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203 もうじき死ぬ男と救世主。

俺は最期の死に場所に、大聖堂の地下を選んだ。

あそこは自分が産まれた場所でもある。

もっとも、今は空に浮いているので地下とは呼べないかもしれないが……。


「ま、自分で死に場所を選べただけマシか」


思えば自分で何かを選ぶなんて初めてかもしれない。

兄弟……もうじき俺もそっちに行くぜ。


「ねぇ、本当にエルリット様こっちに向かったの?」


クリフォードの感傷に浸る時間は一瞬で終わった。


「はぁ……ちょっとは空気読んでほしいもんだ」


神官たちが救世主に頭を抱えていたのも頷ける。

暗殺対象になったのは性格上の問題だと言われても納得してしまいそうだ。


「あー、多分地下とかにいるんじゃねーかな」


絶対いないと思うけど。


「地下? そんなのあるの?」


「お前さんが召喚されたのも地下だったはずだが?」


厳密には、教会と大聖堂の中間にある召喚用の地下広間だ。

そこから教会側へ行くと書庫があり、大聖堂側には公爵と自分以外は立ち入れない部屋がある。


(そう……そしてそこが俺の墓場になるんだ)


忌々しいあの場所を爆破し共に散る……よし、これでいこう。


しかしそうなるとこの女が邪魔だな。

適当な部屋にでも放り込んでおくか?


「あそこ地下だったんだ……言われてみれば窓とかなかった気がする」


幸いにもこの女は建物内の構造をあまり把握できていない。

そうと決まればその辺の個室にでも閉じ込めるとしよう。


「ちょっとあの部屋に寄っていいか?」


「え、なんで?」


まぁ当然の疑問だよな。


「今の状況にピッタリな物を保管してあるんだよ」


「ピッタリな物……?」


首を傾げながらも付いて来る……なんてマヌケな女なんだ。


以前赤髪の剣士にびびってトラップを用意したことがある。

たしかこの部屋にも仕掛けてあったはずだ。

ここだけじゃない……大聖堂や教会の至る所に仕掛けてある。

まさか今頃出番が回ってくるとは思わなかった。


扉に鍵はかかっていない。

室内はベッドと机、そしてイスがあるだけの簡素な部屋。


(相変わらず使ってるのか使ってないのかよくわからん部屋だ)


その割に掃除は行き届いている。

だが問題ない、俺の仕掛けた罠は天井に……


「……ないんですけど」


綺麗さっぱりなくなっていた。

おかしい……たしかここには足止め用の術式が組んであったはず。


「ひょっとして天井にあった変な模様? あれならこの前消しちゃったよ」


「……はい?」


女の言っている意味がわからなかった。

そもそも素人が簡単に消せるようなものじゃ……


(……そういえば神力使えるんだったな)


あれを使えば簡単に消せるのも頷ける。


「勝手なことされると困るよ……」


ホント余計なことばかりする救世主だ。

人の気も知らないで好き勝手やってくれる。


「えー……でもここ一応私の部屋だし。週末に帰ってきたら変なのあったんだもん」


「……さーせん」


実際に使ってたり使ってなかったりした部屋だったわけか。

人の部屋を知らないで好き勝手やってたのは俺だったようだ。


(仕方ない、何とか別のトラップに誘導して――――)


――突如、部屋全体がズシンと揺れる。


「キャッ……じ、地震!?」


「いや、空に浮いてるから……」


地震だけはありえないだろう。

それに揺れたのは一瞬だけだった。


(戦いが始まった……って考えるのが妥当だな)


