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205/222

205 魔王の器。

半壊したフォン家の屋敷で、メイは瓦礫を押しのけ立ち上がった。


「なんやねんもう、えらい目におーたわ」


そのそばで、瓦礫がふわりと浮きルーンが立ち上がる。


「あー……私のせいじゃないからね」


襲撃してきた神官や聖騎士は物の数ではなかった。

問題があったのは……アンジェリカのほうだ。


(これは私やミンファと同等……いや、それ以上か?)


これは輪廻の融合による魔力の暴走にて起こった惨事である。

神官や聖騎士たちの襲撃があった時点である程度は退避済みだが、屋敷は悲惨な有り様だった。


さらにもう一人、セリスが瓦礫を弾き飛ばし起き上がる。


「ふぅ……せっかく盛り上がってきたところだったのに」


彼女は聖騎士との戦いを純粋に楽しんでいた。

そんな状況での出来事だったが、クロード王子を守ることは忘れていない。


「殿下、ご無事ですか?」


「あぁ、すまない」


そう答えたクロード王子は、カトレアを強く抱きしめている。


「あの、殿下……そろそろ離していただけると……」


「……いや、もう離さない」


そんな二人の下から、一人の男が呻き声を上げる。


「う…ぐぅ……殿下……できれば早くどいていただけると……」


ウィリアムは二人の下敷きになっていた。


元々殿下の盾となるつもりだった……ならばこれは本望なことだ。


と、自分に言い聞かせた。

本当は偶々近くにいただけである。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「えぇ、ありがとうシャーリィ」


ローズマリアは、比較的倒壊の少ない部分にいたことでことなきを得ていた。


「おーいてて……まだ体中が痛ぇわ。大丈夫かロック」


「あぁ、すまんなヤマト」


剣神ヤマトの周囲には、瓦礫自体がそもそも存在していない。

全て細かく切り刻まれている。

おかげで、エルラド王とマリアーナ、そしてヴィクトリアは無傷だった。



そして、この状況でようやく目を覚ましたシルフィは困惑していた。


「目が覚めたら廃墟になってたんですが……」


エルリットとリズリースの看病をしていたところまでは覚えている。

その後眠気に抗えなくなった辺りからの記憶がまったくない。

しかし状況的にアゲハが身を挺して守ってくれたのだろう。


そう思い目線で説明を求めたが、スッと目を逸らされる。


「話すと長くなります故……」


「構いません」


シルフィはジッとアゲハを見つめる。


「じ、実はですね……」


アゲハは脳をフル稼働させてその先の言葉を考え始めた。

そもそも、アゲハ自身もあまり理解できていない。

なぜなら、創造神をその身に宿したシルフィは、アゲハの目には眩しすぎて視れたものではなかったのだ。


「眩しくて……視えませんでした」


「何の話ですか?」


アゲハは助けを求めるように、メイに視線を向ける。

それに気づいたメイはルーンに尋ねた。


「んでルン、何があったんや?」


「……ちょっと説明が難しいわね」


輪廻の融合は失敗したように思えた。

あきらかな拒絶反応に、ルーンは強制的に魔法陣を破壊しようとしたのだ。

本来ならそれでも手遅れのはず……。

だが実際はどうだ、器自体はすんなり融合していた。


(ひょっとして拒絶していたのは魂の方……?)


それこそありえない。

転生者で、尚且つ前世の記憶があるのに拒絶する意味がわからない。


「いや、拒絶したというのも少し違うのかしら……」


どれも推測の域を出ない。

確認したくとも、当の本人は魔力を暴走させながら飛び立ってしまった。

その気配の先には神力の結界があったはずだが、今はそれも残っていない。

エルリットたちが上手くやったのだろう。


「こりゃ私らもさっさと避難したほうが良さそうね」


「らしいで、シルフィ」


「ちょっと何言ってるかわかんないです……」


………………


…………


……


「なるほど、そんなことが……」


シルフィは眠っている間に起こった出来事を聞くと、槍を手に立ち上がった。


「アンジェリカさんことはわかりませんが、二人が再び戦いに赴いた以上、私だけ休んでいるわけにもいきません」


まだ困惑している部分はある。

創造神様のこととか、エルさんの出生とか……。

この身を介していたことだが、正直現実味が薄い。


しかし他人から与えられた情報なんてそんなものだ。

自分だけ直接創造神様と話せなかったことは非常に無念だが……。


(私の信仰心は間違っていなかった……と解釈していいんですよね)


