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030 再び第2遺跡へ。

朝、目覚まし時計など存在しないが、自然と目が覚め――――


「朝やで! いつまで寝とんねん、はよ起きや!」


金属を「ガンガン」とぶつけ合う音と、耳元での大声で強制的に起こされる。

声の主は、その手にフライパンとおたまを持っていた。


「……メイさん、もう少し普通に起こしてもらえると……」


「何言うてんねん、リズはもうランニングに出てもうたで。あんたも朝の鍛錬するんとちゃうの」


そうか……もう家事をする必要ないんだったな。

つまり僕も朝から鍛錬する時間が……魔法使いの鍛錬って何をすればいいんだろう。


ひとまず顔を洗う、そして浴室は……すでに掃除済み。

じゃあ洗濯を……これもすでに干してあった。


なんてことだ、本当に朝からすることがない。

仕方がないので、庭で人差し指のみでの逆立ち……に見せかけた飛行魔法。

すごく修行してる感が出る。


うん、今度魔導書とかあったら買ってこよ……。



リズさんが帰ってきたので、3人で一緒に朝食をとる。

朝食と一緒に並んだハーブティーは、すっきりとした香りと味わいのレモングラス。

一口飲むと、朝の眠気を覚ましてくれる。


……まぁ眠気はすでに轟音で強制的に覚まされたんだけどね。


そしてメインはガーリックトーストだ。

食欲をそそる香りは自らの空腹を自覚させ、誰もが素直に口へと運ぶ。

外はカリッ、中からはジュワッと塩気と酸味のハーモニーが舌全体に広がり――――


「普通に食えへんのかいな」


メイさんから突っ込まれた。


「エルがこういう顔をしてるときは、美味いってことだ」


そしてリズさんにフォローされる。


「そうなん? 飲み過ぎたときのオカンみたいな顔しとって気色悪かったわ」


朝からひどい言われようだった。



◇   ◇   ◇   ◇



「それでは僕たちは遺跡に行ってきますんで、留守の間よろしくお願いします」


僕とリズさんは、再び第2遺跡の異空間へ探索に行くことにした。

留守を任せられる人がいると、やはり安心感が違う。


「任せとき! せや、冬支度用に薪棚とか小さい倉庫とか作ってええか?」


冬支度か、まったく考えていなかった。

現状庭は洗濯物が干してあるぐらいで何もないので、こちらとしても作ってもらえるのはありがたい。


「家に必要な物ならお任せします……食費とか、何か入用だったらこれで払っておいてください」


メイさんに金貨を2枚渡しておく。

給金からお金を出してもらうわけにはいかないからね。


「エル、あかんで? こんな簡単に大金渡すもんやないで」


不用心だぞ、とメイさんは心配してくれてるようだ。


しかし身元はロンバル商会の長が保証してるようなもんだし、今後の食費とかある程度の期間分込々のお金なのだ。


「大丈夫ですよ、ホントに貴重な物はこっちに入ってますんで」


と言ってリズさんと一緒にマジックポーチを見せた。

なんならこっちにまだ白金貨も入ってる。


「ほー、リズのはともかく、エルはなかなかけったいなもん持っとるやないか」


見ただけで違いがわかってしまうのか……ドワーフ恐ろしや。


「ま、ちゃんと貴重品の管理出来とるんやったらええわ、遺跡探索きばってきぃや」


こうして留守をメイさんに任せ、再び第2遺跡の異空間を目指すこととなった。





「何の成果も……得られませんでした……」


結局、その日の夜に探索を打ち切って帰ってきてしまった。


「ただひたすらに歩いただけで終わってしまったな」


リズさんの言う通り、異空間内を歩いただけで終わってしまった。

道が迷路のようになっており、どこまで行っても何も見つからないのだ。


「一応迷わないようにマッピングはしておいたんですけど、見た感じ一通り回ってしまったようなんですよね」


リビングのテーブルにマッピングした地図を広げる。

どの道も行き止まりになっているので、もう未探索部分が見つからない。

そもそも、あまり複雑な作りになってるわけでもなく、正方形の建物内にグチャッと道が迷路のように押し込められてる形だ。


「景気悪い顔してどないしたんや」


そう言ってメイさんがお茶を出す。

それを一口いただくと、リンゴを彷彿とさせる香りと甘みが口に広がった。

だがスッキリとした甘みで、疲れた体に潤いを与えてくれる。


「ふぅ……ありがとうございます。実はちょっと行き詰ってて……」


ほーん、と言って地図を眺めるメイさん。

職人目線から見て何かわかることはないだろうか。


「ゴチャッとしてようわからんわ」


ですよねー。


「ま、行き詰った時は細かいこと気にせんと、一旦広い視野で見ることやな。旦那がたまにそうしとったわ」


そういってこちらの背中をバシバシ叩いてくる。

真面目に痛いです……。


(しかし、広い視野……か)



