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052 永久機関。

そういえば、地下深い洞窟のはずだが特に気温に変化はないようだ。

これも異空間だからだろうか。


魔物の種類も、昆虫のようなタイプが多い。


あとは、たまに洞窟の壁と同色のゴーレム。

大きいものから小さいものまで……小さいのはちょっとかわいい。


亜種と呼ばれるものも時折現れるが、今回の目的は別にある。

なので、素材ごと死体は放置できるものは放置。

必要に応じて火葬される。


ちょっともったいないな……。


「――――ってことで、私は見返さなくちゃいけないの……ねぇ、ちゃんと聞いてた?」


あぁそういえば、プリンさんの長い身の上話の途中だった。


「ちゃんと聞いてましたよ……覚えてはないですけど」


多分耳には入ってたと思います。

脳に届いていたかは定かではありません。


「はぁ……これだから、素材の良さに胡坐かいてる女って嫌いなのよねぇ」


奇遇ですね。

僕もあまりペラペラ喋る女性は好きじゃないです。

メイさんとかだと不快感ないんだけどね、不思議だ。


それと、一応訂正しておこう。


「というか僕、男ですからね?」


その言葉を聞いた途端、ピタッとプリンさんの足が止まる。


「……は?」


あんまり驚かれるとそれはそれでショックなんですが……。


プリンさんは信じられないといった顔で、こちらの胸を触ってきた。


「この僅かな弾力、発育途上というよりは……胸筋?」


僅かとは失礼な。

これでも多少は鍛えてんだぞ。


「本当に男……今たしかBランクか……さらにスピード出世と考えたら今後それ以上にも……身長は同じぐらいか、ちょっと頼りなさそうだけど顔は良いし……」


何やら一人でブツブツと言い始めた。

ゴルグとギードは、「あーあ……」と呆れ顔だ。


「あの……プリンさん? どうしました?」


様子を窺うと、突然プリンさんは膝を曲げ、姿勢を低くして胸を強調し、無理矢理上目遣いでこちらに甘く囁いてきた。


「……どう? お姉さんと良いことしない?」


目の前で堂々と罠を設置された気分だ。

オマケに、嫌いな食べ物を釣り餌に使われてるときた。


「残念ですが、そういうのは間に合ってます」


そう言って僕はリズさんのほうを見る。

すると、さすがのプリンさんもそれ以上しつこく来ることはなかった。


「壊し屋リズリース……たしかに私じゃちょっと分が悪そうね」


ちょっと……?

随分と自己評価の高い人だ。


「なんだ? 私がどうかしたのか?」


名前が出たことでリズさんが反応する。


そして、プリンさんは不敵に微笑んだ。

おそらく、本人はちょっとした冗談だったであろう。


「ねぇ、良かったらエルリットを一晩貸してくれない?」


とんでもないことを言いだした。


ちょっと待って、僕はOKしてないよ。

変に誤解されないよね?


動揺する僕に対して、リズさんからは殺気が放たれる。


「たしかプリンといったな? 手足の4本ぐらいは覚悟してもらおうか」


ぐらいも何もそれ全部じゃん。

四肢もぐ気じゃん。


「ひッ……!」


殺気にあてられてしまったプリンさんはその場に尻餅をつく。


「落ち着いてくださいリズさん。ここじゃ人目があるんで……」


とりあえずリズさんを宥めたつもりだが、なぜかゴルグとギードは武器に手をかけ臨戦態勢になった。


なぜか僕のことまで警戒しているような……なんかおかしなこと言ったっけ?


「さすがに冗談だよ。本気でやるつもりなら、もうやってる」


そう言って、リズさんは殺気をしまい込んだ。


まぁ、そもそも本気なら僕には止められませんし。


それにしても、ゴルグとギードの二人はプリンさんのために咄嗟に動ける辺り大したものだ。

二人の事、もっと見てあげればいいのに……。


……それはそれで結局三角関係になるのか。

マジカルプリンセス……難儀なパーティのようだ。





地下19階終着点。

この先にいる魔物対策のため、打ち合わせが行われた。


ここを下った先、地下20階にいる魔物は1体だけだが、巨大な岩のゴーレム亜種らしい。

だが何度砕いたところで再生する上に、ゴーレムの核となるコアも見つからないため苦戦しているとのこと。


(なんだか第2遺跡のスケルトンと似てるな……)


