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063 世にも恐ろしい尋問。

中央都市エルヴィンまでの道中。

耳に入ってくる情報は帝国との開戦の話ばかり。


国境沿いの街トランドムでは、白銀の鎧を身に纏った公国の騎士が大活躍だったそうだ。

顔は兜で隠れていたそうだが、さぞ高名な騎士なのだろうと……。


(なんだか正体不明の全身鎧が多いな)


しかし帝国側への侵攻は行われず。

あくまでも防衛が目的の戦い。


でもそれってやられ放題なのでは?

とも思うが、実際は帝国側が敗走し、国境沿いを放棄したのだ。


公国の強さは過去の戦争の話でもわかってはいたものの、帝国が弱すぎるという印象を抱く。

すでに魔帝国の手駒だったとしても一体何がしたかったのやら……。


「民間人も攻めてきた、ってのも気になるかな……」


どうやったらそこまで人を動かせるのか。


「そうだな……だが民間人らしき遺体は見かけなかった」


リズさんのその言葉にハッとする。

たしかに帝国兵らしき遺体は見かけたものの、民間人の遺体はなかった。


それに……子供らしき姿もなかった。


これではまるで放棄したというよりは、消えたようじゃないか。



「エーちゃん難しそうな顔してどうしたの?」


気が付けばミンファがこちらの顔を覗き込んでいた。


エーちゃんって僕のことかな?

村人Aみたいでちょっとヤダな……。


「ちょっと考え事してただけだよ」


そう言って僕はミンファの頭を撫でた。


考えたくはないけど、攻めてきた民間人の中に子供もいたのだろうか……。



◇   ◇   ◇   ◇



中央都市へ帰還すると、そのまま謁見の間へ通される。

だが、ツバキとその母親は別室に案内されていた。


「――――以上が、帝国領土内で起きた戦いになります」


アルベルトが片膝を付き、エルラド公へ報告を行う。


「なるほど、それでその子が邪神将に置いていかれた……?」


エルラド公の視線がミンファに移る。


しかしこのエルラド公……どこか違和感を感じるような。


「その子は別室へ……あぁ、そちらの3人も一緒にお願いできるかな?」


3人というのは、僕とリズさんとシルフィさんの3人……つまりミンファの力を知る者だけだ。

こちらは元よりそのつもりだが、エルラド公はこのまま謁見の間でアルベルトから子細を聞くようだった。


別室で話が終わるまで待ってろってことなの?


その答えは、エルラド公への違和感とともに解消される。




案内された部屋には、まるで風呂上がりのようなエルラド公と、その背後に老齢の男性が立っていた。

どうやらツバキとその母が案内された部屋とは別のようだ。


「ちょっと汗を流したかったもんでな、こんな格好ですまない」


こちらのエルラド公に違和感は感じない。

謁見の間にいたのは影武者か……。


「さて、その子が報告にあった悪魔の……」


なぜ、すでにエルラド公の耳にそこまでの情報が……?


チラッとシルフィさんの方を見る。


「申し訳ありませんが、トランドムでそちらの方に報告させていただきました」


そちら、というのは老齢の……いつぞやのカフェのマスターでは?


目が合うと、不快にならない微笑みが返ってくる。


「そういえば紹介していなかったな。我が公国騎士の元団長であり、暗部の元頭目でもあるセバスチャンだ。……ま、今は執事の真似事と、趣味でカフェのマスターなんかやってる」


