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003 メイドに転職?

あれから魔法使いのお姉さんを見かけることはなかった。

もしや幻だったのか……。


「いや、あのおっぱいは詰め物ではない……本物だった」


できれば魔法について詳しく聞きたかったが、いないものは仕方がない。

何度か森の方に探しには行ったが…。


「やっぱり何度入っても戻されるんだよな」


絶対不可侵の森、魔女が住む森、はたしてあの人が魔女だったのか…。


「とりあえず魔法については保留ということで、冒険者になるならまずは体づくりからか」


筋肉がほしいところだが、10歳の痩せた孤児に筋トレは過酷すぎる。

数年後、成人したときに細マッチョを目指すとしよう。

今はひとまず栄養のある食事を…。


「朝と晩に硬い黒パンと薄味のスープ……絶望的じゃないか」


せめてあともう一品ほしい。

そう思い、畑でも作ろうかと孤児院周辺をうろうろしていたところに珍客が訪れた。



「ん? あの馬車は……貴族?」


孤児院の前に高そうな馬車が止まっていた。


「貴族の馬車だよな? ……はっ、まさか孤児院に寄付を……? 俺の願いが通じたかのようなご都合展開でおかずが一品増える……?」


しかし様子がおかしい。

院長と、顔だけゴブリンみたいな貴族が、先ほどからこちらを指差しながら何やら話し込んでいるような……。


「何か嫌な感じ」




翌日の朝、俺だけ食事が別室だった。

いつもよりマシなパン、いつもより味の濃いスープ、そして……肉!


硬くて何の肉かわからないし薄っぺらいが、間違いなく肉だ。


「昨日のはそういうことか……」


俺はきっと貴族に引き取られるのだろう。

今日から使用人ライフか、それもきっと悪くないのかもしれない。



「男爵様が来るまでにこれに着替えておきなさい」


いままでのボロ切れのような服とは違う、まともな服を院長に手渡された。

生地もしっかりしていて、縫い目もほころびていない。

しっかりした……メイド服だ。


「いや、あの……これ女物では?」


「それが似合う男の子……というのが男爵様の出された条件だから、あなたはあまり深く考えなくていいの」


あ、これはあかんやつでは?


「ちょ、ちょっとトイレに……」


「そんな暇は……いえ、お尻はキレイにしておきなさい」


ヒェ……




トイレに入ると同時に膝から崩れ落ちた。


「あの創造神、実は俺に何か恨みでもあったのでは?」


使用人ライフ?

このままでは物理的に使用されてしまうじゃないか。

初めては好きな人がいいとかいう次元ではない、俺はノーマルなんだ。

仮に相手が好きな人だったとしても、俺のお尻はそっとしておいてほしい。


「もう逃げるしかない……」


トイレには木製の窓がある。

しかし今日はあいにくの大雨だ。

この体でどこまで逃げられるかはわからない。


もし捕まったら……。

その光景を想像すると同時に、体は大雨の窓の外へ身を乗り出していた。


絶対不可侵の、魔女が住む森を目指して……



◇   ◇   ◇   ◇



目を覚ますと――――そこは見知らぬ天井だった。

本だらけで、部屋中から木の香りが漂う静かな空間。

ふかふかのベッド……。


「ハッ! お尻は無事か!?」


起き上がろうとしたところで眩暈に襲われた。


「あふっ……お尻に痛みはないけど視界がぐらぐらする」


「そりゃあんた、さっきまで熱出てたんだからそうなるでしょ」


部屋の入口には、あの日森に消えていった魔法使いのお姉さんが立っていた。


「ということはここは……」


「私の家さね、あんた大雨の中森の入口に倒れてたんだよ」


ということは……俺は脱走に成功した?

お尻を守り切った?


「ま、いま村に帰してあげるから安心なさい」


なんて不安に駆られることを言うんだ。


「む、村だけは、村に返すのだけは勘弁してください」


「あ? なんでよ?」


「それは……」


俺はここまでの経緯を説明することとなった。


………………


…………


……


「あ~、多分それアナベル男爵でしょうね、この辺じゃある意味有名よ」


やはりそういう性癖の貴族だったか。

名前を聞くだけでお尻に寒気が走る。


「ていうかあんたやっぱり男だったのね、道理で妙なもんぶらさげてるわけだわ」


「ぶらさげ……? ヒョッ!?」


俺は一糸まとわぬ全裸だった。


「いまさら隠されてもねぇ。呪いの類で生えてるのかと思って散々観察したわよ」


「や、やっぱり魔法使いじゃなくて痴女だった!?」


「あぁん? 濡れ雑巾みたいな服着てるから悪いんでしょ、汚いから捨てたわよ」


「それは……申し訳ありません」


でもしょうがないじゃん、孤児だもの。




「でも困ったわねぇ、帰るとこもないんじゃ……」


「あのぉ、魔法使いなんですよね? ひょっとして、魔女が住む森という噂の魔女って……」


「まぁ、私のことでしょうね」


魔女っていうからにはきっと魔法のスペシャリストなんだろう。

これは不幸中の幸いというやつか?


「俺に魔法を教えてください!」


「そういえば村で会ったときも魔法のこと聞きたいとか言ってたわね。なに? 魔法使いにでもなりたいの?」


あれ? 俺って魔法使いになりたいんだっけ?

射撃の才能活かす道はもう魔法使いしか残ってない……よね?

それに冒険者になるとしたら前衛とか危なくて怖いし。


「えっと、剣とか重いし危ないし? 痛いのとか嫌なんで後衛ならいけるかなって」


「女の私がいうのもなんだけど、あんたすごい女々しいわね」


平和な日本で育ったんです、ごめんなさい。


「そうさねぇ、弟子なんて別にいらないんだけど……」


「雑用でもなんでもします!」


「ふーん……今何でもするって言ったわね?」


たしかに言ったけど何か怖い。


「二つ条件が飲めるなら、ひとまずこの家に置いてあげてもいいわよ」


「じょ、条件…?」


「まず【俺】ていうのやめなさい。あんたの見た目でそれは違和感がすごいから」


「はぁ……別にいいですけど、じゃあ【僕】ならいいんですかね?」


「…………悪くないわね」


大丈夫なのかなこの魔女。


「それでもう一つの条件は…?」


「これを着なさい。いやーちょうどメイドさんがほしかったのよねぇ」


……へ?

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