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020 中央都市エルヴィン。

複数の街道が合流し、道も広くなり、他の荷馬車等行き交う人が多くなってきた。


ひたすら横に続く高い石壁。

小高い丘から見えた高低差のある街並み。


大都会だ……。

だが地図を見てみると、都市の端には森まである。



さて、ここからはチロルさんによる中央都市の解説になる。


元々この地は、西のオルフェン王国と東のカトル帝国の国境線だったそうだが、遺跡の所有権を巡り、過去に多くの血が流れた。

それを当時のオルフェン王国、エルラド辺境伯が力で以てこれを制圧、その功績により公爵へ陞爵する。


敗戦したカトル帝国は、その後周辺の小国から度々攻撃を仕掛けられることとなった。

中には、邪教の力で勢力を拡大していくものもあり、オルフェン王国としては帝国の存在を小国への抑止力としたかった。


だが王国から表立っての支援は小国を刺激する可能性があったため、国王同意のもとエルラド公爵は中立国として独立を宣言。

他国の侵略を許さない、高い軍事力と豊富な資源にて、帝国への支援を可能にした。


それから20年……終戦した今でも王国と帝国の架け橋として、エルラド公国は中立の立場を守っている。

だが遺跡への所有権は主張せず、自由な探索を許可しているため、他国から来る冒険者も多いそうだ。




「つまり……エルラド公すごくね?」


「恐ろしく強く、そして思慮深い方だという話はよく聞くな」


天は二物を与えてしまったのか。

王国の近衛騎士だったリズさんなら会ったことあるのかな? と思い視線を向けると


「私も会ったことはないぞ? 公女様とは手合わせしたことはあるが……」


公女……? つまりエルラド公のお嬢様と?


「公女様ってお強いんです?」


「あぁ、優秀な剣の使い手だな。剣姫、なんて呼ばれているそうだ」


血は争えないってことなのか。

でもリズさんは手合わせしたのか……


「公女様にケガさせませんでした?」


「そんな気遣いは嫌う方だ、――――は折ってしまったが……」


「えっ? なんですって?」


「公女様の剣を……折ってしまったことがあってな……」


リズさんは剣に恨みでもあるのだろうか。


「ま、まぁでも訓練用……とかですよね?」


「……業物だったらしい」


oh……。


「……怒られませんでした?」


「公女様は笑って許してくれてたぞ。大臣は遺書を書いていたな……」


ホントよくクビになるだけで済みましたね。



◇   ◇   ◇   ◇



門を通過し、チロルさんとはお別れになる。


「荷物を降ろしたらぁ、ギルドに報告に行きますのでぇ、そちらも後で確認に行かれてくださいねぇ」


金貨1枚の仕事とは思えない内容だったけど、とにかくこれで護衛依頼達成だ。


「基本的にぃ、ロンバル商会にいますのでぇ、良かったら私に会いにきてもいいですよぉ」


元々この都市の商会の人だったようだ。

高級回復薬を弁償しろと言われたら面倒なので、ロンバル商会には近づかないようにしておこう。



「さて、それじゃあまずは宿でも探しますか?」


「そうだな、できれば風呂付きがいいぞ」


僕は食堂付き、もしくは近くに食堂があるのが理想だ。


「だが遺跡探索をするなら長期滞在になるだろうし、宿は割高かもしれんな……」


「まぁまぁ、まだ遺跡に行くとも限りませんし?」


危ないとこなら正直行きたくないし。




中央都市というだけあって、街中は賑やかだ。

街の中心商業地区、高低差のある住宅街、外側に面した農業地区など区画整理もしっかりしてある。


そんな中、夜騒がしくなく治安の良い立地の宿屋を求めた結果、見つかったのはレンガ作りの3階建て、風呂有り、食事なし、近くに食堂やパン屋などがある。


だが二人部屋、五日間で金貨1枚と銀貨5枚……つまり1泊銀貨3枚?

それでいて、これまた部屋はそれほど広くないし高級感もない。


「やっぱり高いですね」


「仮に一月だと金貨9枚か……家を借りたほうがマシかもしれないな」


「えっ、家を? そっちのほうが高い気がしますけど」


「程度によるだろうな。集合住宅なら安いだろうし、一軒家でも屋敷ぐらいの大きさでなければ、さすがに月に金貨9枚はしないだろう」


なるほど、今後の拠点として考えるなら、二人だしそんな大きさはいらないから安上がりかもしれない。


「ま、掃除等の家事を全部自分たちですることになるがな」


ですよねー。


……待て、それはもはや同棲じゃないか!

