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200 おふくろの味。

おそらく同じ世界から来たであろうキララさんが話に加わると面倒なので、クロード王子たちと共に席を外してもらった。

てっきりゴネるかと思ったのだが……素直に引いてくれたのがちょっと不気味だ。


「輪廻の融合があっさり上手くいったのはそういうことだったのね」


師匠に全て説明したものの、あまり深い内容は聞いてこない。

……というより、興味があったのは創造神と関りがある部分だけのようだ。


それに引き換え、メイさんには根掘り葉掘り聞かれた。


「電気……科学……エル、今夜は寝かせへんで!」


こっちはこっちで元いた世界の技術に興味津々だ。


「こことは別の世界……そういうのもあるのか」


リズに至ってはそれ以上の感想がなかった。

それはそれでちょっと寂しい……。


「それで、アンジェもその転生者というやつなんだな?」


「えぇ、お姉さま……黙っててごめんなさい」


アンジェリカさんは頭を下げた。


「なぜ頭を下げる。やましいことがないなら堂々としていろ」


「……そうね」


頭を上げると、エルラド王に向き直る。


「お父様、こんな娘だけど……」


「みなまで言うな。前世の記憶があるってだけで、二人とも俺の自慢の娘であることに変わりはない」


シリアスな場面でそういうこと言うのはやめてほしい。

すごくツッコミ辛いじゃないか。


「……だそうよ」


アンジェリカさんは僕に軽く微笑んだ。

皆あっさりと受け入れるもんだな……。


「なんかもうちょっとこう……以前はどんな人間だったのか、みたいなことを聞かれるものだとばかり」


人間性の部分は話そうと思うと中々に難しい。

……などと少しでも抱いた不安は、リズたちによって否定される。


「何を言ってるんだエル、今まで一緒にいたのに今更そんなこと聞いても仕方がないだろ」


「エルはエルなんやから、そないなこと聞いてもしゃーないやん」


「異世界から来ると人格が急変する……とかだったら話は別なんだけど。性別詐欺の前世ねぇ……凡人の魂じゃちょっとそそられないわ」


少なくとも前世は性別詐欺ではなかったよ。

こんな整った容姿してたら独身貴族なんてやってなかった……多分。


(でも……そっか)


少しホッとした。

僕は異世界から来た異物ではなく、この世に生を受けたエルリットなんだ。


以前とか今とか関係ない。

僕はもう――――エルリットという人間なんだ。



「ところで、輪廻の融合って……?」


「あぁ、それはですね――――」


僕は、アンジェリカさんに師匠の秘術を説明した。


本来なら非常に危険なものだ。

でもそうだな……僕と同じ条件のアンジェリカさんなら、あっさりと魔力を増やせるはず。

ただ、魔法が存在しなかった前世の器ってあまり期待できないんだよね。


「……それ、私にもやってくれないかしら」


説明を聞くと、アンジェリカさんは師匠に頼み始めた。

魔力の上昇値はそれほど期待できないが、何もしないよりはきっとマシのはずだ。


「いいですよね師匠、僕と同じでノーリスクですし」


「そりゃ構わないけど、まだこっちが魔力回復できてないんだからちょっと待ってもらえる?」


そう言って師匠はワインをラッパ飲みしている。

待ってたら酔いが回りそうだけど大丈夫か?


