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005 魔法は難しい。

師匠曰く、無属性魔法がハズレな理由を例にするとこうだ。


仮に火属性の魔法なら、3の魔力で10の大きさの火球を作れる。

それに引き換え無属性魔法は、同じ10の大きさの魔力球を作るなら、そのまま10の魔力を消費する。


つまり燃費が悪いから、よほど魔力量が多いとかでないと、すぐ魔力切れになるらしい。



「でも使い方の自由度は高いんですよね? 魔力消費を抑えて使えれば……」


「豆でも飛ばす気かい?」


それじゃ豆鉄砲だよ。

……鉄砲?


「それだ!」




外に出て大きめの木に狙いを定め、指先から小さい魔力の球を飛ばしてみる。


パチンコ玉程度の魔力球は、狙った通りにまっすぐ飛び「パンッ!」という弾けるような音とともに命中した。


「おぉ……当たったらちょっと痛そう」


「だいぶ小さくしたわね……で? 仮に相手が魔物だとして、それでどうやって倒すの?」


……たしかに。

痛いだけでただの嫌がらせレベルだ。

むしろ相手を怒らせるだけで、火に油を注ぐ行為かな?


「この大きさなら魔力消費もかなり少ないのになぁ」



あれ? でもこれって、形成と動作のイメージをちょっと変えれば……。

そう、例えば銃弾のような形で、回転の動作を加えたら―――


シュッ、と風を切るような音とともに魔力球、もとい魔力弾は「バンッ!」と木に命中しやや鈍い音をたてた。


「んん~? もっと威力上がるかと思ったのに、こんなもんかぁ」


「……あんた、変わった使い方するわね」


「でも威力的に全然ダメですよね」


何が足りないんだろう。

当たると同時に弾けてるような感じがするし……もっと硬くないとダメかな?

そもそも銃弾って金属だし、そりゃ硬くないとね。


(……金属なら重いよね?)


「あの、師匠? 魔力って重さはないですよね?」


「重さ? 重力を操る魔法ならあるけど……いや、それも魔力自体が重いわけではないからねぇ」


もし、重さも形成できるのであれば……。



指先に魔力を流す。

形は銃弾、硬さと重さは金属をイメージ、魔力消費は……形だけのときよりちょっと増えた気がする。

後はこれに回転の動作を加えて、速度も限りなく早く射出すれば―――


バシュッ、と今までで一番軽い音がした。


「ん? ……は?」


師匠は僕が目標にしていた木をまじまじと見つめる。


「これは……魔力球が出せる威力じゃないね……」


「よ、よし……上手くいった」


弾けていただけの魔力球は、人差し指がすっぽり入る程度の穴を開ける魔力弾へと昇華した。


「硬さとか重さとかも形成できればと思って……魔力消費はちょっと増えるけど、これなら実用できます?」


「硬さと重さ? ……まぁ威力はぼちぼちってとこだろうけど」


ぼちぼちか……。

でもこの方向性は間違っていないのでは?

あとは研鑽を重ねて威力を上げられれば……。


「魔力の塊に硬さはわからないでもないけど、重さ……? 無属性だからこその形成の自由度なのかしら……」


「そういえば師匠は無属性魔法は使えないんですか?」


「私も魔女なんて呼ばれてるけど、無属性魔法だけは使えないのよねぇ」


だけってことは、他の属性は全部使えるのか……ずるくね?



「ふむ……それ、狙う対象がもっと離れても当てられる?」


「遠くなるほど威力は下がるとは思いますけど、当てる分には問題ないと思います」


自分、射撃の才能ありますから。

……実感はあまりないけど。


「そう……ふふっ、これはちょっとおもしろい魔法使いになれるかもしれないわね」


普通の魔法使い候補から、おもしろい魔法使い候補に進化した。



◇   ◇   ◇   ◇



今日は属性と魔法陣について学びます。

魔力で魔法陣を術式として構築すると、魔法が顕現するそうです。

ホント意味不明。


でも何もない空間に魔法陣が浮かびあがるのはすごくかっこいい。



「まず魔法陣というものを理解しないといけないね」


「はい師匠! 無属性は魔法陣いらないのに、なんで他の属性だと必要なんですか?」


「ふむ、良い質問だ性別詐欺」


詐欺て。


「魔法陣は魔力の本質を弄り、現象としての役割を与えるために必要なのよ」


「……ふむぅ?」


「つまり火属性なら、魔力の塊を火という現象に変化させる……という術式を構築するわけ」


……なるほど?

つまり僕の魔力弾を、例えば火という現象の加わった燃える銃弾のようにしたいなら、魔法陣でそういう術式を組んで、魔力自体の本質を変化させないといけないのか。

多分……そういうことだよね?


大量の本が並べられた本棚を、師匠が物色し始める。


「あんたは雷属性だから……これね」


師匠から1冊の本を手渡される。


「この本に雷属性に関する魔法が載ってると……」


「関するっていうか、大体は1冊につき魔法1個だけね」


「……えっ?」


この分厚さで魔法1個だけなの?


「うそでしょ……」


ぱっとてきとうなページを開いてみる。

そこには魔法陣の一部分の解説っぽい内容が記されていた。


一つの魔法を覚えるのに、普通の魔法使いが半年もかかるのはこういうことなんだなぁ。


(あっ、でも羊皮紙だから厚みがあるのか……それでもけっこうなページ数だけど)



「まずは魔法陣と術式を覚えること。魔法陣のどの部分がどんな役割を担っているか理解しながらね」


「うへぇ……あっ、でも詠唱で補助とかもできるんですよね?」


詠唱とか中二病みたいで恥ずかしいけど。


「それは脳内で構築するときの補助ね、覚えて理解するのは必須よ」


思ったより楽はできないらしい。

この歳になってこんな具合悪くなりそうな勉強をしないといけないとは。

いや、まぁ肉体年齢は11歳なんだけどね。


「千里の道も一歩からというし、地道に努力するしかないよね」


「あんたたまによくわかんないこと言うよねぇ」


前世の年齢も合わせるともう47歳なもんで。

……そういえば師匠って何歳なんだろ。

女性に年齢って聞きにくいよね。



ひとまず記念すべき一つ目の魔法の勉強を始める。

無属性魔法と違って座学から始めないといけない。


「ちなみにだけど、天才なんて言われるやつはサッと読んだだけで覚える。まぁ私はそもそも読まなくても、魔法陣見ただけでわかっちゃうけどね」


いるよね、聞いてもいない自慢話をしちゃうやつ。

めんどくせー魔女。


「そういえば、この魔法書はどんな魔法の本なんですか? 雷属性ならライトニングとか?」


雷を落とすとかだったらかっこいい。


「は? 表紙に書いてあるでしょうが」


言われてみればたしかに文字っぽいものが書いてある。


「なんかすごく嫌な予感がするわね」


奇遇ですね、僕もです。


「あんたもしかして……」


「師匠! まずは文字から教えてください!」


この世界の文字は、英語の筆記体に似ている。

しかしそこはさすが異世界、似てるだけで全然知らない文字ばかりだ。


転生してこの世界にきてから、文字が必要な場面がなかったから仕方がないんだ。

僕は悪くねぇ!


「孤児をなめないでいただきたい」


胸を張る僕。

膝から崩れ落ちる師匠。


恨むなら優遇してくれなかった創造神を恨んでください。

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