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004 エルリット11歳、職業メイドです。

孤児院から脱走し、絶対不可侵の森の中心にある魔女の家に住み始めてから1年が経ちました。

メイドの仕事は忙しい、そう思ってた時期が僕にもありました。


朝起きて、まずシャワーを浴びます。

ボタン一つで温水が出てきます、魔道具の一種らしいです。

シャワーを浴びたらメイド服に着替えます。

もう着慣れました、僕の一張羅です。


次に、家周辺の森で山菜や木の実を集めます。

朝食代わりに木の実をつまみ食いします。

成長期ですから。


集めた山菜や木の実をキッチンに置いておきます、あとは包丁や鍋などが勝手に調理をし始めます。

これは魔道具ではなく、キッチンそのものにそういう術式が組んであるそうです。


調理されている間に家主を起こします。

昨日もきっと遅くまで魔法の研究をしていたことでしょう、ボクは何も言わずにそっと散らかった酒瓶を片付けます。

きっと! 魔法の研究をしてたんだよね!


「師匠~もう昼前だよ~……うっ、酒くさっ!」


窓を開けて空気の入れ替えをする。

11歳の体にこのアルコール臭は毒だよ。


「んっ……」


酒臭い元凶がけだるそうに体を起こす。

起きてるのか寝てるのかわからない表情のまま、だらだらと浴室に向かっていった。


キッチンに戻り、調理し終わった料理を皿に盛りつけます。

配膳まで終わったあたりでだらだらと師匠がやってくるので、遅めの朝食……もとい昼食をいただきます。



そして午後からは掃除を……


「ってちがあぁぁぁぁぁぁぁぁうッ!! これじゃあただのメイド服着たメイドだよ!」


「うるさいぞ、何か不満でも?」


「だって師匠! いつまでたっても魔法教えてくれないじゃん!」


「家に置いてもいいとは言ったけど、弟子にするなんて言ってないでしょ。あんたが勝手に師匠って呼んでるだけだし」


「せめて雰囲気だけでも師弟関係を築こうと思って……もうこのやりとり何回目だろう」


この家に来て1年、やることはただのメイドもどきだった。

孤児院にいたころに比べれば恵まれた生活環境にはなったけど……。

でもそれじゃダメなんだよね。


「なんでそんな頑なに弟子にしてくれないんですか?」


「弟子ねぇ……別に嫌なわけじゃないんだけどねぇ」


どちらかと言えばめんどくさいという態度に思える。


「良いじゃないですか、減るものでもないですし」


「だって、あんたあんまり才能ないし」


そういうことはもうちょっとオブラートに包んで欲しい。


「まったくないわけではないんだけどねぇ……普通?」


「普通じゃだめなんですか?」


「だってねぇ、私の弟子が平凡な魔法使いって……ねぇ?」


平凡とか普通って言葉、けっこう傷つくよね。



「まぁいいわ、現実を知ればあきらめるでしょ」


そう言って師匠は水晶を持ってきた。


「魔法ってのは大きく分けて八つの属性があるの。これに手をかざしなさい、そうすればあなたが何の属性に適性があるかわかるから」


「ゴクリ……ちなみになんの適正もない人とかっているんですか?」


「二人に一人くらいはいるわよ、まぁ普通に生きてく分には別に必要ないし」


普通に生きていける環境なら良かったんだけどね……。

このままメイド人生を送るわけにはいかない。


僕はそっと水晶に手をかざした。


「これは……」


水晶は淡く輝き、黄色と灰色のまだら模様に変色した。


「雷と無属性ね。無属性は珍しいけど、この魔力量で2属性ならやっぱり普通ね」


「魔力量までわかるんですか?」


「光り方でね。才能あるやつは、あんたぐらいの歳でもこの倍は輝くよ」


そこは努力しだいで何とかならないのだろうか。


「魔力って増えたりしないんですか?」


「魔力ってのはね、人の魂にそれぞれ見合った器のようなもんがあるの。多少は器を大きくもできるけど……」


「できるけど……?」


「やりすぎると魂が耐えられずに……廃人になるわよ」


――怖ッ!



