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021 近衛騎士になったわけ。

宿の近くにいくつかある食堂の一つ、大衆食堂【満腹亭】。

今日はここで夕食をとることにした。

そして僕は今、中央都市に来て最も感動している。


「まさか米があるなんて……」


そしてこの店のメインは丼もの。

牛丼らしき物、豚丼らしき物、どれも名前は違うが間違いない。

この店は当たりだ。


リズさんが頼んだのは、豚丼そっくりなオーク丼。

僕が頼んだのは……どう見てもかつ丼だが、その名もビクトリー丼。


まずは肉を避けてご飯を一口。

あぁ……卵と出汁が米を包み込み、トロトロの玉ねぎが口の中で主張はするも邪魔はしない。

これには自然と称賛の言葉が漏れる。


「……やるじゃないか」


だがまだ終わりではない、次はカツだ。

主役ではあるが、大衆食堂である以上安い肉であることは必然。

あまり期待は…………ッ!?


――――柔らかい


だが歯ごたえがないわけではない。

これは……層だ! 薄切り肉で層を作っている!

そして先ほどの米と一緒に口へと運ぶ……それが完成形だと誰もが知っている、おいしくもホッと安心する温かい味。

おふくろの味と言われる所以はこれなのだ……。


「うっ、うぅ……僕が……やりました……」


「何の話だ?」



◇   ◇   ◇   ◇



さぁ、腹は満たされた。風呂にも入った。部屋には肌着だけの若い男女。

今日はお酒も交えよう。

軽く酔いが回ればやることはアレでしょう。



「前回の続きだ、私から聞く番だな」


まぁ……そうね……。

交互に聞かれたことを話す、お酒の余興だ。


「本日はグラスも用意しておきました」


「気が利いてるじゃないか」


せめて雰囲気だけは演出したいからね。


「じゃあそうだな……エル、キミは魔法学園を卒業してる年齢ではないし、誰かに教わったのか?」


「もちろん師匠がいますよ。王国の辺境にある、絶対不可侵の森……魔女が住む森って聞いたことないです?」


「魔女が住む森か、噂程度には聞いたことがあるぞ」


「その魔女が師匠です」


師匠元気にしてるかな。

変な所に飛ばしてくれた礼を言いたい、


「噂ではなく実在したのか……さぞ高名な魔法使いなのだろうな」


「名前……知らないんですよね。ずっと師匠って呼んでたら、名前聞くのすっかり忘れてて……」


「キミらしいな」


僕らしいとはどういうことだろう。


「しっかりしてそうで、どこか抜けてるということだ」


心を読まれただと!?


「しかし、キミも同郷だったのか。偶然かもしれんが、なんだか少し嬉しいな」


「黙っていたわけではないんですけどね」


聞かれてもいないのに自分のことをペラペラと喋るのって、後から恥ずかしくなるからね。




「じゃあ、今度は僕の番ですね」


何を聞いたものかな。

怪力の秘訣なんて聞いても理解できる内容か怪しいし……。


「……そういえば、なんで近衛騎士になったんですか? ご両親は元々冒険者だったんですよね?」


平民から近衛騎士に抜擢されるって、よほどの理由がないと難しい気がする。


「元々騎士になるつもりがあったわけではないんだ。だが王都で開催された剣術大会で、たまたま優勝してしまってな」


たまたまで優勝できるようなものなんですかね。


「それで騎士団からスカウトがきたんだ」


「それを受けて近衛騎士に?」


「いや、とりあえずお試しということで、第1騎士団に仮入団してみた」


入ってみたらブラックな職場でした。

なんて怖いもんね。賢明だと思います。


「第1騎士団って、近衛騎士とまた何か違うんです?」


「あぁ、近衛騎士は王族の警護が主な仕事だからな。第1騎士団は城の警備が主な仕事だ。団は4つあってそれぞれ役割、担当が違うんだ」


でかい組織なんだなぁ。

ここからどう近衛騎士に繋がっていくのか。


「それで、入ってみたはいいのだが、訓練内容に口を出したら生意気だと言われてな」


「……やっぱり、厳しい訓練だったんですね」


そりゃそうだよ、城を守る騎士団だもん。


「いや、物足りなかったから、訓練内容をもっと厳しくするべきだと進言したのだが……」


ブラックなのは新人の方だった。


「仮入団の新人がそんなこと言っても、聞き入れてもらえないのは当たり前な気もしますが」


「あぁ、だから全員性根を叩き直してやった」


……ん?