エルラド公の紹介と共に、男性は一礼をする。


「お気軽にセバスとお呼びください」


物腰は柔らかく、だが隙も無駄もない動き。

真似事というが、まさに本物のベテラン執事のようだ。

さらに経歴がその強さを証明している。


只者ではないと思っていたが、おそらくかなりの強者なのだろう。


「セバスさん、ですね」


しかしこの呼び方だと、猫耳のパチモン悪魔と被ってしまう。

でも『セバスチャンさん』って呼びづらいよなぁ……。


残念だが、パチモンのほうは違う呼び名で呼ぶことにしよう。

……いや、また会う機会があるのかはわからないけど。


「んで、話を戻すが……その子が悪魔を作れるんだって? 都市を襲った悪魔もその子が作った、ということで間違いないか?」


エルラド公を始め、皆の視線がミンファに集まる。

シルフィさんに槍を向けられたのを思い出したのか、ミンファはスッと僕とリズさんの後ろに隠れてしまった。


「もしそうだとしたら、この子をどうする気ですか?」


少なくとも僕の印象では、ミンファが悪意を持って悪魔を作るようには思えない。

もちろんそれを子供のやったことだと無責任なことをいうつもりはないし、子供のやったことだからこそ大人がそれを正さないといけないんだとは思う。


だがこちらの思惑とは違い、エルラド公の表情はひどく冷たいものになる。


「無論、悪魔の件以前に邪教の者でありその幹部だというのなら、尋問してでも情報を聞き出さねばならない」


尋問とは穏やかではないな。

リズさんも同じ気持ちだったのか、ミンファを庇いつつ後ろへ下がる。


「悪いが拒否権はないぞ。これは国家間の争いでもあるのだ」


そう言ってエルラド公は指を鳴らす。

同時に勢いよく扉が開き、瞬く間に人がなだれ込んでくる。


(クソッ! 強行する気かよ――)


恐ろしい速度で部屋のテーブルに何かが陳列されていく。


「ま、まさか……拷問器具!?」





リズとシルフィは、呆れた顔で尋問の様子を眺めていた。


「ほー、つまりその男に言われるがまま、悪魔を作っていたわけか」


エルラド公はいとも容易く、ミンファから情報を聞き出していく。

だがこんなやり方……なんて恐ろしいんだ。


「そーだよ、世界のためだって、でもミーちゃんはあまり深く考えなくていいって言ってた」


一つ話す度に、テーブルに並べられた皿に被せてある銀のクローシュが取り除かれる。

中から出てくるのは、夜会でも評判だったスイーツたちだった。


もしミンファが話すのを渋ると、目の前でエルラド公の胃袋に収められる。


(なんて……なんて恐ろしい尋問なんだ)


一つ味わってしまえば、二つ……三つと止められるわけもない。

お腹いっぱいになるころには丸裸にされてるわけだ。


「深く考えなくていい……か。それで、疑問に思うこともなかったと……?」


「ん……言うこと聞かないとご飯食べられないし……」


あまりにもあっさりと、ミンファはそう言った。


こんな小さな子が、言うことを聞かないとご飯にありつけない……だと?


怒りが込み上げてくるのを感じる。

もちろんミンファに対してではない。

そしてそれは、リズさんも同様だった。


「あの男、たしかクリストファと言ったな……次会ったら必ず細切れにしてくれる」


静かに殺気が溢れ出ていた。


なるほど……と、エルラド公は全ての皿からクローシュを取り除く。

まるで「全部食べていいよ」と言いたいかのように……。


「ミーちゃんはね、高かったから、お腹いっぱいになるのは大変なんだよ」


……一瞬、ミンファの言ってることが理解できなかった。


「人身売買か……」


エルラド公のその言葉に、自分の境遇が蘇る。

だが僕の場合と違い、すでにこの子は戦いの道具として使われていたのだ。


僕の表情まで強張っていたのに気づき、エルラド公から補足が入る。


「公国では禁止しているが、他国だとどうしてもな……。王国は年々法整備を進めていて、事実上禁止になる日も近いだろうが……」


それも帝国や魔帝国には関係ない話のようだ。



「エルラド公、そろそろ……」


セバスさんが割って入り、尋問は終わりを迎える。

ミンファは満足したのか、うとうとし始めていた。


「そうだな、ではこの子の処遇をどうするかだが……」


エルラド公の視線がこちらに移る。

何か案でもあるのか、と問いたいようだ。


「この子の力は強大ですので、師匠に相談してみようかと」


多分、僕と違って才能の塊だろうし。


「利用されてただけのようだし、それが良いだろうな」


エルラド公が話の分かる人で良かった。


「近いうち別件で仕事を依頼するかもしれん。そのときにまた話を聞くとしよう」


それは指名依頼ということだろうか。


女装させられた過去が脳裏をよぎる。

……僕は話の分からない人でいようかな……。


ブックマーク、いいね、評価、誠にありがとうございます。

非常に励みになります。


イラスト描きたいキャラが溜まりすぎてて、完全にタイミング逃したキャラが多いです。

そのうちタイミング見計らって描きたいと思います。

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