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049 第3遺跡のAランク冒険者。

帝国がどうのこうのと言われても、僕らは冒険者だ。


そろそろ冒険者稼業を再開せねばなるまい。

それに、Bランクになったことで全ての遺跡を探索できるようになった。


探索の候補としては、最も冒険者が多く情報の露出も多い第3遺跡。

あるいは、未だ多くが謎に包まれている第4遺跡。


このどちらかになるが、ひとまず第3遺跡がどんなところなのか、情報を集めてから判断しようということになった。


冒険者ギルドにそっと顔を出す。

さすがにそろそろ僕らの話題も落ち着いててほしいところだ。


中の様子を窺うと、人だかりができていた。

だがこちらに注目してるわけではないらしい。


「何かあったのか?」


リズさんは堂々と近くにいたギルドの女性職員に尋ねる。


ひょっとしてこそこそしてる僕かっこ悪い?


「え? あっ、壊し屋の……」


おそらくこの女性職員に悪気はないのだろうが、リズさんの眉がピクリと反応する。


「ん……それで、この人だかりは?」


リズさん……平静を装ってはいるけど、ちょっと顔怖いよ。


「す、すいません……実は今、Aランクのアルベルトさんがいらしてて……」


Aランクといえば、世界に30人しかいないと言われるほどの猛者だ。

そんなすごい人が来ているのなら僕らなんて背景みたいなものだろう。


だがギルド内は騒がしく、とても情報収集できるような状況ではない。

結局日を改めたほうが良い気がする。


そう思った矢先、渦中の人物と目が合った。


長すぎないサラサラの栗毛に、冒険者というよりは王子様と呼んだほうが良さそうな整った顔。

銀色の鎧を纏い、バカでかい銀の盾を背中に携えたその人物は、群衆を掻き分けこちらへと向かって来る。


「ローズクォーツの二人だね、キミたちを探してたんだ」


そう声をかけてきたものの、少し照れが見えた。


だがこの流れは見覚えがある。

おそらくパーティ勧誘の類だろう。


「……僕らに何か用ですか?」


前回のこともあるので、どうしても身構えてしまう。


「そうなんだけど……すまない、ここじゃちょっと落ち着かないから、場所を変えないか?」


良く見れば、男を囲っていた群衆はすべて女性だった。

まるでアイドルのような扱いだ。


こちらとしても日を改めようと思っていたので場所を変えるのには賛成だが……。


(別にこの男の用件に付き合う必要もないんだよね……)


でもAランクを蔑ろにして不興を買うのも、今後の活動に支障を来すかもしれない。

それも不本意なので、話だけでもと思い後をついていく。


だが男は回り込まれてしまった。

瞳にハートマークでも浮かんでいそうな女性陣の包囲網は、外までぞろぞろとついてくる。


「あの……俺はこの二人に用が……って誰お尻触ってるの!」


外に出た勢いでさらに男は揉みくちゃにされていく。


それでも邪険に扱わないのは、人の好さなのだろうか……なんかイラッとする。

同じような気持ちなのだろう、遠巻きに見ている男性陣もおもしろくなさそうだ。


「悪い、ちょっと強引になるけどついて来てくれ」


そう言って男は、建物の屋根まで軽々と跳躍した。

さすがについて行けない女性陣からは落胆の声が聞こえる。


そして僕とリズさんは顔を見合わせる。


「どうする?」


「これでついて行かなかったら、ちょっと可哀想ですよね」


その光景を想像したらあまりにも不憫すぎた。


「それもそうだな……」


そう言ってリズさんも、後を追うように屋根の上へ軽々と跳んだ。

そして、今度は僕に周囲の視線が集まる。


「……いや、僕はそんなことできないからね」


仕方なく飛行魔法で飛翔すると、「おぉ……」という声が上がった。


もう今更隠さないけどさ、ちょっと恥ずかしいよ。



屋根より高く飛翔すると、屋根から屋根へ身軽に跳んで移動する男の姿が見えた。


そこから30m程度の間隔を維持しながら、リズさんは後を追っている。


二人は一切屋根に損傷を与えずに跳躍、着地を繰り返す。

そして最後に、都市の高い外壁を駆け上がった。


(魔法も使わずに重力を無視しないでほしいよ……)


