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008 エルリット15歳 -別れと旅立ち-

エルリット15歳です。

いま空を飛んでおります。

風で髪が大変なことになるので、後ろで結いました。

短く切ろうとしたら、似合わないことはやめろと師匠に怒られたので仕方ありません。


ちなみに、飛行魔法を使える魔法使いなんて、そうそういないそうです。


まぁ借り物の力というか、人工精霊さまさまなんですけどね。



◇   ◇   ◇   ◇



「こんなの体に入れたら、絶対痛いと思うんですよ」


「別に痛くないわよ、こいつがあんたを認めなかったら死ぬほど痛いかもしれないけど」


だ、だとしたら、仲間の1体を倒した僕なんて、絶対認めてくれないのでは?


「ま、分体とはいえ1体倒したんだ、こいつも認めるでしょ」


「分体だったんだ……」


仲間じゃなくて、ただの分体だったらしい。


「ていうか人工精霊って、認めるとか認めないとか、まるで自我があるみたいですね」


「自我はないけどねぇ、意志はあるよ。ほら、背中出しな」


怖いけどきっと拒否権はないのだろう。

渋々と服を脱いで背中を出す。


「……軟弱そうな背中だねぇ」


失礼なことを言いながら、師匠が僕の背中に魔法陣を描いていく。

なにかの儀式みたいで不安だ。


「体に埋め込むことで、人工精霊を介して飛行魔法を扱えるようになるわけ」


「へー……」


「通常の精霊なら契約とかになるんだけどね、こいつは人工精霊だから、体に寄生させるのよ」


寄生とか怖いワードが出てきた。


「ま、精霊との契約なんて滅多にできるもんじゃないからねぇ」


「寄生って……血でも吸われるんですか?」


「そんなヒルじゃあるまいし。普段はあんたの魔力が満タンのときに、器から溢れた分をちまちま食うだけだから」


それはなんかちょっとかわいい。


「当然飛行魔法を使えば、その分あんたは魔力を消費するけど、精霊の飛行魔法は魔力消費が極端に少ないからね」


「省エネってことですか」


「省エネ……? まぁあんたでもそこそこ使えるはずだよ」



◇   ◇   ◇   ◇



それからは、空を飛ぶのが楽しくて仕方がなかった。

空中で魔力切れになって死にかけたぐらいだ。


最初は自分の魔力と違う存在が、体の中にいるような感じで違和感があったけど、時が経つにつれそれもなくなった。


(まさに一心同体、相棒だね)



「何をボーっとしてんのさ、ケツに火ぃつけちまうよ!」


背後から、大量の炎の矢が飛んでくる。

それを回避しながら師匠に抗議をする。


「ちょっと師匠、僕とアーちゃんの空の散歩を邪魔しないでくださいよ」


アーちゃんとは人工精霊の名前だ。

artificial(人工的)からアーティと名付けて、アーちゃんと呼んでいる。


「人工精霊に名前つけるとかドン引きだわ」


ひどくない?

そりゃ姿は見えないし会話もできないけど、確かに僕の中にはアーちゃんがいるんだ。

……おかげで最近独り言が増えたけど。


「今日こそ落とさせてもらうっす!」


師匠に向かって、マナバレットで牽制しつつ、レイバレット撃ちこむ。


「はんっ! 指先見てりゃ狙いがバレバレなんだよ!」


すべて回避される。

そうなんだよね、直線的な攻撃しかできない、という弱点があるんだよね。

師匠はこっちの使える魔法、全部把握してるし……。

――――だからッ!


僕はとにかく牽制しながら高度をあげていく。

そして……


「くっ、太陽越しに……でも甘いね!」


上空に向かって師匠が放つ竜巻は、太陽越しに見える小さな影を吹き飛ばした。


「デコイっすよ師匠」


師匠の背後から、指先を向ける……チェックメイトだ。


「なかなか様になったじゃない」


「じゃあ、今日こそは僕の勝ちってことですかね」


「そうねぇ、これならまぁ合格かしら。でも私に勝つにはまだまだね」


「なにを……んん?」


指先にまったく魔力が集まらない。

何かに妨害されてるような感覚……。


「他人の魔力に介入するぐらい、私なら朝飯前なのよねぇ」


「えぇ……、それじゃあ魔法使ってる時点で、僕は絶対勝てないじゃないですかぁ……」


「そういうこと」


こちらを振り返った師匠にデコピンされる。

今まで師匠から受けた一撃で一番優しく、そして一番格の違いを感じさせるトドメだった。



◇   ◇   ◇   ◇



翌日、早朝から魔力を体に循環させながら考えていた。


魔力への妨害をされないようにするには、どうすればいいんだろう。


「魔力に介入させないようにする……?」


口で言うのは簡単だけどね……。。

というか、仮にそれができたとして、そもそも僕の魔法が師匠に通用するのかどうか。


(なんかこっちの魔法を受けても、師匠なら平気そうな気がしちゃうよなぁ)


