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032 満身創痍。

「……本日2度目ですね」


目を覚ますと、またリズさんに膝枕されていた。


「気が付いたか、調子はどうだ?」


「……腕は動かせないですね」


両肩はまだズキズキと痛むし、腕に力が入らない。

ついでに頭痛と、体の節々が痛む。


「下級ではあるが回復薬を飲んでおけ、多少はマシだろう」


口元に瓶の飲み口をあてられる。

それを一口……うん、味うっすい。


「おそらく両肩とも外れてるだろうな。自分の肩だったら簡単に戻せるんだが……」


自分の肩なら簡単なんだ……。


「リズさんのほうは……?」


「私はもう飲んだ、折れた腕には効果なかったがな」


だが額の出血は止まってるようだ。


今度は中級か高級回復薬もちゃんと用意しておこう。



「さて、エル……戦利品の確認といこう」


周囲にあるのは瓦礫の山か、あるいは元は魔物だったものばかり。

リッチの纏っていたローブ、それに前回と同様の骨粉。

そして二つに割れた水晶……これは黒かったはずだが、無色透明に変わっていた。


あの黒い人型と何か関係があったのだろうか。


「そういえばあの黒いやつは……?」


何も残ってないとそれはそれで不安である。


「それなら……まずはこれだ」


リズさんが見せてきたのは、菱形の黒い魔石。

中心部が赤く発光している。


「遺跡の核……ですかね?」


「おそらくな、あとは肉片……と言っていいのかわからんが」


おそらくあの人型であったであろう黒い塊もあった。


「……なんか不気味ですね。僕のポーチのほうに入れておいてください」


リズさんは僕のポーチに入れた。


良かった、生き物ではないようだ。

それに時間遅延の中なら突然変異の可能性も減らせる。


「とりあえず全部持ち帰りましょうか……でもどうやって帰りましょう」


人工精霊の分体4つにレイバレット同時使用。

もはや魔力など残っていなかった。


「私が運ぶに決まってるだろ、エルもな」


リズさんに肩で背負われる。


もはや人を背負うというよりは荷物のような扱いだ。


「……ちょっと恥ずかしいです」


「贅沢言うな」




戦利品を一通り回収し、最初に来た小部屋に戻ってきた。

そして異空間の入口……あとはここに飛び込むだけだ。


「エルは舌を嚙まないように、これを咥えていろ」


手が使えないので、ランタンの持ち手を咥えさせられる。

これで、向こうに戻っていきなり真っ暗……ということはなくなるが、非常に惨めな姿だ。


「では行くぞ、衝撃に備えろ」


備えろと言われても、肩に抱えられた状態で一体どうしろと……。


こちらの返事を聞くまでもなく、リズさんは床に飛び込んだ。





「ふぅ、広間に誰もいなくて良かったな……大丈夫か?」


無事表の遺跡、その地下の大広間に着地した。

が、着地の際の衝撃で体中が悲鳴を上げる。


「んーッ!」


口にはランタン、もちろん返事なんかできない。


「大丈夫そうだな……ん? 地震か?」


小刻みに大地が揺れ始める。

でもこの広間は大丈夫……


と思ったのも束の間、天井から小さな瓦礫が降り始めた。


(あっ、ひょっとして遺跡の核を持ちだしたから……)


今まで無事だった天井は崩壊を始め――――


「エル! 振り落とされるなよ!」


リズさんは全速力で階段を上り始めた。





(あぁ……生きてるって素晴らしい)