ここは男を見せる時だな。


「……こうみえて、昔メイドしてたので多少の家事ならできますよ」


「そ、そうか。キミも苦労してるんだな」


……アピールの仕方を間違えました。



◇   ◇   ◇   ◇



商業地区にある冒険者ギルドにやってきた。

ギルドカードを提示し、護衛依頼の報酬を受け取る。

金貨1枚……労力に見合ってはいない。


そして、素材買取でアイルグースを査定してもらってる間に、遺跡探索についての説明を聞くことにした。



遺跡探索は、ランクに応じて入れる遺跡に制限がある。

【ランク制限なし】街から南西にある、踏破済みの第1遺跡。すでにほとんど魔物はいないので、採取系の依頼がある。

【Eランク以上】南東にある第2遺跡、探索が行き詰っており踏破はされてないものの、現状魔物自体は少ない。

【Dランク以上】北西にある第3遺跡、現状最も冒険者は多いが未だ踏破はされていない。魔物の数も多い。

【Bランク以上】北東にある第4遺跡、内部の情報が少なすぎるため高ランク冒険者のみが対象。


基本的に遺跡関連で受注型の依頼はない。仮にあるとしたら指名型になる。

代わりにランクアップに関しては、他とは違う査定が行われる。


遺跡の魔物の中には亜種と呼ばれる存在がおり、その素材をギルドに一定数卸す。

あるいは遺跡にて発見した、遺物と呼ばれる物をギルドへ卸すことによって、冒険者ランクの昇格が可能。

ただし、どちらも不正を防ぐため審査がある。


遺跡内での生死に関してギルドは一切の責任を負わない。


つまり、行けるとこに勝手に行って成果持ってこいってことだね。

すごくシンプルだ。


「なるほど、道理で依頼を見ても遺跡関連がろくにないはずだ」


リズさんはすでに掲示板を確認済みだったようだ。

気が早いことで……。


「それにしても、遺跡の間に都市を作るって大胆ですね」


「だからこそ栄えたのかもしれないな。遺跡自体、本来はそうそうあるものではないし、あってもすでに踏破済みで研究され尽くしてる」


慧眼っていうのかな。

エルラド公はホントにすごい人のようだ。




「アイルグース7羽、状態も良かったからな、解体手数料を差し引いて金貨3枚だ」


頭はツルツルだが、髭はジョリジョリしてそうなマッチョおじさんに査定額を受け取る。

どこのギルドでも解体を請け負ってるのはマッチョばかりで暑苦しい。


「おいエル、あれも渡しておいたほうがいいだろう」


「あっ、そうだった。ユア湖でこんなものを拾ったんですけど……」


例の邪神像を報告しておく。

リズさんに言われるまでちょっと忘れてた……だってポーチに入れるとすごく小さいんだもの。


「あぁん? ただの割れた女神像……いや、こいつは……ちょっと待ってろ!」


慌ただしく裏手に消えていくマッチョ。

やはり危険な物だったようだ。

だが、すぐに戻ってきて――


「悪いな、ここじゃなんだから別室に来てくれ。くわしく話を聞きたい」




別室に案内され、ふかふかのソファーに座らされる。

低めのテーブルを挟んで、対面に座っているのは解体のマッチョおじ。


「先に自己紹介しよう、私はここのギルド長をしているジギルだ」


「……双子?」


裏手に消えたときに入れ替わった?


「あー、違う違う。書類仕事は性に合わないんでな、解体は趣味だ」


同一人物だったようだ。


「それで、この像について聞かせてくれるか?」


僕は、ユア湖で起こったことを、ありのままに話すことにした。


………………


…………


……


「ふむ……ユア湖の異変は間違いなくコイツが原因だろうな。これはこちらから教会に報告し、渡しておく」


邪神像を布に包みながら、ジギルは原因だと断言する。


「ま、元凶が取り除かれたなら湖も徐々に元通りになるだろう」


良かった、きっといつかユア料理のためにまた行くとしよう。


「本来なら報奨金でも出してやりたいところなんだが、邪神像となると教会絡みになってくるから金が出せん。すまんな」


「教会……ですか」


「あぁ、湖にも教会の調査は入るだろう。あきらかに人為的な物なものだからな」


そもそも教会に関しての知識なんてまるでない。

どういうこと? という視線をリズさんに向けると


「エル、邪神像は元は神聖な女神像なんだ。それをなんらかの手段で、破滅や厄災をもたらす像に作り替えているんだ」


その過程で首無しになるのかな? 呪いのアイテムじゃん。


「女神像自体は複製品なら教会で誰でも買える。そちらは何の力もなく、邪神像にもなりえない」


「本物だけが邪神像になりえると?」


「本物の女神像は、聖女の祈りで神聖な力を得るとか……くわしくは私も知らないが、その神聖な力を反転させたものが邪神像だ」


聖女……初耳なワードだ。


「だが本物自体、希少なものと聞く。すぐに出所が判明すると思うがな」


こういうときのリズさんはちょっと知的で、元近衛騎士なんだなと感じる。

戦闘中は狂戦士だけど。


「でも見た目だけでよくわかりますね、ただ首が折れただけかもしれないのに」


複製品と何か違うのだろうか。


「そりゃわかるだろう、禍々しさを感じるからな」


ジギルさんもコクっと頷く。


そ、そうなのか……。

たしかに不気味だとは思うけど……僕にはよくわからん。


「誰が何の目的で、っと気になるとこではあるが。あとは教会の領分だ、今日はすまなかったな」


ジギルさんからお礼の言葉をもらい、ギルドを後にした。

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