あの時は後方に本体が紛れてたが、今回はゴーレム1体だけ。


なので、基本的な作戦としてはエターナルの6人がゴーレムの相手。

そして他のパーティは、遊撃とコアの捜索。


「ゴーレムか、それなら我々金狼が足止め役を買って出てもいいが?」


カマスはゴーレムの亜種との戦闘経験もあるのだろう、自信があるようだ。

だが、アルベルトはそれを認めない。


「ゴーレムと言っても他の亜種とは違う。非常に頑丈だし……なにより素早い」


素早いゴーレムってあまり印象にないな。

岩だし鈍重なイメージだ。

実際道中のはそうだったし。


「Cランクの者は極力戦闘には参加せず、周辺の探索をお願いしたい。それと、月華のメンバーは一緒にゴーレムの相手を頼む」


月華はアルベルトからの信頼があるようだ。

Aランクの者もいるし、実はすごいパーティなのかもしれない。


そして金狼のメンバーは、カマス以外はCランク。

戦闘には参加しないのが無難だろう。


「Bランクの俺は、臨機応変に動いていいんだな?」


カマスはパーティではなく単独で動くつもりらしい。


「それは構わないが……くれぐれも無茶はしないでくれ」


そう言ったアルベルトの表情には、やや陰りが見えた。



戦闘はエターナルと月華が担当してくれるんだ。

僕は臨機応変に、周辺の探索に集中させてもらうよ。


「あ、でも飛行魔法を扱える者には、上空からの支援に期待したいかな」


いつの間にか、アルベルトは笑顔でこちらを見ていた。


臨機応変に支援しろってことね。


………………


…………


……


地下20階のゴーレム戦は、思った以上に苦戦を強いられることとなった。


「くそッ! なんだこれは……硬すぎる!」


カマスは予想外の事態に直面している。

己の剣が、まったくゴーレムに通じなかったのだ。


「無理に前へ出るな! 一旦下がれ!」


アルベルトは大きな盾を持って、ゴーレムの攻撃を一手に引き受ける。



広く、そして高さのある洞窟内で、僕は飛翔し上からゴーレムを観察する。

エターナルの黒いローブの女性も飛翔し、上空から氷の矢を放つ。


飛行魔法を扱える者は少ないと聞くが、さすがエターナルのメンバーといったところなのだろうか。


あとは月華のリーダーである小柄なおかっぱ頭の少女も、上空からゴーレムを観察していた。

しかし飛ぶというよりは、見えない足場の上に立っているかのようだ。


それに……ひどく目が冷めてるというか、つまらなさそうに見てる気がする。



さて、問題のゴーレムだが。

もっとずんぐりむっくりしてるものだと思っていた。

道中現れた通常のゴーレムがそうだったからだ。


しかしこのゴーレムは思ったよりスタイリッシュで、人型兵器っぽくてちょっとかっこいい。


そしてかなり素早い。

10m程の図体で、俊敏に洞窟内を駆け回っている。


(じ、実は操縦席とかないよね?)


なんだか少年心をくすぐる容貌だ。


そう思った矢先、エターナルの連携でゴーレムの右腕が砕ける。

そこに月華の剣士が畳みかけ、左腕を切断した。


両腕を失ったゴーレムがバランスを崩したところに、アルベルトは盾ごと突進する。


ゴーレムの胴体は砕け、弾けた破片は飛び散っていく。


カマスはただ呆然と眺めていることしかできなかった。



「……ない」


上空で見えない床に立つ月華の少女は、手を筒状にしてゴーレムを覗きつつそう呟いた。


これは、隣にいる僕が相手をしてあげないといけないのか……。


「……ない?」


「うん……あれにコアはない」


少女はそう断定した。


「ゴーレムの体にはないってこと?」


だとしたら厄介だね。

周囲を隅々探索する必要性が出てくる。


「違う……コア自体を必要としてない」


必要としてない……?

じゃあどうやって再生を止めたら……。


「それって永久機関じゃ……」


僕がそう言うと、少女はこちらに何かを差し出した。


「ん、正解……あげる」


飴玉をもらった。



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