遺跡の外はまだ明るい……いや、これは朝日だ。

丸1日近く遺跡にいたことになる。


そしてその遺跡は、結論からいうと地震により天井全崩壊。


普通に考えたら、あんな地下の大広間が今まで無事だったことが異常なのだ。

その理由はおそらく天井の異空間の存在が関係しているのだろうが、核がなくなった今それを維持できなくなったのではなかろうか。


「……ギルドにどう報告しましょうかね」


「起こったことをそのまま報告するしかあるまい」


とりあえず、報告ついでに病院でも紹介してもらうとしよう。



エルヴィンへの道中、すれ違う人達の視線が痛い。


それも致し方ない、こちらは二人とも満身創痍。

おまけに僕は荷物のように抱えられている。


だがおかげで、あっさりとギルドの人間に発見された。


「おいおい、ボロボロのやつらがいるっていうから誰かと思えば……」


門の近くでツルツル頭のギルド長、ジギルから声をかけられた。


外で見ると頭の存在感がすごく……眩しいです。


「そんなことでわざわざギルド長が見にくるって、やっぱり暇なんですかね」


「たまたま門に用があっただけだよ。んで、なんでまたそんなボロボロなんだ?」


話せば長くなるんですよ。

だから先に病院に行きたいんです。


「すまない、先に治療ができるところへ案内してくれないか」


そう答えたリズさんの顔にも疲労感が見える。


「おっとそうだな……それなら治療院がいいだろう。金は持ってるだろ?」


この痛みから解放してくれるならいくらでも払うよ。



◇   ◇   ◇   ◇



風邪や病気は病院。

呪いや心の病は教会。

そして外傷は治療院。


と、施設によって対処できる内容が違うそうだ。


そして今回は外傷のみなので、治療院に連れてこられた。

ジギルは、「治療が終わったら絶対にギルドに報告に来いよ」とだけ言ってギルドに帰っていった。


診断の結果、リズさんは左腕の骨折と頭部裂傷。

左腕には水属性の治癒魔法、頭部には風属性の治癒魔法をかけてもらって、治療費金貨1枚。


高いのか安いのかわからない。

治癒魔法の属性も傷の容態とかで違うのだろうか……等々疑問は残るが、また今度ゆっくりその辺は勉強するとしよう。


そして僕の治療はというと……


「――いッ!」


まずは外れた肩をはめられた。

これがまたすごく痛かった……。

あとは右手首にヒビが入っていたのと、全身打撲で治療費は同じく金貨1枚。


肩は筋も痛めてるので、治療後もしばらくは痛みが続くそうだ。

なので、しばらくはできるだけ安静にしてろとのこと。




「肩はどうだ?」


「上げようとするとちょっと痛いぐらいですね」


治療院を後にした僕たちは、ちょうど近くにあった古着屋に来ている。

ボロボロの格好は目立つからね。


一度家に帰れば着替えはいくらでもあるのだが、できるだけ早く報告に来いとハゲに言われているので仕方ない。


「うむ、ちょうどいいな。私はこれにしよう」


リズさんが選んだのは、デニムパンツっぽいものとシンプルなシャツ。

スタイルがいいので良く似合う。


そして僕は……店員さんのおすすめだがどうなんだろう。

上が短めのアオザイみたいだ……。


でも黒を基調としていてちょっとかっこいい気もする。

よし、これにしよう。


二人して買ったばかりの服で店を後にする。


「……良かったのか?」


「何がですか?」


リズさんが何やら複雑そうな顔をしている。


「あの店……置いてあったのは全て女物だぞ?」


……先に言ってよ!



◇   ◇   ◇   ◇



ギルドに着くなり、もはや見慣れてしまった別室に案内される。


「さて、洗いざらい吐いてもらおうか」


低めのテーブルを挟んで向かい側に座るジギルは早速催促してくる。


「さっき他の冒険者から報告があってな、第2遺跡の崩壊が以前よりひどくて地下に下りられないそうだ。そして傷だらけで帰って来たお前ら……何か関係があるのか?」


これは長くなりそうだ……。


異空間の存在と構造の詳細、ローブを纏ったリッチ、謎の水晶と黒い人型の残骸、遺跡の核と思われる魔石。

今更隠しても仕方がないので、すべてを話すこととなった。


………………


…………


……


「つまり、第2遺跡踏破ってことか……?」


報告を聞いたジギルは、口元に手をあて信じられないといった顔で戦利品を眺めている。


「まぁこの骨粉は前回と同じか、量は半分程度だが」


上半身しかなかったからね。


「この割れた水晶は魔封石に似てるが……通常はもっと小さいもんだ」


魔封石……何か封じてあったということかな。

だとするとその何かは……


「んで、急に現れたのが黒い人型で、この塊がその成れの果て……か」


それは薄気味悪いんでさっさと引き取ってほしい。


「とりあえず骨粉は魔道具協会に回すとして、ローブは……また学者に見てもらわないとな。あとは水晶と黒い塊と……核らしき魔石は一度国を通す必要がある」


もしホントに遺跡を踏破したのならけっこうな大ニュースだ。

事実確認とかもあるし、こればっかりは仕方ないだろう。


「鑑定と査定、それと確認で3~5日ぐらい時間をもらうぞ。後日報せを送る」


しばらくはノンビリしたいので、こちらとしてもその方が助かる。


「あっ、手数料とってもらっていいんで、今回は全部金貨でお願いします」


今回は先手を打っておく。

下手に目立ちたくないからね。


リズさんのほうも窺うが、こちらに任せるといった感じだ。



――だが数日後に、そんな考え自体が無駄だったことを知ることになる……

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