そうなると、ここもいつまで無事かわかったものではない。


「急いだほうが良さそうだ」


クリフォードはキララを置いて部屋を出る。

そして、ドアノブを破壊した。


「ちょっと、何してんのよ!」


「悪く思うなよ。俺にもやることがあるんでな」


もはやなりふり構っていられない。

安全とはいえない場所かもしれないが、俺のやろうとしていることを見せても酷なだけだ。


そう思い、クリフォードは走り出した……その時だった――――


再び、一瞬だけ大きな揺れが発生する。

それと同時に、ガコンと何かがはずれたような音が聞こえた。


クリフォードは嫌な予感がして振り返る。


「タイミングわるぅ……」


どうにも今の揺れで扉がはずれてしまっていたのだ。


「さ、案内してよね」


今度は手をガッチリと握られてしまった。

勘弁してくれ……。


………………


…………


……


地下へ下りると、妙な不快感を覚えた。

それは呪術の気配に近いが、神力のようでもある……そんな感じがした。


「おかしいな……」


人の気配はない。

間違いなく今地下にいるのは自分とこの邪魔な女だけのはずだ。


「なんか……変な感じがする」


腐っても救世主、違和感に気づいているらしい。

そしてその気配がする場所は……


「よりによってここかよ」


自分が死に場所として選んだ場所だった。


手に魔力を込め、そっと扉に触れる。

それが鍵代わりとなって人物を識別しているのだ。


「……入らないの?」


この女に入ってほしくはないが、駄目だと言っても付いて来るだろう。


「はぁ……」


クリフォードはため息を漏らしつつ扉を開ける。

中は灯りもなく真っ暗だった。


これなら余計な物を見られなくて済むか……?


「なにここ、真っ暗じゃない」


すると、キララは神力を身に纏い淡く光り始めた。

おかげで室内が優しい光で照らされる。


「今日って厄日なのかな……」


何をしても上手くいかない。

死ぬにしても日を改めたほうが良い気さえしてきた。


「ここは……何かの実験室?」


物珍しいのか、キララはキョロキョロと部屋を見渡している。


実験室か、あながち間違ってはいないな。


「まぁ似たようなもんだ……気配の正体はあれか」


部屋の中央に邪神像が置かれている。

それも神像を元にした物だ。

まさかまだ残っていたとは……。


しかしちょっと劣化がひどい気がする。

力自体は……どこからか供給されているような……?


「何これ、趣味悪くない?」


それに関してはこの女に同意する。

一体あの男は何が目的でこんな所に設置しているんだか。


「あいつの困る顔を拝めるなら壊しておきたいが、あいにく俺じゃ無理なんだよなぁ」


一番効果的なのは神力である。

もしくは強力な物理的攻撃だ。


「――ッ!?」


クリフォードは、突如魔力が弾ける気配を上層から感じ取った。


「危ねぇっ!」


咄嗟にキララを突き飛ばす。

すると、先程までいた場所を閃光が突き抜けて行った。

それ自体はか細い光の線であったが、揺れの影響で建物自体に限界がきていたのか、天井部分がボロボロと崩壊していく。


その先にクリフォードの視界が捉えたのは、自身の産みの親であった。

ついでに目も合ってしまう。


「やべぇ、見つかっちまった……」


「貴様……やはり早々に処分しておくべきだったか」


まだ距離は開いているが、ここからでもクレストの殺気が感じ取れる。

普段から任務を失敗すれば似たような感情は向けられていたが、ここまで露骨なのは初めてかもしれない。


「超怒ってるじゃん……一体俺が何したって――


「いったぁ……何なのよ」


突き飛ばされたキララは、今なお神力を解放している。

そしてその下敷きになっていたのは……


「……してたな、俺」


邪神像は倒れ、縦にヒビが入っていた。

だがそれでもなお不気味な気配は健在――


「あんたねぇ、急に突き飛ばすとか何考えて――ってキモッ!」


立ち上がったキララは、足元にあった邪神像を踏み潰す。

その瞬間、強い光が弾けた。


「ちょ、おま……」


こいつ、わざわざ神力全開で踏み潰しやがった……。


邪神像はヒビのできていた場所から綺麗に割れ、不気味な気配は完全に霧散にしていった。


同時に、大聖堂は浮力を失い静かに落下を始める。

どうにもこれが光の柱と結界を生んでいたらしい。


うん……これもう後戻りできないわ。


「ハッ、ざまぁみやがれってんだ!」


クリフォードは、上層からこちらを睨んでいるクレストに向かって中指を立てつつ吠えた。

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