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085 帝国の実情。

旅のメンバーが決まってからはあまりにも展開が早かった。

元々こちらは冒険者なので、旅に必要な物をほとんど持ち合わせているからだ。


それ以外に必要だと思われる物も、ほとんどメイさんがウキウキで揃えてしまった。

その姿はまるで遠足前の子供だ。



シルフィさんはというと、臨時加入していたエターナルから脱退していた。

彼らは第3遺跡の攻略を続けるようだし、これも丁度良い機会だとか。


そして今回、共に旅をする仲間ということで、僕とリズさんのパーティに加入したい旨を伝えられたが……


「えっ? 冒険者として旅するわけじゃないのに……?」


と言ったら笑顔で納得していただけた。


……多分、笑顔だったと思う。



リズさんは出立前日のギリギリまで、父であるヤマトさんと剣を交えていた。

暴風のようなリズさんの攻撃に対して、ヤマトさんの刀は…………何かに例えたかったけど見えないから無理です。


なんとなく互角のようには感じたけど、ヤマトさんは全ての動作にまるで力強さを感じさせない。

飄々としていて、掴みどころがまったくなかった。


「リズさんを超える剣技なんて存在したんだなぁ」


しかし父親のヤマトさんとはあまり話さないようだった。

なんでも「父とは剣で語り合っている」のだそうだ。


リズさんかっけぇ……と思ったが、当のヤマトさんは「リズがあまり口を利いてくれない」とヴィクトリアさんに泣きついていた。


でも泣きたくなるのもわかる。

久々に会ったセリスさんや、母親のヴィクトリアさんとは話が盛り上がっている様子を僕も見かけていたからね。


どうやら剣での語り合いにもすれ違いというものが存在するらしい。



そして僕も、出立まで何もしないわけではない。

ミンファを連れスイーツ店を巡り、ミンファと共にお昼寝し、ミンファと一緒にかっこいい魔法名を考えたりしていた。


……暇だったわけではないよ?

本来これが正しい休日の過ごし方のはずなんだ。



そんなこんなで、特別な見送りもなく僕らは中央都市エルヴィンを発った。


ちょっと寂しい気もするが、情報漏洩的な観点から大々的に出発するわけにもいかないので仕方ないのかな。



◇   ◇   ◇   ◇



「大分暖かくなってきたなぁ」


馬車に揺られ、帝国領土内を南へと向かっていた。

まだ春には早いが、南へ進むと空気が暖かく感じる。



御者の席では、オカンメイドのメイさんが足をプラプラさせている。

知らない人が見たら、僕らが小さい子をこき使ってるように見えるかもしれない。

誠に遺憾である。



荷台ではボッチ疑惑のシルフィさんが本を読んでいる。

その姿はまるで絵画のように美しく、彼女が聖女だと知れば誰もが納得するだろう。

なお読んでいる本のタイトルには【友達と親友の境界線】と書かれている。


……司祭として来てるんだよね?



同じく荷台にいるリズさんは、いつものように剣の手入れをしている。

絵になるという言葉はこの凛々しい姿のためにある、と言っても過言ではないだろう。


しかし手入れが終わると、荷台から飛び出しジョギングのように馬車と併走し始めた。


これは……錘を付けているのか。

乾いているはずの地面に、リズさんの足跡がくっきり残っている。


僕はもう慣れてるので今更これぐらいのことで驚いたりはしない。

しかし他の2人まで疑問を抱くことなく、この状況を受け入れてしまうとは……。


……この面子って馬車必要だったのかな?