でもそうか……魔力が回復しきっていない今なら怒られないかもしれないな。


「あの、師匠……実は僕も相談したいことがあるんですが……」


「あ?」


なんか僕には当たりが強いな……ある意味いつも通りとも言えるけど。


「じ、実は師匠にもらったポーチをですね……」


僕はポケットから砕けた魔石を取り出して見せた。


「あぁあれ、あんた面白い使い方してたわねぇ」


どうやら師匠は見てたらしい。

すると師匠は似たようなポーチを取り出した。


「ほら、あんな予備なんていくらでもあんだから遠慮すんじゃないよ」


「おぉ……師匠が珍しく優しい」


まさか似たものがまた手に入るとは思わなかった。

さすがに中身は空だろうけど……。


「……ん、何か入ってる……?」


水に保存食、そして地図などの旅に使えそうな物がいくつか入っていた。


なんだろう……別に今必要な物とも思えない。

でも旅の初心者ならこれがあれば……


「もしかしてこれって……」


「あぁそういえば、昔財布代わりに使ってたから小銭とか入ってるかもしれないわね」


そうだね、これには入ってないけど、金貨1枚入ってたよ。

当時の絶望感が懐かしい……。


「……なに、何か不満でもあるの?」


「いえいえとんでもない、ありがとうございます」


失った中身はまた集めるとしよう。

さて、重要なのはもう一つの問題だ。


「それとですね、実はアーちゃんがどこかに消えちゃったみたいで……」


公爵に刺されてからというもの、まったく反応がないのだ。

まぁ元々話しかけても返事があるわけではないのだが、魔力的な存在感すらないのはおかしい。


「アーちゃん? 誰それ」


師匠はとぼけているわけでもなく、至って真面目に忘れてそうだった。


「ほら、師匠が僕にくれた人工精霊のアーちゃんですよ」


「……そういえばアンタそんな名前で呼んでたわね。ホント引くわ」


至って真面目に引いてそうだから割とショックだ。


「まぁいいわ、ちょっと後ろ向きなさい」


言われた通り背を向けると、首筋に師匠の手が触れる。


「……何よ、普通にいるじゃない」


「え? そうなんですか?」


おかしいな……たしかにあの時飛行魔法が使えなかったし、今もまったく存在感がない。

念のため、試しに軽く飛行魔法を使って――――


「――へぶッ!」


頭に強い衝撃が走る……天井に思いっきり激突してしまった。


「いったぁ……」


「何やってんのアンタ」


師匠は呆れた目で見ていた。


「おかしいなぁ……」


そんな勢いつけたわけじゃないのに……というか飛べたな。

あの時飛べなかったのは他に原因があるのだろうか……。


「ふむ、エルはもう問題ないようだな。私もいつでも行けるぞ」


リズは起き上がると、エルラド王の元へ歩み寄った。


「魔神……いや、エルの母上殿はこちらのベッドに寝かせた方がいいだろう」


「……すまん、助かる」


エルラド王は少し遠慮がちに、魔神をベッドへと寝かせた。


(母上殿……か)


創造神のお墨付きがあってもまだ素直にはなれなかった。


僕と同じ白い髪に、顔立ちも少し幼くすると似てるかもしれない。

もはや魔神としての圧倒的な力も感じないし、母親だと言われたら納得するしかないのだろう。


(でも思い出とかもないしな……)


この異世界に転生して、物心ついた頃には孤児院にいた。

母親との思い出なんて……


「刺されたり……神力をぶつけ合った記憶しかないな」


当時は本人の意識がないようだったけど、刺された痛みは忘れられないよ。


「許せとは言わん。でもエルリット……間違いなくマリアーナはお前の母親だ」


「それはそうなんでしょうけど……あまり良い思い出がないなって思って」


僕がそう答えると、アンジェリカさんはどこか居心地が悪そうだった。

彼女も母親というものに何か思うところがあるらしい。


「そりゃそうか……唯一知ってるのは料理の味ぐらいか」


「……料理?」


はて、そんな記憶はまったくないが……。


「そういえば言ってなかったな。【老後の嗜み】のキングブルシチューはな、元々マリアーナのレシピなんだ」


なんですと……?


「セバスもより良いものにしようとして試行錯誤したようだが、結局元の味に落ち着いてな」


「そう……だったんだ……」


そうか……僕はおふくろの味を知ってたんだな。


ギュッと拳を握りしめる。

母の手を握るエルラド王の眼差しは「ここがお前の居場所だ」とでも訴えているようだった。


なんだ……思ったより不遇でもなかったんだな。


「師匠、彼女の容態はどうなんですか?」


「そうさねぇ……魔神としての力はもうここにないようだけど、魂は綺麗に融合しちゃってるわね。おそらくそれが原因で目を覚まさないんじゃないかしら」


そう言うと、師匠は魔石とグラスを二つずつ取り出した。


「魂と器は常に二つで一つ。そして彼女の中にはそれが二つずつある……まぁ今のアンタもそうだね」


魔石の入ったグラスが二つある……が、師匠はその内片方のグラスだけを消した。


「でも器がなくなると、魂は収まる場所がなくなっちまうのさ。かといってもう一つの器に強引に魂を入れると……」


魔石同士が触れ合うと、赤く光り出しグラスはドロリと溶けた。


「こうなっちゃうのよ。輪廻の融合は器のほうも融合させるからこうはならないんだけどね。そもそも魂の融合自体そうそう上手くいくもんじゃないのよ」


「じゃあ彼女の器を取り戻すしかないのか……」


つまり魔神の力を取り戻す必要があると。


「そうねぇ……もしくは代わりの器でもあれば――――


師匠の言葉を遮るように――――外から光が差し込み始める。


カーテンを開けると、空に向かって光の柱が伸びていた。

その中に、何か建造物があるようにも見える。


「あれは……教会と大聖堂?」

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