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064 新しい家族。

完全に眠ってしまったミンファを、リズさんがおんぶし帰路につく。

すでに時間は夕暮れ時、帰ればきっと晩御飯が待っている。


しばらく街を離れていたとはいえ、これと言って風景に代わり映えは――――


(おや? こんなところに新築か。3階建てとは豪勢だな)


2階にオープンテラスだなんて、まるで我が家のようだ……。


……ホントそっくりだな、2階までは。


その時、3階の窓が開いた。


「お、帰ってきたんかいな。すぐ支度するさかい、ちょっち待っとってや」


それはよく知るチビメイド、メイさんだった。


……やっぱり我が家だったか。




夕食の香りに誘われるように、ミンファは眼を覚ます。

そして師匠を見て萎縮し、メイさんを見てちょっと安堵したようだった。


(まぁ、見た目だけなら同じ子供に見えるよね)


食卓を囲み、久々に我が家での夕食となる。


ミンファはここでもよく食べた。

何を口にしても新鮮なのだろう。

時折頬っぺたを抑え興奮するように悶えている。


メイさんの料理は全部美味しいから、その気持ちわかるよ。



そして……気は進まないが、3階のことに触れてみた。


「たまたま良いレンガが手に入ったからさぁ」


師匠は酒瓶片手によくわからないことを言いだした。

この世界のレンガは自生でもしてんの?


そしてメイさんがニヤニヤし始める。


「そのうち子供部屋とか必要になるんちゃうか思てなぁ……」


なんていらん気遣いを……。

食卓が気まずくなっちゃうだろ!


そう思い、チラッと隣の席を確認する。


「そうだな、ミンファを預かることになったし、ちょうど良かったな」


リズさんはまるで気にしていなかった。

その言葉を聞いて、師匠とメイさんは改めてミンファへと視線を移す。


僕は食事をしながら、こうなった経緯を説明した。


帝国や魔帝国のこと、邪教と邪神将を名乗る者たちとの戦闘……邪教騎士のことはややこしくなるので割愛する。

誰かに操られて倒しましたとか意味不明だし。


それと、ミンファの魔力……悪魔を生み出す力と、その境遇のことも話した。



「へぇ……変わった魔力してると思ってたけど、おもしろい子じゃない」


一番反応を示したのは師匠だった。

やはり最初から気づいてはいたようだ。


「どこぞの弟子より期待できそうね」


今チラッと僕のこと見ましたね?

地味に傷つくよ。


「そないけったいなヤツに利用されて……辛かったやろ? うちのことはホンマのオカンや思うてええねんで?」


そう言ってメイさんが感極まってミンファに抱き着いた。

その光景は、子供同士が抱き合っているようにしか見えない。


「この子は強大な力を持ってますけど、ずっと利用されてきたみたいなので……」


その力が周囲にもたらす影響や、物事の善悪、一般的な常識などが欠如している。

子供なんてだいたいそんなものではあるが、この子の場合はそれがより顕著だ。


これぐらいの年齢の子に必要なのは、おいしいご飯といっぱい遊ぶこと、そして……


「私の弟子にしてあげてもいいわよ」


師匠は不敵な笑みを浮かべる。


そう、力の扱い方を教えられる、師と呼べる者が必要だ。



――――刹那、修業時代の記憶が脳裏をよぎる。



『当たると死ぬほど痛いよ』

『死ぬ気で無理しな!』

『人は実戦の中で成長していくものよ』



アカン…アカン……アカーーーーンッ!


この際僕はいいよ、中身元おっさんだし。

でもこの子はダメだよ、まだ純粋な子供だもの。


もし僕と同じ修行をミンファに行おうものなら……


「し、師匠……児童虐待は大罪っすよ」


心に傷を負っちゃうよ。


「失礼ね。私がそんなことをするとでも?」


身をもって知ってますが?