◇   ◇   ◇   ◇



翌日また第2遺跡に来ていた。


だが異空間ではなく、表で遺跡を眺めている。


「広い視野、と言ってもどうしたものか……」


地上は崩壊してる部分が多いとはいえ、けっこうな広さだ。

周囲は森だし、見えるものは限られてくる。


「元はどんな建築物だったのだろうな」


と、リズさんが石壁の煤けた部分を見ながら疑問を零した。


煤けているのは壁の低い位置だ。

焚火の後……にしては一定間隔で似たようなものがある。


(篝火でも倒れたのだろうか……)


異空間の篝火がもしここにあれば、倒れた時こうなるかもしれない。


マッピングした異空間の地図を見る。


(広い視野で……正方形の迷路……)


何かに繋がりそうだが、材料が足りない気がする。

頭の中にモヤがかかっているようで気持ち悪い。



「む、雨だな……」


そうリズさんが告げると、たしかにパラパラと小雨が降ってきた。

おそらく通り雨であろう黒い雨雲が、ちょうど真上を通過して……


「……ッ!」


繋げるべき点と点はこれかもしれない。


「リズさんはちょっとここで待っててください」


小雨が降りだす中、飛行魔法で遺跡の上空へと飛翔する。

全体像がわかる高さまで来たところで、地図と見比べてみると……


(崩壊してるとこもあるし、森に囲まれてる分ちょっと形は歪だけど……)


紛れもなく正方形だ。

地図で行き止まりになった部分も、崩壊してる所を除けば完全に一致している。


(つまりこの遺跡は、あの異空間と同じ作り……?)


どういう理屈なのかはわからないが、異空間の作りがこの遺跡の地上部分と同じであるのなら……


「異空間にも、地下の大広間に通じる階段がある……?」


急いでこのこと報告するためリズさんのところへと戻った。




「なるほど、表の遺跡と同じ作りであったなら、たしかに隠し階段でもあるかもしれないな」


リズさんに報告しながら、異空間の迷路へと再びやってきた。


「でも表の遺跡は階段隠れてませんでしたよね」


「崩壊してそう見えてただけかもしれないな」


しかし、だいたいこの辺りが表の遺跡だと階段になるかな? 程度の当たりしか付けられない。

なので結局は現地で手探りなのだ。


石畳みの床をトントン叩いてみる。


……返事がない、ただの床のようだ。


仮に隠し階段があったとして、けっこう床が分厚いのでは……。

そうなると音の反響なんかではわからないかもしれない。


「これは埒があきませんね」


「そうだな……エル、ちょっと離れていろ」


リズさんから距離を取る、一体何をするつもりだろうか。


「……壊すつもりじゃないですよね?」


「安心しろ、床を引きはがすだけだ」


……んん? どういう意味?


「この辺でいいか……――ハッ!」


そう言って、リズさんが思いっきり床を踵から踏みつけた瞬間、足元が弾け、床が四方2mぐらいの塊ごと纏まって剥がれた。


「…………」


もはや言葉も出ない。


あぁ……これ、畳返しってやつかな?

……石畳でできるものなの?


「お、当たりのようだぞエル」


厚さ数十センチはあるであろう剥がれた床の下には、階段が続いていた。





「このまま大広間に出れば、エルの推測は大当たりだな」


リズさんと並んで階段を下り続けている。

遺跡同様、かなり長い階段のようだ。


「大広間があったとして、何かあるんでしょうかね」


「遺跡の核でもあるんじゃないか?」


剝き出しで置いてあれば楽なんだけどね。



階段が終わると、推測通り大広間に出た。

表の遺跡と違いがあるとすれば、篝火が一定間隔であるので、真っ暗ではなく薄暗い程度ということ。


「何かいるな……」


リズさんが部屋の正面奥を警戒する。


そこにいたのは、ローブを羽織った下半身のない宙に浮いたスケルトン。

手には武具ではなく、真っ黒な水晶を持っている。

前回と違って今回は1体だけのようだ。


「また分体でも出すんでしょうかね?」


と問いかけるものの、リズさんは相手から一切視線を外さない。


「あれは前いたスケルトンとは存在感が違う。おそらく上位種だ」


スケルトンの上位種……リッチとかだろうか。


武具を持っていないということは、攻撃手段は近接ではなく遠距離からの魔法……?

であるならリズさん同様、僕も警戒心を強めなければならない。


ここはすでに相手の間合いかもしれないのだ。


「斬撃が効くかわからない、エルは後方から支援してくれ」


「わかりまし――――


――――その瞬間、視界が暗転した。




ブックマーク、いいね、評価、ありがとうございます。

大変励みになります。


出番の多い主要キャラのイラストは、極稀頻度で描きたいと思ってます。

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― 新着の感想 ―
メイヴィルさん、ちょっと毒舌。
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