ないので、闇雲に飛ぶのはよろしくない。

そう思い僕は垂直に上空へ飛んだ。

これで遠くに何か見えれば……


「ま、街だ……」


そのまま飛んで行きたい衝動を抑え、冷静に地上へ降りる。


飛行魔法は便利だが、使える人間は少ないので目立ちすぎる。

ついでに格好の的になってしまうので、使うタイミングは考えないと危ないのだ。


つまり……走るしかないんだ!


………………


…………


……


「はぁ…はぁ……ついたぁ!」


周囲は石壁で囲われており、着いてみるとけっこう大きな街のように思えた。


「こっちの道から人が来るなんて珍しいな」


街の入口にいる門番らしき人から、声をかけられる。


「道理で人に全然会わないなと……」


「こっちは集落がいくつかあるだけだからな。ほれ、入るなら身分証」


身分証……?

もちろんそんなものは持っていない。


「あの……実は……」


「どうせ持ってないんだろ? 集落出身じゃそうだよな」


勝手に田舎者と勘違いしてくれたようだ。

いや、まぁ実際田舎者ではあるんだけど。


「決まりは決まりだからな、仮の通行証は銀貨1枚だ」


銀貨1枚……高いのか安いのかわからん。


「えっと、じゃあこれで」


ポーチに唯一入っていた金貨を渡す。


「金貨かよ、集落出身なんて大体は大量の銅貨渡してくるのに……まさかお前――」


べ、別にやましいことは何も……


「族長の娘とかだな?」


別にやましいことはないのだけど、勘違いしてくれるならわざわざ訂正しないほうが無難かな……。

でも一つだけ訂正させてほしい。


「いいえ、息子です!」



◇   ◇   ◇   ◇



「ふぅ、なんとか街に入れたな」


門番に渡されたのはあくまで仮の通行証なので、街を出るときに返さないといけない。

それまでにちゃんとした身分証を用意しておかないと、また街に入る際にお金が必要になる。

身分証があればタダで通れるそうだ。


冒険者ギルドで冒険者として登録すると、身分証としても使える冒険者カードをもらえるそうな。

元々登録する予定だったし、明日行くとしよう。


(今日はもう遅いし、とにかく疲れたから宿で休みたい)


門番に渡されたお釣りは銀貨9枚。

つまり金貨1枚は銀貨10枚ということだ。


1泊いくらだろう……足りるよね?。




「えーっと、ここ宿屋でいいんだよね?」


【陽だまり亭】と書かれた看板、周囲は暗くなってきたのに入口が明るい、そして2階建て。


とりあえず中に入ってみる。

1階は食堂のようだ。


「飯かい? それとも泊まりかい?」


体格の良いおばさんがカウンターから声をかけてきた。

女将さんかな?


「1泊いくらですか?」


「朝食、夕食付きで青銅貨5枚だよ」


ぬぅ、また知らない貨幣が出てきた。

でも銀より上ってことはないよね。


「じゃあとりあえず2泊で」


銀貨1枚をスッと出す。

これで足りなかったら恥ずかしい。


「ちょうどだね、部屋は2階の一番手前だよ、飯は日替わりならすぐ出せるけど?」


「じゃあお願いします」


良かった、足りてた……。

つまり青銅貨10枚で銀貨1枚ということだ。

仮の通行証は宿屋2泊分か……高くね?


部屋に置くような荷物もないので、鍵を受け取りそのままカウンターに座る。


「飲み物は水でいいかい? 一応リンゴ酒もあるけど……」


「じゃあリンゴ酒で」


「……人は見かけによらないねぇ」


どういう意味かな?



食堂の席は、半分ほどが埋まっている程度。

騒いでるような客はいない、かといって静かというわけでもない……ほど良い雰囲気だ。


(良い香りがする……そういえば今日は朝から何も食べてないんだよね)


「ほらよ! 腹減ってそうなツラしてたから大盛にしといたよ」


そういってカウンターに並んだのは、野菜たっぷりの大盛シチュー。

そしてちょっと固めのパン……ライ麦パンかな?


まずはシチューを一口。


「――ッ!」


野菜の旨味と濃厚なクリームソース、そして微かな塩気が疲れた体に染み渡る。


「はぁ……」


つい幸せなため息が出てしまう。

次に、一口サイズの野菜を口へと運ぶ、軽く噛むだけで野菜はホロホロと崩れ、クリームソースと絡み合う。

それはまるで、野菜が野菜であることを忘れ、初めからソースと一体だったかのように……


「おい、なんかあの女エロィぞ……」

「まだガキじゃね? でもエロィな……」


周囲から気持ち悪い雑音がする。

よほど僕はだらしない顔をしていたらしい。


「はふ……けっこうな……お手前で……」


「あんた普通に食えないのかい?」


女将さんに釘を刺された。


でも心なしか嬉しそうだった。





食事を終え、2階の個室でやや固めのベッドに寝転がる。


「固めのパンもシチューに浸すとちょうどよかったなぁ」


部屋は四畳半程度、あとは窓際に机と椅子があるだけだ。

これといって荷物もない僕にはちょうどよかった。


「でもリンゴ酒は……ぬるくて微妙でした」


いつかキンキンに冷えたビールを飲みたい。


「いつかそのうちね、まずは明日冒険者登録しないと」


残金は銀貨8枚。

装備も整えたいので、すぐにでも稼がないと。


「やっぱり日雇い生活みたいだなぁ……」


明日に備え、体を濡れタオルで拭いてから、その日は眠りについた。

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