「何を朝から難しい顔してんのさ」


「いやぁ師匠対策を考えて――って師匠!?」


師匠はいつも昼前までは起きない。

こんな早朝に起きてることなんてありえないのだ。


「こんな朝早くに師匠が……?」


「ま、たまにはね……いつまでも弟子に起こされるわけにはいかないでしょ」


「別にそれぐらい……って弟子? 弟子って言いました? 昨日も結局負けたのになんで……」


「合格って昨日言ったでしょ? そもそも、私に勝つなら、せめて魔王の一人ぐらい倒せるようになってからじゃないとね」


なんて絶望的な前提条件だろう。

……そもそも魔王なんているの?


「大分前から弟子としては認めちゃいたんだけどねぇ、まぁ正式に弟子を名乗ることを許してあげるわ」


「そうだったんだ……」


「といっても、もう教えることはないのだけどね」


「いやいや、そんなことはないでしょう」


「ていうかあんた魔法覚え悪すぎ、使ってる魔法も特殊すぎて、これ以上教えようがないのよ」


ひどい言われようだ。

たしかに魔法陣やら術式やら覚えるのは苦手だけど。


「あとは自分で上を目指しな、冒険者になるんだろ?」


「冒険者……そっか、冒険者になるんだった」


べ、別に忘れてたわけじゃないやい。


「あんたまさか忘れ……まぁいいわ、これからいろんな世界を見て、経験してきな。もっと強くなったら、また相手してあげるわ」


もっと強く……うん、師匠に勝てるビジョンは浮かばないね。



◇   ◇   ◇   ◇



「師匠……これ本当に大丈夫なんですか?」


いま僕は直径5メートルほどの魔法陣の上にいる。


「私の転移魔法陣が信用できないのかい?」


「そうじゃないですけど、別に転移魔法で飛ぶ必要性もない気が……」


この魔法陣は一方通行なので、帰るのには使えない。

雑貨屋の外で師匠に出会った5年前、来るとき見かけなかったのはそういうことだったのだ。


「こんなクソ田舎の辺境で冒険者になってもしょうがないでしょ」


「それはまぁ……たしかに」


「場所は王都近くの街道あたりに設定して……そうだ、これを渡しとくわ」


師匠に小さめのウェストポーチを渡される。


「私のマジックバッグほどじゃないけど、馬車1台分ぐらいは入るから」


「えっ? いいんですか?」


あれ? でもこれ超がつくほど高いんだよね?

……こっそり使わないと。


「時間遅延も組み込んであるし、冒険者として必要なものは多少入れてあるから、あとは自分でがんばるんだね」


「何から何まで、ありがとうございます」


「次会ったとき落ちぶれてたら、ただじゃ済まさないよ」


「はい!」


魔法陣の光が強くなるにつれ、目頭が熱くなってくる。

たったの5年間だったけど、僕にとって師であり、親のようだった。

さよならは言わない、だってまたいつかリベンジするからね。


そして周囲の光は強くなり、視界が真っ白に――――


「あっ、ここの術式間違ってたかも……」


聞き捨てならない師匠の声が、微かに聞こえたような気がした。

エルリット15歳♂


-使用魔法-


●Mana Bullet -マナバレット-

指先から放つハンドガン程度の威力の魔力弾。

詠唱不要


●Ray Bullet -レイバレット-

指先から放つ魔力弾を電撃で熱線レーザーに昇華させたもの。

ビームライフルっぽい何か。

詠唱不要


●Stun Taser -スタンテーザー-

指先から放つ飛ぶスタンガン。

詠唱不要


●Lightning -ライトニング-

体に電撃を纏う魔法。

魔法名のみ要詠唱


●Lightning Arrow -ライトニングアロー-

電撃の矢を1~5本飛ばす。

要短縮詠唱


●身体強化・飛行魔法

詠唱不要


挿絵(By みてみん)

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