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197 最高戦力の敗北。

救出されたエルリット達を見て、アンジェリカは頭を抱えていた。

何せ一部始終を見ていたロイドの報告が、あまりにも絶望的な内容だったのだ。


「それが本当なら困ったことになったわね……」


Sランク冒険者三人は敗れ、その相手に勝利したリズリースも連戦できる状態ではない。

さらには魔神とエルリットの神力も教会の手に渡ったと……。


「そもそも神力を奪うなんて可能なの?」


「方法は俺も知らねぇよ。だがあの時公爵から感じた力は、間違いなくエルリットが以前ジェイク相手に使っていた力と同じものだと思う」


ロイドは顎に手をあて真剣な眼差しをしていた。

普段のように、おちゃらけてくれていたらどれだけ楽だっただろうか。


「お前さんは何か知らねぇのか?」


ロイドの問いにクリフォードは肩を竦める。


「俺も知らないな……あいつにとって俺は駒でしかなかったし。知ってることといえば、呪術に長けてるということぐらいだな」


度々出てくるが、実態がはっきりしない呪術という存在。

しかしそれが神力に通じないことを、ロイドは良く知っていた。


「呪術はたしかに厄介な存在だが、あれは神力の前じゃ無力のはずだ」


学者として実際に呪術に触れたこともある。

むしろ謎に包まれているのは神力のほうだ。


「神力の前じゃ無力なのは何も呪術に限ったことじゃないでしょ」


「……嬢ちゃんの言う通りだな」


そう……謎多き力だが、絶対的な力なのは間違いない。

しかし、おそらく公爵にとってはそうではなかったのだろう。


だから……奪われた。


「はぁ……それに今問題なのはそこじゃねぇ」


ロイドは自然とため息が出た。

今問題なのは、とても重い事実のほうなのだ。


「……Sランク冒険者ならまだここに一人いるじゃない」


「冗談言うな。あんな化物大戦争に混ざれるかよ」


そう……この戦いに付いていける者がいない。

多少の助けにはなれるのかもしれないが、戦況を左右できるほどの切り札なんてないのだ。


一人いるだけでも戦況を大きく動かせる者が揃って倒れてしまったのはあまりにも大きかった。


「そうよね……悔しいけど、私もきっと足手まといだわ」


策を講じる余地があればまた違ったのだが、あの面子が敗れた存在に策なんて意味があるのだろうか。


(勝てるビジョンがまったく浮かばない……)


別室にいるカトレア達がこの場にいなくて良かったと思う。

自分は国は背負っている以上、弱気なところは見せられないのだ。


「……公爵や教皇がここからどう動くかも考えないとな」


ロイドは事実を受け止めた上で、今後のことを考えていた。


「時間はどれぐらいあると思う?」


「わからんな。教皇の性格的に、すでに行動に移してそうなもんなんだがな」


シンプルに考えればエルラド王国に対する粛清か……。

それはあまり考えたくない。


その時、扉をノックする音がした。


「エルリット様が目を覚まされました」


扉の向こうにいるのはどうやらカトレアのようだ。

中まで入って来なかったのは、なんとなく空気を読んでいるのだろう。


「すぐに行くわ」


せめて暗い顔はしないようにしなければ……。

そう気持ちを切り替えて、エルリットたちの元へ向かう。


しかし、黒い感情を完全に抑えるのは難しい。


(私にもっと力があれば)


以前と違ってそこに怒りはなく、代わりに悔しさがあった。



あぁ神様――――私のどこに魔王の素質があるというのですか。




◇   ◇   ◇   ◇



目を覚ますと、ふかふかのベッドの上だった。

隣のベッドではリズが眠っている。

その間に、おそらくずっと看病していてくれたであろうシルフィが、イスに座ったままウトウトしていた。


(そういえば僕は刺されたんだったな……)


よく刺される腹だ、と思いながら自分のお腹をさする。


ちゃんと傷口は塞がっているようだ。

痛みもないし、おそらくシルフィのおかげなのだろう。

さらには、ちょうど人肌程度の熱源まで布団の中に……


(……普通けが人のベッドに入り込むかね)


