050 集団行動。
第3遺跡のアライアンス戦に誘われてから10日後の朝。
師匠からある魔道具を渡される。
僕とリズさんだけが使えるように設定したらしいが、詳細は教えてくれなかった。
野営の準備のときに包みを開けてみろとのこと。
そして、ポーチには多くの食料等が入っている。
地下20階まで潜るのに最低でも10日はかかるそうなので、メイさんにお願いして大量の大鍋料理を用意してもらった。
漏れないようにぐるぐる簀巻きして、なおかつ時間遅延の効果でいつでもほかほかご飯が食べられる。
集合場所は第3遺跡の入口。
到着すると、すでに十数名いるようだった。
多分、この集団でいいんだよね……?
とキョロキョロしていると、こちらに気づいたアルベルトから声をかけられる。
「すまない、あと1パーティがまだなんだ。荷物がないようだけど……君たちもマジックバッグ持ちかな?」
他のパーティを見ると、大荷物を抱えてる人や、数人で分担してるのがほとんどだった。
10日分だもんね。
こんな軽装で来てたら、マジッグバッグ持ちかただのバカだ。
一応、チラッとポーチを見せておく。
「ポーチか、良い選択だね。うちも全員……っと、紹介しておこう」
そう言って、仲間のところへ案内された。
「これが我らエターナルだ」
そこにいたのは、バカでかい斧を背負った筋骨隆々の女性と、軽装にナイフを携えた中性的な顔立ちの……男? 女?
それと黒いローブを羽織ったミステリアスな雰囲気の女性に、槍とも杖ともとれる長物を持った白い神官服の女の子。
あとは弓矢を背負ったすらっとした長身の男性……耳が長いことからエルフだとわかる。
何気にエルフ見たの初めてだな。
それに、この中にもう一人Aランクがいるのか。
っと、こちらも一応名乗っておかないとね。
「ローズクォーツです、よろしくお願いします」
個々に名乗ってはこなかったので、こちらもパーティ名だけに留めておく。
お互い、馴れ合いに来たわけじゃないぞってことだね。
その後、他のパーティとも軽い挨拶だけ交わしていく。
男2女2の4人パーティ【月華】
この世界では初めて見る和風な出で立ちが特徴的だ。
一際小柄な女の子がリーダーで、腰に刀を差した地味な男がAランクらしい。
日本の時代劇に出てきそうな刀や服装には出身国とか聞いてみたくなるが、冒険者間の不用意な詮索はマナー違反なのでやめておく。
男2女1の3人パーティ【マジカルプリンセス】
今からコンサートでも始めるかのような、フリフリの衣装を来た女がリーダーらしい。
男二人は年季の入った鎧を纏っており、常に女を守るように両サイドに立っている。
全員Cランクだが、その戦い方は非常に効率的で評判もまぁまぁ良いらしい。
最後は、男女二人のパーティ。
こちらは最近組んだばかりで、まだパーティ名は決まってないらしい。
二人ともCランクではあるものの、ランク以上の実力有りとアルベルトが判断し誘ったとのこと。
どちらも口数が少なくとっつきにくい。
どうにも変わったパーティが多いようだ……こちらもあまり人のことは言えないかもしれないけど。
そして、集合の時刻をやや過ぎたあたりで、最後のパーティが到着した。
「おっ、全員揃っているようだな」
頭部に違和感のある金色の鎧を纏った男は、遅れたことに対して悪びれる様子はなかった。
そして、その視線はこちらへと向く。
「これはこれは、キミたちも参加していたんだね」
たしか名前は……。
思い出せ……思い出すんだ、間違えたら失礼だぞ。
「えっとたしか……放浪のカマセさん?」
不安げに言ってみたが、ニコッと笑顔が帰ってくる。
良かった、合ってたみたいだ。
「金狼のリーダー、カマスだ。しっかり覚えておいてくれ」
間違ってたみたいだ。
紛らわしい表情するなぁ。
カマスは一度こちらに背を向けてから振り返り、話を続けた。
「あぁ、みんなの自己紹介はいらないよ」
その動きになんの意味があるのかは知らないが、頭部がすごくフワフワしてて危なっかしい。
「キミたちの情報は、すべてここに入ってるからね」
そう言いながら、自らのこめかみ部分を指でトントンと軽く叩く。
