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037 職人の子は職人。

魔道具店での買い物から、大工事が行われていた。


屋内に管を通したり、給水庫や保冷庫の置くスペースを確保したりとけっこうな大工事である。


とくに給水庫は大変だったようだ。

目立つ場所に置いても仕方がないので、地下を掘る羽目になった。


だがどの工事も、メイさんが一晩で……とはさすがにいかなかったが、二日ほどで完成した。


こうして快適で文化的な生活が手に入ったので、次は先の戦闘で砕けたリズさんの剣の替えを用意しないといけない。



「なんや、二人して買い物か?」


リズさんと鍛冶工房に行こうとしたところ、メイさんに声をかけられた。


「リズさんの剣を新調しに工房へ行こうと思いまして」


折れてしまった漆黒の剣と同等ぐらいの品はほしいが、さすがに難しいだろう。


「良い剣だったのだがな、相手が悪かったと思うしかあるまい」


そう言って、リズさんは剣の残骸をメイさんに見せる。


……ん? よく見ると、剣身だけじゃなくて柄も砕けてない?

だとしたら相手がどうとかの理由だけじゃなくない?


「ほー、ぼちぼちの剣やったのにあかんかったんか」


メイさんはまじまじと残骸を見る。


金貨15枚の剣がぼちぼちなのか……。

でも、この人も昔は鍛冶をしていたんだったな。

職人だからこそわかる何かがあるのだろうか。


「この剣を買うたとこに行くんか?」


ムロさんの工房のことだね。


「そのつもりですけど……メイさんも行きます?」


何やら興味ありそうだったので、ついそう聞いてしまった。

だが実際、目利きができるなら心強い存在だ。


「んー……せやな、旦那の打ち方と似とるし興味あるわ」


こうして、3人でムロさんの工房へと向かった。


行くのは3回目だけど、まだムロさん本人にはあったことないんだよね。

今日こそいるといいのだけど。





「ここがその工房です」


さて、職人メイさんのお眼鏡に適う工房なのかどうか……。


「ん? なんやここかいな」


なんだか知ってたような反応だ。

実は他所でもすごい有名な工房なのだろうか。



「お、今日はまたぞろぞろと連れてきたね」


工房に入ると、相変わらずカーラさんが店番をしていた。

ざっと見てみるが、漆黒の剣より高い剣はやはり置いていない。


「すまない、これと同等かそれ以上の剣がほしいのだが」


と言ってリズさんは残骸をカウンターに出した。


「……マジ?」


カーラさんは信じられないという顔で残骸を眺める。


「今日も親方さんはいないんですか?」


3度目の正直ということで今日こそは。


「んー、いることにはいるんだけどね……今ちょっと凹んでてさ」


いることにはいるのか。

作った本人に直接見てもらいたかったけど……。


「何かあったんですか?」


「なんか欲しい素材があったけど、高すぎて手が出せなかったんだってさ」


くわしくは知らないよ、っといった感じでカーラさんは肩を竦める。


「やっぱりちょっと無理してでも手に入れておけば……とかぶつぶつ言っててめんどくさいんだよね」


と愚痴を零す。

上司への不満を聞かされてる気分だ。


その時、奥から筋骨隆々で立派な髭を携えた40代ぐらいの男が現れた。


「誰がめんどくさいだって? ……話し声が聞こえると思ったら客が来てんのかよ」


身長は180cmぐらいだろうか、こちらが見下ろされる高さだ。

男はこちらを一瞥だけする。


「悪いな、しばらく剣を打つ気分じゃ――――お、おふくろッ!?」


男は狼狽する。

その視線の先にいるのは、我が家のちっこいオカンメイド、メイさんだった。





ムロさんの鍛冶工房、その2階部分にある居住スペース。

現在とっている住み込みの弟子はカーラさん一人なので、実質二人暮らしのようだ。


そして今現在、居住スペースのリビングに招かれているのだが……。


「立派に独り立ちした思てたら、そないしょうもないことでうじうじと――――」


工房の主であるムロさんは、メイさんの一人息子だそうな。

それがまるで先日の僕らのように正座させられている。


ちっこいメイドに正座させられている巨漢……ホントに息子なのか信じがたい。


「息子さん……デカイっすね」


「ほんま、図体だけは旦那譲りででかなってもうて」


ムロさんはドワーフとのハーフになるが、父親似ということで体格もそちらに似たらしい。


カーラさんは引き続き店番をしている。

まぁ親方のこんな情けない姿は見せられないよね。


「でもおふくろ、アダマンタイトだぜ? 伝手に金を工面してもらえたら手に入ったかもしれねぇんだ」


借金してでも手に入れるべきかどうか、という悩みだったようだ。