本当の神降ろしを経験したにも関わらず体は軽い。

さすがに無尽蔵に創造神様の力を行使……なんてことはできないが、今なら聖女の名に恥じない戦いができる気がする。


「私もお供します」


アゲハもそれに続く。


「だったらさっさと行きな。帰る場所ぐらいは守ってやるからさ」


ルーンの言葉に二人は頷き、エルリットたちの元を目指して大きく跳躍していった。



「守るっちゅーてもウチらにできることあるんかいな」


「まぁあるんじゃない? あちらさんもまた動き出したようだし」


神官たちはその場に倒れたままだったが、聖騎士たちは再び動き始める。

それを見て、セリスも弓を構えた。


「少数精鋭と言ってもさすがにしつこいな」


これが増援であったなら特に思うところもなかった。

しかしどうにも様子がおかしい。

それまで魔力消費を抑えていたルーンも、そのことには気づいていた。


「あれじゃあ聖騎士っていうより死霊騎士ね」


鎧の中身から一応は生気を感じる。

血の通った人間であることは間違いない。


この状況に、クロード王子もカトレアを庇いつつ剣を抜いた。


「同じ人でありながら言葉が通じないとは残念なことだな」


本人はいたって真面目に戦闘に加わるつもりのようである。

もはや呆れるしかなかったルーンは、メイに向かって目で訴えた。


「しゃーないな、お守りは任せとき」


その手で王子の服を掴み、ズルズルと引き摺っていく。


「ほれ、足手纏いはさっさと退散するで」


「んな!? 私とてそれなりに――――ちょっ、待って……なんだこの馬鹿力は――」


王子はまったく抵抗できなかった。

カトレアはルーンに向かって頭を下げ、その後をついていく。

微笑ましいものを見るように、ローズマリアもそれに続いた。


「さて、地味な役回りだけど、これで少しは派手に暴れられるわね」


そう言って笑みを浮かべるルーンを見て、セリスは確信した。

この辺り一帯が更地になるな……と。



◇   ◇   ◇   ◇



公爵の攻撃は中々エルリットを捉えられなかった。

しかしエルリットの攻撃もまた、公爵に対して決定力に欠けていた。


(互角……はちょっと楽観視しすぎか)


こちらは少しでも油断すれば命取りだ。

それに引き換え、公爵の方には余裕がある。


「神力の消耗でも狙っているのかね。だとしたらアテが外れたな、創造神の力とはこういうものだ」


神力は霧散するでもなく、再び公爵の力として再利用されていた。

魔力と違って自然界に還るものではないらしい。


(何かこの状況を打破できる手段は……)


そう思った矢先――――あまりにも膨大な魔力の気配を感じ取る。

それはまるで突然現れたかのようだった。


「師匠……ではないか」


黒い魔力が周囲を取り囲む。

師匠にしてはあまりにもドス黒い魔力だ。

とはいえ、他にこれほどの魔力に心当たりがあるとすれば、ミンファぐらいしか……。


しかし遥か高みからこちらを見下ろしていたのは、人の形をした魔力の塊だった。


「アンジェリカさん……?」


はっきりと見えているわけではないが、そんな気が――


「――――!」


悲鳴にも近い叫びが響き渡る。

夥しい魔力は収束し、その肉体に取り込まれていく。


魔力の靄が消え――アンジェリカさんの姿がはっきりとする。


それを見て、公爵は笑みを浮かべた。


「ほう……以前は取るに足らない存在だったはずだが、中々に見違えたではないか」


そんな公爵の煽りに対し、アンジェリカはひどく冷たい眼差しを向けていた……。

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