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195/222

195 動き出した聖騎士団。

ファクシミリアン家の屋敷に匿われたクロード王子だったが、あまり長居することなく王都の路地裏から街中の様子を伺っていた。


「さすがにこの状況で人混みを逆走するのは目立つか」


しかし、どこへ向かえば今の状況を把握できるのかもわかりやすかった。

目指すべきは王都の中心地……いや、カトレアの元へ向かうならフォン家の屋敷辺りが一番可能性は高い。


「それで、殿下はどちらに向かわれるのです?」


こちらはこそこそと辺りの様子を観察しているのに対し、近衛騎士のセリスはあまりにも堂々としている。

少しは潜むということを考えて欲しいが、頼もしい存在なので何も言えない。


問題があるとすれば、屋敷に残った侯爵の代わりに付いてきたもう一人の協力者……ウィリアムのほうか。


「殿下、これは一体何が起こっているのですか」


おそらく何の説明も受けていないのだろう。

まさかこの状況で一から説明しないといけないのか?


『こいつは愚か者ですが、肉壁ぐらいには使えましょう』

などと侯爵は言っていたが、そんな使い方をする人間だと思われていたのなら少しショックだ。



さて、王城に戻るのは論外として、向かうべきは渦中であるべきかどうか。

エルリット王女も身を隠していたことを考えると、間違いなくこちらに協力的な者はいるだろう。


「セリス、騒ぎの中心に向かったとして、我々にできることがあると思うか?」


「……難しいですね。人が多くわかりにくいですが、私より強い者の気配を複数感じます」


セリスにそこまで言わせるのであれば間違いなく危険だろう。


「お二人とも一体何の話を……ん?」


話についていけないウィリアムは、人混みの中に何かを見つけていた。


「あれは聖騎士……?」


「なんだとッ!?」


クロードは驚きの声を上げる。

すぐさま確認するが、たしかに間違いなかった。


「一人か……なぜ今頃動き出したのだ」


彼らは教皇に乗っ取られた王城にすら姿を見せなかった。

それがこんな街中で……?


「殿下、直接聞けば早いかと」


そう言ってセリスは背負った弓に手を掛けた。


「……いや、避難誘導をしているように見える。ここは気づかれないように迂回しよう」


その光景に、クロードは少し拍子抜けしていた。

敵だと思っていたのだが、民間人の味方であるならそう構える必要もないのかも……


(…………本当にそうか?)


教会の聖騎士団は、国の騎士団に比べればかなり人数が少ない。

それこそ近衛騎士と同じ数名程度のはずだ。

そんな聖騎士が一人で避難誘導をしているということは、おそらく王都中に散らばっているのだろう。


(違和感があるな……)