◇   ◇   ◇   ◇



「ミーちゃんの……お部屋?」


3階に新しくできた6畳ほどの部屋を、ミンファの部屋にすることとなった。


部屋にはベッドと、簡素な机と椅子があるだけだ。


だが、ミンファは目を輝かせていた。

そしてそのままベッドにダイブする。


「お布団ふかふか……雨で濡れない……冷たい風も入って来ない……」


や、やめろ……その言葉は僕に効く。

ブワッと涙腺が緩むのがわかる。


そんなミンファの頭を、リズさんはそっと撫でる。


「そうだ、お風呂にも入らないとな。一緒に入ろう」


「……おふろ?」


お風呂も入ったことがないのか……。

そういえば僕も孤児院にいた頃は、水浴びぐらいしかしたことなかったな。


ミンファの手を引くリズさんと、チラッと目が合った。


「なんだ? エルも一緒に入るか?」


「――えッ?!」


なんて魅力的な提案をするんだ。

でも子供の前でそんな……。


「冗談だ。そこまで広い風呂じゃないしな」


フッと笑って、リズさんは下へ降りて行った。


……弄ばれた気分。

いつか必ず広いお風呂を用意してやろうじゃないか。




「ほかほかぁ……お風呂って気持ちいいね」


風呂上がりのミンファは、だぼだぼの大きいTシャツを着ていた。

あんなシャツどこにあったんだろう。


「息子のお古やで、今日のとこはこれで我慢したってな」


ムロさんのか……よくそんなのメイさん持ってたな。


「じゃあ明日は、ミンファの服とか色々買いに行きましょうか」


僕の言葉に、リズさんは頷いた。


そして、当の本人はうとうとし始める。

そんなミンファを、リズさんは抱き抱え2階へと上がっていく……。


ミンファを保護してからずっと思ってたけど。

リズさんって母性的というか、面倒見が良いというか……。


「良いお母さんになりそうだな……」


つい口から出たその言葉を聞き漏らさなかった二人がいた。

その二人は何も言わずに、ただこちらに視線を送ってくる……殴りたくなるようなニヤケ顔で。


何か言ってくれたほうがまだマシだよ……。


………………


…………


……


朝起きると、布団の中が妙に暑かった。

何かが体に巻き付いているような感覚……。


布団をめくると、その正体が露になる。


「ごぶりん……かいぼうごっこ……」


そこには、謎の寝言をつぶやきながら背中に抱きついているミンファの姿があった。

さらにそのミンファに抱きつくように、リズさんの姿まで……。


「ん……おはよう」


ちょうどリズさんは起きたのか、朝の挨拶を交わす。


「おはよう……ございます」


……なぜ二人してここに?

脳の処理が追いつかず、ただその光景を眺めていた。


というか、ミンファがまだ目を覚まさないので動くに動けない。


「一体いつのまに……」


たしかに昨日寝るときは僕一人だったはずだが……。


「トイレに行ったミンファがなかなか帰ってこなくてな。様子を見に来たらここに……というわけだ」


というわけで、リズさんも一緒にここで寝てしまったわけですか。


「なるほど……」


いや、ダメというわけではないんですけどね。

男は朝から無自覚に元気になってしまう部分があるんで、教育上よくないと思うんですよ。


今日はたまたまおとなしかったからセーフだけど……ホントたまたまだよ?


「んぁ…………ここどこ」


ミンファがのそりと起き上がる。

そしてゆっくりとした動作で、何かを探すように周辺を見回した。


「……ごぶりんのしんぞうは?」


夢で何してたん?




「それじゃあ、行ってきます」


朝食を済ませ、僕とリズさんとミンファの3人で街へと繰り出した。

ミンファに必要な物、まずは服だろう。


昨日リズさんの背中で寝ていたミンファは、今日初めて見る街の風景にキョロキョロと好奇心旺盛だった。

その右手はリズさんと、左手は僕と手を繋いでいる。


これは傍から見たら仲睦まじい親子に見えてしまう可能性も……


「おや? あんたらいつから三姉妹になったんだい?」


可能性は近所のおばちゃんによって打ち砕かれてしまった。




さて、まずやって来たのは、既製品だけじゃなくオーダーメイドも可能な、ブティック【グングニル】。

刺突武器のような名前だが、れっきとした服飾店だ。

大人物から子供服まで幅広く扱っているのが最大の魅力かもしれない。


外観からの印象もかなり良かった。

ガラスのショーウィンドウが高級感を感じさせる。


外からでもわかる清潔感に安心し、店の扉を開く。


だが意外にも、店内から聞こえたのは野太い男の声だった。


「あらぁいらっしゃい。可愛らしいお客さんだわねぇ」


厚化粧をした筋骨隆々のお姉さん? の姿に、僕はそっと扉を閉じた。

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