「最初に逃げだしたのは団長だったな……おかげで私が団長代理になってしまった」


……んん?


「そんなときだ、当時の第4騎士団のセリス団長が、私の考えた訓練内容にいたく感心してな。意気投合したものだ」


「……当時の?」


「あぁ、同じ訓練内容を第4騎士団でも導入して、数ヶ月後ぐらいだったか。なぜか私とセリスは近衛騎士に抜擢されたんだ」


……厄介払いかな?


「騎士団の皆も泣きながら見送ってくれたものだ」


それはきっと嬉し涙では……よほどきつかったんだろうな。


「と、近衛騎士になった流れは大体こんなものだ」


多分……突っ込むだけ無駄なんだろうな。

リズさんの前で鍛錬するのだけは絶対にやめておこう。


「……近衛騎士の性根を叩き直してやろう、とかしてませんよね?」


「近衛は少数精鋭だったからな、他の騎士と鍛錬することもなかったし……あぁでも、セリスとはたまに一緒に基礎訓練はやったぞ」


「リズさんと一緒に……? すごい方がいるもんですね」


「あぁ、弓の名手だった。遠距離だと私では手も足も出ないな」


リズさんにそこまで言わせる人がいるのか……。


「ん? 弓の名手ってことはエルフ……?」


「いや? 同じ人族だ」


「弓はエルフの独壇場って聞いたことがあるんですが。風を読むから人族じゃ敵わないとか……」


だから僕は弓を使うのをあきらめたんだ。


「セリス曰く、風が読めぬなら風ごと貫くのみ。だそうだぞ?」


なんだ、リズさんの同類か。


「まぁ私はその後クビになってしまったが、セリスは今頃どうしてるかな……」


仲の良い昔の同僚か……なんかちょっと羨ましいな。


………………


…………


……


翌日、遺跡探索に必要な物の買い出しに商業地区を歩いていた。


「ロンバル商会直営店、ここで大体の物が揃うそうだ」


リズさんの口から、何やら聞き覚えのある商会の名前が出た。


「それ……誰から聞きました?」


「ん? チロルが言ってたぞ?」


やっぱりか……高級回復薬分の買い物をさせられそうで嫌だな。


財布の紐を緩めない覚悟で店内に入って行く。

直営店だけあって中は広く、そして品揃えも確かなようだった。


魔石を使ったランタンが金貨3枚。これは便利そうだ。

簡単に火を起こせる魔道具が金貨1枚。これも便利そうだ。

七色に燃える松明が白金貨1枚。一体何の用途が……?


下級回復薬が1本青銅貨5枚。これは何本か買っておこう。

中級回復薬が1本銀貨5枚。何かあったときのために、1本か2本ぐらいはほしいかもしれない。

高級回復薬が1本金貨5枚。……僕は悪くないし。


解毒薬が1本青銅貨5枚。リズさんはともかく、僕用にほしい。

万能薬が1本金貨5枚。万能ってどこまで万能なのだろうか。

どのみち高いから買えないけど。


「とりあえずランタンと火を起こせる魔道具、それに下級回復薬と解毒薬ぐらいですかね」


「そうだな、今は必要最低限にしておいたほうがいいし、そんなものだろう」


遺跡探索で稼げなかったら……と思うとあまり無駄遣いはできない。

そんな謙虚な心を嘲笑うかのように、間延びした声が聞こえてきた。


「早速来てくださいましたねぇ」


カウンターの奥からチロルさんが現れ、早速営業してきた。


「おすすめはぁ、魔除けの香ですよぉ。一つ銀貨1枚ですぅ」


「魔除けの香って消耗品ですよね? 銀貨1枚か……うーん……」


「ちょっと割高に感じるな」


リズさんも同意見のようだ。

僕らが行ける遺跡は魔物が少ないので、尚更高く感じる。


「考えが甘いですよぉ、何日も遺跡に籠ることだってあるんですぅ、これがあればゆっくり休めますよぉ」


それはたしかに……。

でもなぁ、とリズさんのほうを見ると


「じゃあ二つもらっておこうか、効果がたしかならまたその時に買わせてもらう」


「毎度ありぃ~」


まぁお試しってことで二つあれば十分だね。


精算を済ませ、店を後にしようとすると


「やっと在庫が減ったですぅ。臭いがきつくてぇ、評判悪かったんですよぉ」



……この世界で初めて人を殴りたいと思ったよ。


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