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035 ヴァ・エルラド

ギルドの外には、豪華な馬車が止まっていた。

おそらくこれに乗って城に行くのだろう。


「まるで国賓みたいな扱いじゃないですか……」


遺跡って踏破すると国のお偉いさんに呼ばれるの?

そんなの初めて知ったよ。


「あのバカ、大袈裟なもん用意しやがって」


ジギルも知らなかった様子。


そして、招かれるまま馬車に乗り、城へと向かって行く。


でもこれ……すごく目立つんです。

小さい子が手を振ってきたりもする。

違うんです、別に僕は貴族とかじゃないんです。


隣に座るリズさんは堂々としていた。


なんて男らしい……。


なお、ジギルは御者の横に座っている。

気でも利かせたつもりだろうか……。




城に着き、玉座の間に通される。

城の門を通ってからここまで、見るもの全てが高級品だった。


お偉いさんに呼ばれたと思ったら、まさかの国のトップ……?

だがそれにしては、近衛騎士とか警備が少ない気がする。


ジギルとリズさんが跪く、釣られて僕もマネをする。

そして、玉座の主が姿を現した。


「……面をあげよ」


そこで初めて国のトップ、エルラド公の顔を……。

どこかで見たことがあるような男性だ。


「ふむ……下がれ」


エルラド公がそういうと、騎士たちは全員出ていってしまった。


やけにあっさり下がるな……ちょっと不用心なのでは?