その振動で違和感のある頭部がさらにずれて、疑惑の頭部へと進化した。
笑いをこらえてる者も数名いる。
何の情報が入ってるのかは知らないが、彼の頭部の情報はすでに漏洩してそうだ。
「さて、そろそろ出発しようか、俺が先導してあげよう」
そう言ってカマスは先頭に立ち、遺跡へと進んでいく。
それに金狼の他のメンバーが続いた。
二人ほど大きな荷物を背負っている。
あれではとても戦闘ができる状態ではないので、おそらく荷物持ちなのだろう。
というか遅れてやってきておいてなぜ仕切っているのだろうか。
「あれ、いいんです?」
一応アルベルトにも確認をとっておく。
「まぁ地下10階までなら任せても大丈夫かな。さすがに無茶なことはしないだろう」
こういうことも慣れてます、って感じで大人の対応だ。
カマスよ、これが本物の爽やかイケメンだぞ。
◇ ◇ ◇ ◇
遺跡によって、異空間の作り自体がまったく違うようだ。
第3遺跡の異空間は、地下10階まで広大で深い森が続いている。
地下なのに森とはどういうことかと思ったが、そこは本当に森……ここまで広いともはや樹海だ。
空は薄暗く、天井らしきものも見えない。
そして、下層へと下って行く洞窟を進むと、また次の階の森が続いている。
「よし、今日はこの辺りで野営にしよう」
地下2階から3階へと続く洞窟の手前で、殿を務めていたアルベルトが全体に号令をかける。
だが、それに異を唱えた者がいた。
「予定より早く進んでいる。ならばもう少し先へ……3階で野営すべきでは?」
アレが蒸れるのだろう。
頭部をしっとりさせたカマスが、もう少し先へ進むことを提案する。
たしかに、ここまで現れた魔物といえば、せいぜいゴブリンの亜種程度。
しかも金狼のパーティが全部倒していくので、後ろを進むこちらはただ歩いてるだけだった。
なので先に進むだけの余力はある……のだが。
「先はまだ長い。それに予定より早く進んでいると言っても、3階を踏破できるほどではない。半端に進むよりは、長く休息を確保しよう」
アルベルトの言い分もごもっとも。
ホワイトな上司は休息の重要性をわかっているようだ。
皆カマスのことを気にせず、野営の準備をし始める。
「なっ……ま、まぁこの遺跡に慣れていない者もいることだし、そうしようではないか」
そう言ってカマスはチラッとこちらを見た。
汗でアレがピッタリ頭部に貼りついて調子が良いようだ。
さて、気にせずこちらも準備を始めよう。
まずは師匠に渡された包みを広げる。
魔道具らしいが……。
「む? それは新しいテントか?」
たしかにどう見てもテントだった。
特別大きいわけではないが、二人で使うには十分なサイズ。
「師匠からもらったんですけど、僕とリズさんだけが使える魔道具らしいです」
他の人が使えない……つまり中に入って来れないということかな?
セキュリティのしっかりした寝床が外で使えるとは、師匠にしては気が利いてる。
……多分、違う意図で渡してきたんだろうけど。
人数が多いので、夜の見張り時間の分担は短めだ。
さらに僕とリズさんは同じ時間帯の担当、つまり寝る時はこのテントで一緒なわけで……。
防音機能は……さすがについてないよね?
寝る時のことは一先ず考えないようにして、夕食の準備を始める。
昼食の時はその場に座り込んでの食事だったのでパンで済ませたが、夕食はテーブルと大鍋を出し、しっかりと準備する。
今夜のメニューは、メイさん特製のクリームシチュー。
ライ麦パンを添えれば豪華なディナータイムだ。
だが……視線を感じる。
チラッと様子を窺うと、視線の主は僕らの近くにテントを建てた、名もなきパーティの男女二人だった。
(……まぁ、たっぷりあるしちょっとぐらいいいかな?)
追加で皿によそい、二人へ差し出した。
「……いいのか?」
「良い香り……」
なんとなく、同じ男女二人パーティということで親近感があったのかもしれない。
「他の人たちには内緒ですよ?」
そう言ってシチューを渡すと、無口でちょっと不愛想だった二人の顔が明るくなった。
これは……野良猫を餌付けしてる気分だ。