今日は日が暮れ始める前に、野営の準備を始めることになった。


馬車の荷台は十分に広く、屋根もあるので寝床にもなる。

なのですることは火を起こす程度だ。


この感じ……久々に冒険者っぽいことをしている気がする。

冒険者として来ているわけじゃないんだけどね……。


それに準備も、ほとんどメイさんが慣れた手つきで終わらせてしまって、僕は何もすることがなかった。


うん……楽でいいんだけどね。

見た目小さい子に全て任せるのって複雑な気分。



「ま、この分やと明日の午後には街に着くやろな」


メイさんが帝国の地図を広げ、現在地に印を着ける。

今のところは順調……というより魔物をあまり見かけなかった。


「魔物の気配すらあまりないですね」


平和でよろしいと思います。

リズさんは退屈そうだけど。


「貿易都市に伸びる街道やからな、こんなもんやろ」


メイさんの言う通り、こんなものなんだろうか。




夜、交代で火の番をすることになるが、4交代だと一人あたりの負担が少なくて非常に楽なのである。

……少し前まで、そう思っていました。


シルフィさんと交代する際、あの疑問をぶつけられることとなってしまう。


「エルさん……依り代なしで神力使ってましたよね?」


やはりこの話題は避けられないだろう。


依り代なしで神力を使うということは、その神力は神降ろしによるものではない。

当然の疑問だった。


「……そうですね」


さすがに下手なごまかしは通じないだろう。

しかしどう説明したものか……。


「使おうと思ったら使えました」


「……そんな答えで納得するとでも?」


駄目かぁ……。

割と正直に答えたはずなのに。


「えーっと……神降ろし? の時の感覚を再現するような感じで使えたんですが……」


強引に手繰り寄せた感覚だったけど、嘘はついていない。

なのでそんな鋭い目つきでこちらを見ないでほしいです。


「神降ろしの感覚……ですか」


シルフィさんの表情は納得している感じではなかった。


でもそれ以上に説明のしようがない。

自分でもなんで使えるのかわかってないし……。


「……聞かれても困る、って顔してますね」


そう言ってシルフィさんはため息をついた。


僕って顔に出やすいんだろうか……。


「今回は引き下がりますけど、いずれちゃんと説明できるようにお願いしますね」


シルフィさんの鋭い瞳が、普段の優しいものへと戻る。

揺れる炎に照らされたその表情に、僕は思わず見とれてしまった。


そしてシルフィさんは、馬車の荷台へとその姿を消す前に、小さく呟いた。


「やっぱり親友にならないとこういうのは難しいのでしょうか……」


そういう問題じゃないんですけどね。



◇   ◇   ◇   ◇



「――――ここがガーサの街ですか」


翌日の正午、交易都市への中継地点である、ガーサという街に到着した。

街の規模は決して大きいわけではないが、交易都市が近いだけあって多くの人が行き交って……


「……あんまり人が行き交う感じではないですね」


「せやなぁ、思ってたんと違うわ」


僕に同調するように、メイさんもガッカリしていた。

まったく人通りがないわけではないのだが、少しはいる……という程度だ。


それでもやはり交易都市が近いだけあって活気が……


「葬式でもやってるんですかね……」


「客引きすらおらんな」


しかし以前帝国に来たときのような、異様な視線を感じるわけでもない。

ただただ街の活気がないだけのようだった。


はたしてこれが邪神像によるものなのかはわからないが、一先ず僕らは宿を探すことにした。


……そういえばこれって経費で落ちるのかな?




やっぱりお風呂には入りたい。

ということで、それなりに高級な宿を選択した。

だがやはりここでも宿泊客は僕らだけだった。


それに1階の食堂は現在休止中……ガッカリだよ。


しかし従業員から有益な情報を得られた。



「今の帝国はあまり評判が良くないですからね、冒険者が寄り付かないのも仕方ありません」


シルフィさんの言うように、帝国領土にいた冒険者は足早に他国へと移動済み。

行き交う人が少ないのはそういった事情が関わっているのだろう。


「活気がないのは多国からの物流が止まっているせいか……」


リズさんは品揃えの悪い武具店にガッカリしていた。

たしかに今の情勢じゃ、商人だって帝国との取引は様子を見るよね。


「帝国自体の生産力は大したことあらへんからなぁ。他国に頼っとった部分は大きいで」


メイさんの目的でもある鉱山都市の状況はわからないが、それ以外は多国に頼っていた部分が大きいらしい。

それがストップしたとなれば閑散とするのも頷ける。


「つまり邪神像によるものではない……少なくともこの街は、なるべくしてなった状況ということですかね」


僕の言葉に3人はコクリと頷いた。

となると、残る疑問は一つ……



なぜ――――この会話がお風呂で行われているのだ。



たしかに「浴槽広いしみんなで入れそうですね」なんて冗談を口にしたのは僕だよ。

でもね、4人だとさすがにちょっと狭いし、誰もタオルで隠そうとしないし、濁り湯ってわけでもないただのお湯だから全部丸見えだし……。


これは危険な状況だ……僕の分身が装甲をパージしかねない。


ふぅ……落ち着け。

こういうときは母親の裸を思い浮かべ……ダメだ、顔すら思い浮かばん。


ならば……坐禅を組み、目を閉じて心と体を落ち着かせる。


(あぁ、宇宙は広い……全然興味はないけど広いんだよ……)


――よし、今の僕は何事にも動じない。


そう確信し、そっと目を開く。

すると、犯罪感筆頭のメイさんの視線がこちらを向いていた。


「ふむ……間近で見たらちょい小さめか?」


……なんだろう、嘘つくのやめてもらっていいですか?

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