「はぁ……若い頃のガジットと同じようなこと言うてるわ。ほんまいらんとこばっか似てもうて」


メイさんの旦那さん、尻に敷かれてたんだろうな……。


しかし、アダマンタイトか。

そういくつもポンポンあるようなものなのだろうか。


そういえばムロさんて、この間も城に呼ばれてたんだよな……。


「……ひょっとして、これがほしかったんですか?」


そう言って僕は黒い人型の残骸、アダマンタイトを取り出した。




「この通りだ! そいつはどうかに俺に!」


アダマンタイトを見せた途端、ムロさんの目の色が変わった。

ムロさんはこちらに向き直り、正座から土下座にフォームチェンジしていた。


そして、メイさんの息子を見る目もまた悪いほうへ……


「ウチ……情けのうて泣きとうなってきたわ」


息子さんの土下座姿を見せられたらね……。


リズさんも憐れんだ目で見ている。


「エル、私は土下座より剣のほうが……」


いや、別に土下座を要求してるわけじゃないよ?

そりゃ僕だって剣のほうが良いに決まって……そういえば、親方の許可がないと売れない剣があるってカーラさんが言ってたな。


「顔を上げてください。えっと……黒曜魔石の剣があと1本ありますよね?」


「黒曜魔石……あぁ、俺の最高傑作があるが……」


最高傑作なのか……そうなるとさすがに厳しいかもしれないな。


「じゃあそれと交換で――――


「――是非ッ!」


即答しちゃったよ……。

アダマンタイトってそこまでの代物なの?


これじゃあこっちが損しそうな気がするので、もう一つ条件を追加する。


「あと、これを使って最高の剣を1本作っていただけるなら、譲ってもいいですよ」


鍛冶師がそこまでして欲しがる素材だ。

きっとけっこうな業物が出来上がるのではないだろうか。


「それはまぁ……時間さえもらえるなら」


ロムさんは『そんなんでいいの?』って顔をしている。

……僕は交渉が下手なのかもしれない。


「堪忍なエル、ウチのバカ息子が情けないばかりに……せや! 1本どころか好きなだけ持ってったらええ」


メイさんがそう提案すると、ロムさんの顔が硬直した。


「えっ……いや、おふくろ? それはさすがに……」


笑顔のメイさんに苦笑いのロムさん、親子の上下関係が良くわかる構図だ。

親と子の見た目がまるで逆ではあるけど……。


「リズさんはどう思います?」


使うのはリズさんなので、本人の考えを聞いておきたい。


「そうだな、その最高傑作というのを実際に見てみたい」


ごもっともだ。




「これが、今の俺の最高傑作。【モントクリーガ】だ」


ムロさんが持ってきたのは、やはり同じ漆黒の剣。

だが、以前購入した剣とはどことなく違う雰囲気を感じる。


「これは……今まで見た中で最高の剣だ」


受け取ったリズさんはご満悦な様子。

さらにアダマンタイトを使った剣も1本打ってもらえるなら、悪くない取引なのではなかろうか。


しかし、メイさんはなかなかの辛口評価だった。


「んー……まぁ75点ってとこやろか」


息子には厳しいご様子。

だがムロさんの反応も思ったものとは違っていた。


「あ、おふくろもやっぱそう思う? でも黒曜魔石じゃそれが限界なんだよな」


最高傑作って言ってたじゃん……。


「せやなぁ、素延べしやすい素材やけど……十文字でやったんやろ?」


「あぁ、数えてはないけどな」


職人同士の難しい会話が始まった。


要するに今はこれが最高傑作だけど、素材さえあればもっとすごいの作れるんだぜ?

ってことなのだろう。


……話、長くなりそうだな……。




そろそろこの辺で……と帰ろうとすると、ようやく職人同士の会話が一旦中断された。


「本当に良かったのか? 言っちゃなんだが、それと新しい剣1本打つだけじゃそっちが割に合わないと思うぜ?」


一応ムロさんにも申し訳ない気持ちはあるようだ。

好きなだけ……はさすがに無理なようだが、他にも数本ほしいのがあったら持っていけと言われた。


でもね、犠牲になる剣は少ない方がいいでしょ?


ということで、とりあえずモントクリーガだけいただくことになった。

アダマンタイトはムロさんも初めて扱う素材のため、しばらく時間をくれとのこと。


「ま、そういうことなら手入れや修理対応は今後サービスさせてもらうよ」


最初見たときよりだいぶ元気そうな顔だ。


「ウチはもうちょっと工房見てから帰るわ」


メイさんはきっと息子の仕事振りを見たいのだろう。

……多分。


僕とリズさんは次に攻略予定の第3遺跡、そちらの情報を求めて冒険者ギルドへと向かった。

ブックマーク、いいね、評価ありがとうございます。


拙い文章ではありますが、これからも見ていただけると幸いです。

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