普段なら説教でもしてきそうなメイさんが静かに寝息を立てていた。

見た目だけなら少女なので扱いに困る。


「でもなんか……落ち着くな」


なんだかんだで、この四人での空間が一番安心感があった。


「目を覚まされましたか」


「――うわッ!」


突如、四人の中の誰とも違う声がした。

それもベッドの下から……。


「……って、アゲハさんですか」


「すみません、驚かすつもりはなかったんですが……」


いつからそこにいたんだろう……いや、やましい事は何もないからいいのだけど。


「……僕はどれぐらい眠ってたんですか?」


カーテン越しでも外が暗いのはわかる。

しかし……妙に静かだ。


「半日ほどですね、先程日が暮れたところです」


「半日か……」


上半身だけ起こすと、服装はそのままなのにポーチがないことに違和感を感じる。


(緊急事態だったとはいえ、冒険者としてずっと使っていたものがなくなると少し寂しいな……)


師匠にバレたら怒られそうだ。


「……そういえば師匠たちは?」


「まだ目を覚まされてませんが、別室でお休みになられてます」


無事だとわかりホッとする。

……いや、もう一組の安否がまだ確認できてないな。


「エルラド王……魔神を担いだ白銀鎧の男とか見てませんか?」


「いえ、そのような方は……」


見てないか……そりゃそうだよな。

落ち合う場所とか潜伏先の話なんてしてないし。


(無事でいてくれるといいんだけど……)


意識を失った後どうなったのかわからないが、外が妙に静かなのが気になる。

あれほど街中は混乱していたというのに……。


「今状況はどうなってるんですか。クレスト公爵や教皇は?」


「それは……」


アゲハさんが言葉を詰まらせると、ノックなしで扉が開いた。


「全部はわからないけど、説明してあげるわ」


現れたのは、アンジェリカさんとロイドだった。

その深刻そうな顔から、あまり良くない状況だと思われる。


しかしそれはアンジェリカさんの口からは語られず、ロイドに顎で指図していた。


「あ、説明するのは俺なのか」


文字通り顎で使われるロイドを見てると、深刻そうに見えたのは気のせいな気がしてきた……。


………………


…………


……


ロイドの説明は、僕の記憶と合致していた。

つまりあの出来事は現実なのだ。


「超ヤバイっすね……」


わかっていたことだが、改めて神力が使えなくなったことを自覚する。

そしてそれが公爵に奪われたことも……。


「……前から思ってたんだけどさ、あんたって緊張感ないわね」


「そんなことは……」


ない、とハッキリ言い切れないのが悲しい。


「ほ、ほら……緊張の糸が切れた後だし?」


緊張感のある戦いは表情筋が疲れるんですよ。

そう思い頬っぺたをほぐしていると、少し呆れられた。


「はぁ……まぁ落ち込んでるよりはマシよね。でも状況はかなりマズイわよ」


そう言うと、アンジェリカさんはカーテンの隙間から外に視線を移した。


「外、妙に静かですね」


「避難が完了したんでしょうね。この辺りは貴族の屋敷が多いから灯りのついている所もあるけど……」


なるほど、それで静かだったのか……。


(ん? それはそれでおかしな気も……)


教会……というより、この国からしてみれば魔神の脅威は去ったのだ。

だとしたらこの避難は一体何のために……。


(……考えすぎかな)


しかし僕の印象はもう最悪だ。

一般市民からしてみたら、結局僕は国際指名手配犯のままだし。

その上、教会と正面から戦って返り討ちに遭ってるんだ。


(僕もできることなら避難したいよ)


避難先は王城か……それとも教会だろうか。


「はぁ……何でこのタイミングで来るかな」


アンジェリカさんは、外を眺めたままため息をついていた。


「何の話です?」


「来客よ。味方ではあるけど、今の状況だと嬉しくはないわね」


それを聞いて、僕の頭にはエルラド王が浮かんだ。

確認するために、ゆっくりと立ち上がる。


うん、特に痛むところはないな。

ただ、へばりついたメイさんは離れなかった。


「寄生虫かよ……」


剥がそうと思ったが、残念ながら彼女の掴む力のほうが圧倒的に強い。

仕方がないので、そのまま窓の外を覗き込んだ。


(あれは……)


門の辺りでこそこそしているが、遠目でもわかる三人組がいた。

一人は大きな弓を背負い、その堂々とした佇まいはどこか頼もしい存在感を発している。

それに引き換え、他の二人はどことなく頼りない感じがした。


「一人は助っ人で、残りは保護ですかね……?」


僕がそう言うと、アンジェリカさんは「でしょ?」という顔をしていた。

本人たちはそんなつもりじゃないんだろうけどね……。

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