リズさんはともかく、男の方はさすがAランクということなのだろう。



外壁を登りきると、男はようやく足を止めた。


「やはりあっさり付いて来るね、噂通りのようだ」


これはひょっとして、試されたのだろうか。


「……? あっ、すまない、自己紹介がまだだったね。俺の名はアルベルト、一応【エターナル】というパーティのリーダーをさせてもらってるよ」


そう言って、優男風の整った顔はキリッとした表情になる。


「私たちは……いや、自己紹介はいらぬようだな」


リズさんは淡々と言葉を交わす。

イケメンオーラが効果ないようでホッとした。


「そうだね、二人のことは聞いてるよ。【ローズクォーツ】閃光のエルリットに、壊し屋リズリース」


そうだよね、やっぱ二つ名もセットでの噂だよね。


「俺のパーティは第3遺跡に潜ってることが多くて、先日の悪魔襲来のことは話でしか聞いてないけど大活躍だったみたいだね」


そう言ったアルベルトの視線は、外壁の外……北西に小さく見える遺跡へと移った。


爽やかな風を受けながら遠くを眺めるのはやめてほしい。

絵になりすぎて非常に腹が立つ。


「噂通りだったとして、僕らに何の用なんですか?」


パーティ勧誘だったら即拒否してやろう。

断られるとは思ってなかった、みたいな困惑した顔を拝んでやりたい。


「実は今、第3遺跡の探索が行き詰っててね、いろんなパーティに声をかけてるんだ。それで、できれば二人の力も借りられないものかと思って……」


……これは、勧誘? とはちょっと違うような……。


僕は困惑した。



◇   ◇   ◇   ◇



中央都市エルヴィンの北西に位置する第3遺跡。

そこは多くの冒険者が訪れるため、情報の露出が多い。


表部分に見える遺跡はさほど大きくないが、ひたすら地下空間が続いている。

以前、穴を掘って最下層を目指そうとした者もいたそうだが、いくら掘っても地下空間には繋がらなかったことから、そこが異空間であると判明した。


そして、腕に覚えのある冒険者ほど下層へと潜っていく。


現在、最も探索を進めているパーティが、地下20階まで潜った【エターナル】の6人である。

Aランクのアルベルトをリーダーとした彼らのパーティは、Aランク2名、Bランク4名から構成され、見た目や人柄だけでなく、個々の実力と連携のとれた動きが持ち前のパーティだった。


だがそんな彼らでも、地下20階で遭遇した大型の魔物相手に苦戦を強いられており、複数のパーティで挑むアライアンス戦を計画することとなった。



「アライアンス戦は初めてかい? 複数のパーティで連携して挑む戦いをそう呼ぶんだけど、役割分担を決めるから難しく考えなくてもいいよ。今5パーティで20人揃ってるんだけど……どうかな?」


アルベルトは説明してるときが一番饒舌で活き活きとしていた。

そういう性分なのだろうか。


「一つ聞いてもいいか? それはどの程度の冒険者が揃ってるんだ?」


とリズさんが疑問を口にする。


「今揃ってるのは、Aランク3名、Bランク7名、Cランク10名だね」


エターナル以外にもAランクが一人いるのか……。

そして僕らと同じBランクも7人と考えると、戦力過多なのでは?


「それだけ揃ってれば僕らは必要ない気がしますけど……」


その大型の魔物とやらがどれほどのものかは知らないけど。

わざわざ第3遺跡に行ったことすらない僕らを誘う理由がわからない。


「そうでもないさ。悪魔を素手で屠れる剣士と、飛行魔法とオリジナルの攻撃魔法を使う魔法使い。この情報だけでも、キミたちの実力はランク相応ではない」


どうやら噂程度ではなく、ちゃんと調べてきてるらしい。


第3遺跡の探索が一気に地下20階まで進むと考えたら、悪い話ではないと思う。

そう思い、リズさんのほうを見る。


「……報酬の分配はどうなるんだ?」


たしかに大人数だし、しっかり決まってないと揉めそうだ。


「道中までの魔物は早い者勝ち。目的の魔物に関しては話し合いになるかな……そこに関しては、Aランクの名に懸けて公平な分配にすると誓おう」


ここでいう公平とは、おそらく均等という意味ではないだろう。

貢献度に応じたものだからこそ、己が肩書に誓うのだ。


わざわざ断る理由を探す必要もないか……大人数なら多少安心感はあるし。

それに第3遺跡の核があれば、不憫なエルラド公も少しは報われるだろう。


リズさんと顔を見合わせる。

お互い、とくに不満はないといったところだ。


「他のパーティとの連携は難しいかもしれませんけど、それでいいならお受けします」


リズさん以外との共闘なんて経験ないから、保険をかけておかないとね。


アルベルトはパッと表情が明るくなった。

すごく顔に出やすい人だ。


「無論だ、個の力を殺すぐらいなら好きに動いてくれていい。良い返事がもらえて嬉しいよ」


こうして、10日後第3遺跡に向かうことが決定した。

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