「ここまで聞いて、それでも魔法を教えてほしいっていうなら、教えてあげないこともないけど」


「ないけど……?」


「そうねぇ…あんたが15歳、つまり成人するまでに、私が認めるレベルに達しなかった場合、スッパリあきらめて一生メイドね」


「よろしくお願いします師匠!」


僕は二つ返事で承諾した。

だってこのままじゃ、どの道一生メイドだもんね。



◇   ◇   ◇   ◇



今日から魔法について勉強が始まります。

ちゃんと勉強しないと一生メイドコースです。


「さて、まずは属性の話からしようかしらね」


魔法には属性というものが、大きく分けて八つある。

【火属性】【水属性】【風属性】【雷属性】【土属性】【光属性】【闇属性】【無属性】


「細かく分けるなら、水属性には氷属性とか、光属性には聖属性、闇属性には冥属性……数えだすとキリないぐらい派生があるわ。オリジナルで派生属性作るようなやつもいるからね」


「はい師匠! キッチンが勝手に調理し始めるのは何属性なんですか?」


「あれは私のオリジナルだからねぇ、別にどれってこともないんだけど。人工霊に調理させてるから、あえていうなら闇属性?」


「oh……」


うちのシェフはゴーストだった。




「んじゃ、次は魔法を発動するまでの手順ね」


そう言うと、師匠の指先に魔法陣が浮かび上がり、小さな火の玉が現れる。


「魔法ってのは魔法陣で術式を構築して顕現させることを言うの」


「構築……? 急に魔法陣が浮かび上がったようにしか見えませんでした」


「構築ってのは基本的に脳内でするの。下手くそなやつほど、構築補助として長い詠唱が必要になるわ。私も全魔法無詠唱でできるわけではないけどね」


「じゃあその魔法陣を理解しないと、そもそも魔法使えないんですか?」


「そりゃね、例えばこの魔法陣をこう変化させると…」


魔法陣の一部が変形していき、火の玉が小さく二つに分かれる。


「こんな風に、構築された術式そのものが変わってくるから、魔法陣の理解は必須ね」


「その魔法陣自体を脳内で……複雑な形してるし難しそう」


「詠唱を補助として使うにしても、ある程度は理解して脳内でぼんやりと構築できないと無理ね」


「ひょっとして一つ魔法を覚えるだけでも大変……?」


「そうねぇ、魔法学校なんてものもあるけど、半年で1個覚えるぐらいじゃないかしら。卒業までの3年間で6個魔法使えたら平均的な魔法使い、って感じかしらね」


なんてこった、こんな複雑そうな魔法陣を理解して覚えないといけないのか。

……どんどん自信がなくなってくる。



「まぁ無属性はまたちょっと手順が違うけど、まずは魔力の扱い方かしら」


そういって師匠は僕の手をとる。


「正直いくら口で説明しても、こればっかりは感覚で感じ取るしかないからね。今からあんたの魔力を引っ張り出すから感覚で捉えな」


師匠の手が熱くなると同時に、体の奥底から何かが滲みだす感覚を覚える。

これが魔力……それはまるで、血液のように体内を巡り始めた。

こんなあっさり感じ取れるようになるなんて、実はすごいのでは?


「才能あるやつはこんなことしなくても、なんとなく魔力を巡らせる感覚を会得するんだけどね。ま、一発で感覚わかったなら上出来かしら」


別にすごいことじゃなかった。



「じゃあ今度はその巡ってる魔力を、手の平の上にボールを作るイメージで動かしてみて」


ボール……ボーリング玉ぐらいのサイズを作るイメージで、右手から魔力を吐き出してみる。

体の中から血の気が引くような感覚で魔力が流れていくのがわかる。


そして右手に半透明の丸い流動体が現れる。


「このサイズで大体あんたの魔力の9割ってとこかしら、まぁ普通の量ね」


9割も流れたのか……血の気が引くような感覚はそのせいか。


「ちなみにこれが無属性魔法みたいなもんだから。魔法陣による術式の構築がいらない分、魔力量以上のことができないから、よほど桁外れの魔力持ってないとハズレ属性なのよねぇ」


「……えっ? なんか簡単にできたけど、無属性ってハズレなんですか?」


「他の属性魔法が構築なら、無属性魔法は形成と動作イメージがすべてだから、使うだけなら簡単なのよ」


たしかにイメージだけで魔力の球体を作れたから簡単ではあったけど……ハズレなのか。

簡単にできただけになんとか活用したい感はあるけど。


「ハズレな理由、聞く?」


「一応……聞かせてください」


魔法陣難しそうだし、楽な道に逃げたいなぁ。

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