「場所を変えよう、ここは肩がこる」


そういって客間へと案内された。


最初からこっちに案内してほしかったよ。




「悪いな、一応体面的なものであんな場に呼んだが、俺としてもこっちが話しやすい」


そう言って、先ほどまでとはまるで違う、砕けた口調で話すエルラド公。


体面的なもの……お偉いさんにも色々あるようだ。


「それであんな馬車まで用意したのか。相変わらず悪趣味だな」


ジギルはやけに親しげな様子だ。


「改めて自己紹介しよう。私が、ロックエンド・ヴァ・エルラドだ。堅苦しいのは好かん、楽にしてくれ」


握手まで求められる。

いいのだろうか……さすがにそれは不敬な気も。


「私の名はリズリースです」


リズさんは堂々としてるなぁ……。


「エルリットです……」


僕は遠慮がちに握手を交わす。

小心者ですいません……。



「さて、今日呼んだのは他でもない。遺跡の核の件だ」


国が買い取りたいって話だったけど。

具体的にいくらぐらいの値がつくのだろうか。


「あれは国の発展に必要不可欠なものでな。この国が短い年月でここまで発展したのも、あれのおかげなのだ」


遺跡の核ってそんなすごい物なのか。


「不満はあるかもしれんが、白金貨100枚で譲ってくれると助かる」


「――よろこんで!」


即決でOKした。

白金貨100枚……それだけあったら、魔道具でもっと生活を豊かにできる。


「わかってる、これでは少な……ん? いいのか?」


エルラド公はやや戸惑っている。


リズさんのほうも一応確認するが、問題ないという顔だ。


「僕らが持ってても仕方ないですし」


使い道とか使い方もわかんないしね。


「そうか……まぁ、快諾してもらえて良かったよ」


あっさり交渉成立してホッとしてる顔だ。

国のトップはきっと色々と大変なんだろうな。


「じゃあここからは先輩としての話だ。遺跡で何があったかは大体ジギルから聞いている。魔封石と黒い人型について話をしようか」


その話は、正直聞かれてもこちらもわからないことのほうが多い。

というか先輩ってなんのことだろう。


「……先輩?」


「あぁ、知らなかったのか? 第1遺跡の踏破者は、何を隠そう俺だ」


と、エルラド公はドヤ顔で胸を張る。


……そういえばエルラド公って元々辺境伯で、力づくでこの地を制圧したんだっけ。

だから近衛騎士とかあっさり引き下がったのか……。


「それで、俺の時にも第1遺跡で似たような魔封石があったんだよ。割ったら見たこともない魔物が出てきてあれは大変だった」


なるほど、つまり……


「僕たちが倒した黒い人型も、魔封石に封じてあった魔物だと……?」


さらにその魔物の中に遺跡の核が……と考えると、なかなか厳重に保護してあるようだ。


「そう考えて間違いないな。誰が何のために、なんて俺に聞くなよ? それを解明するのは学者の領分だ」


気にならないと言えば嘘になるけど、一介の冒険者が知ってもどうしようもない気がする。


その後、黒い人型にどんな攻撃が通じて、どんな戦いをしたのか聞かれたので答える。

人工精霊のことに関して以外は、基本的に包み隠さずに話した。




「なるほどな……ふむ。一応、パーティ名があるなら聞いておこうか」


自分の考えたパーティ名を国のトップに覚えてもらえる日が来るとは……


「……たった二人ですけど、ローズクォーツです」


パーティ名を聞いたエルラド公が何やら思案し始める。



「あの……まだ何かありますかね?」


こちらとしては、城ってだけで落ち着かないので早めにお暇したい。


「あぁ、そうだな……今日はこの辺にしよう。帰りも馬車が必要か?」


「いえ、それはけっこうです」


目立つんだもん、恥ずかしいよ…………今日は?

そうそう会う機会なんてないはずだし、言葉のあやかな?




「はぁ……疲れた」


城を後にして、どっと疲れが出た。


「……あぁ、そうか。どこかで見たことがあると思ったら、喫茶店の――――


リズさんがそう言いかけた辺りで、すれ違う女性がこちらを振り返った。


「おねえ……さま?」



◇   ◇   ◇   ◇



農業区で、産地直送の果物を使ったパイを楽しめる、オープンテラスなカフェ【果樹の箱舟】。


本来であればテンションの上がるお店のはずなのだが、今はどことなく落ち着かない。

その原因は……


「お姉さまが王国の近衛騎士をクビになったと聞いて、ずっと心配してたんですよ」


この、声をかけてきた謎の女性が相席しているからだ。


肩甲骨ほどまであるサラサラと流れるような整った金髪。

そして、腰に携えた直剣から剣士であることがわかる。


(昔の知人だろうか……)


だが、リズさんは気まずそうな顔をしている。


「申し訳ありません、あくまで当時は王国の騎士でしたので……」


「そんなかしこまらないで、以前のようにアンジェって呼んでください」


金髪の剣士はアンジェというらしい。


「はぁ……わかった。アンジェ、私はもうただの冒険者だ。そのお姉さまというのはやめてくれ」


リズさんはやれやれと言った顔だ。

苦手なタイプなのだろうか。


「それはできません。あの時、剣と共に打ち砕かれた私の自信……お姉さまが私の目を覚ましてくださったのですから」


強さに惚れた、みたいなものなのかな。


……折られた剣?

なんか引っかかるような……。


「ところでこちらの方は?」


アンジェさんがこちらに視線を向ける。

良かった……忘れられてなかった。


リズさんのほうから僕を紹介する。


「一緒にパーティを組んでる、エル……エルリットだ」


アンジェさんはこちらを値踏みするかのように見てくる。


「魔法使いのエルリットです。どうぞよろしく……」


視線がちょっと怖い。


ふと我に返ったのか、遅れてアンジェさんも自己紹介を……


「申し遅れました。私は、アンジェリカ・ヴァ・エルラドと申します。以後、お見知りおきを」



…………今日は長い名前をよく聞く日だ。



◇   ◇   ◇   ◇



時は少し遡り、エルとリズが立ち去った客間にて、二人は話していた。


「で? 話してみてどうだった?」


そう尋ねるのは、ツルツル頭がトレードマークのギルド長ジギル。


「悪くないな、野心はあまり無さそうだし、実力があって顔も整ってる」


そして答えたのは、気品の中に野性的な強さを秘めるエルラド公。


ジギルは、そんなエルラド公に一抹の不安を覚える。


「……抱え込む気か? まぁ俺も反対はしねぇけどよ、冒険者ってことを忘れてくれるなよ?」


「無論だ、あくまで必要とあれば……の話だ。だが野心のないやつはそれが難しい」


ジギルも思案する様子を見せる。


「ま、出自ぐらいはこっちでも調べといてやるよ」


そういって、二人は窓の外……東の空を眺めた。

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