別に聖騎士団が行わずとも、神官や国の兵で十分のはずだ。

人員の使い方としては不自然な気がする……。


「迂回するなら……どうかしましたか殿下」


「……いや、何でもない」


聖騎士の動向が気になりつつも、クロードはセリスと共にフォン家の屋敷へ向かうことを優先した。


「ま、待ってくださいよ殿下」


未だ状況を理解していないウィリアムというオマケを連れて……。



◇   ◇   ◇   ◇



王都の空で、神力同士がぶつかり大きな衝撃が生まれる。


「互角か……!」


エルリットの放った純白の槍と、教皇の放った漆黒の槍は威力が拮抗していた。


正直ある程度予想できたことではある。

だが教皇にとってはそうではなかったようだ。


「馬鹿な……神の力を相殺したじゃと!?」


信じられないものを見たように啞然としていた。

よほど自信があったんだろうな……。


「……いや、所詮王女だと思うて手を抜きすぎたか」


どうやらまだ全力ではなかったらしい。

本人の気のせいじゃなければだけど。


「これならどうじゃ!」


今度は黒い雷を両手に帯電させていた。

神力の強さ的には、さっきの槍とさほど違いはない。


だから僕は――――先程より強く神力を込めた。


「なんとなくそうなるとは思ってたけどね……」


僕の手に、教皇と似た黒い雷が生まれる。

以前魔神相手に神力を使ってからだろうか……こうなったのは。


「ふんっ、見た目を真似したところで神の力の前では無意味じゃ!」


教皇の放つ黒い雷は、音よりも早く目前に迫る。

――が、それが僕に届くことはなかった。


「――ば、馬鹿な……」


僕の放った雷が、邪魔な雷を飲み込みながら教皇の頬をそっと撫でる。

本当は直撃させるつもりだったのだが、それは頬を薄皮一枚切り裂いただけだった。


「さすがに逸らすぐらいの威力はあったか」


教皇の使っている神力は魔神のもので間違いない。

しかし威力の方は……比べるまでもないな。


「おかしい……なぜそれほどの神力が使える!? お前は一体何者なんじゃ!」


「先程ご自分の口から王女だと仰ってたではありませんか」


正確には王女ではないんだけど。

そもそも神力が使える理由なんて僕だって知らないよ。


「ええい煩わしい! 魔神とは勇者であり、神の半身なのだ。その力が通じぬ相手など存在してはならんのじゃ!」


教皇は闇雲に神力の塊を作り始める。

僕の目には、それがあまりにも雑な使い方に見えた。


(でも、強大な力には変わりないんだよな)


神力同士の戦いなら僕の方に分があるのはあきらかだったが、極端な差があるわけではない。

長引いて街中に被害でも出たら困る。


「神の半身の力が通じない相手か……それなら一人だけ、心当たりがあるんだよな」


一人と数えていい存在ではないだろうけど……。


僕は神力の源を再確認した。

思い返すと、創造神にこの体を一時的とはいえ貸した時からだろうか。

頭よりも体が取り出し方を覚えてしまったんだ。


(この力は世界の理から外れている……)


創造神の神力は有限のものではない。

繋がったままのパスを通じて神力を取り出す……いや、創り出すと言った方が正しいのだろう。


「なんじゃその神力は……ふざけるなぁぁぁぁぁッ!」


教皇は漆黒の塊をただこちらに向かって投げつける。

だがそれは、僕の手にある純白の光が打ち消した。


「あなたの信仰するナーサティヤ様のでしょ」


創造神の力に制限はなく、やり方次第で何でもできる気がした。

光を教皇に向け、まずは内部にある神力を引き剥がす。


(黒い神力……これは魔神の力だな)


それともう一つ、神力と似ている存在があった。


「これはキララさんのか……返してもらうよ」


他にも似た力をいくつも感じたが、それを引き剥がすにはあまりにも教皇との結びつきが強かった。

おそらく過去に神降ろしで生命力を奪われた人の分だろう。


でもキララさんの分は……まだ間に合う!


「や、やめろ……それがないと魔神の力が……」


教皇は何かを言いかけたところで止めた。


「完全に取り込めなくなる……ってことかな?」


取り込んですぐに自分の生命力に変換できるのなら、すでにキララさんのもそうなっているはず。

しかし魔神の力は膨大で、それを生命力にとなると年月が必要……そこでキララさんの力が必要だったわけか。


「図星っぽいですね」


それなら話は早い。

これはキララさんに返してしまおう。


(……何かに引っ張られてる?)


空に掲げると、引き寄せられるようにフォン家の屋敷の方へ飛んで行った。

まるで意思があるようだ……邪魔さえなければあるべき場所へ戻るようになっているのかな。


「ぐっ、しかしまだ魔神の力はワシの手中にある」


教皇はこちらを警戒し、自身の周囲に結界を張った。


「往生際が悪い……」


とはいえ、教皇から魔神の力を引き剥がした後はどうしよう。

そのまま魔神に返していいものだろうか。


「……こいつが持ってるよりマシか」


なんなら僕の方で預かっててもいい。

そう思い、教皇から魔神の力を引き剥がそうとした、その時だった――――


「な、なんだ……?」


王都の至る所で、真っ黒な柱が突如として現れる。

それはまるで塔のようだが、決して物理的な物ではない。

何か禍々しい気配を感じた。


「これは……聖騎士の連中か、一体何を……」


教皇の仕業かとも思ったが、どうにも違う様子だ。


「聖騎士の……?」


聖というよりは呪いのような印象を受ける。

全部で八本……そして、ここは全ての柱の中心に位置しているような……?


「――狙いはここか!?」


そう気づくや否や、ゾッと嫌な気配を背後から感じる。


「残念、狙いはキミだよ」


聞き覚えのある声がするのに、後ろを振り返ることができない。

僕は、目の前にある剣から目が離せなかった。


それが自分のお腹から伸びているものだと気づくと、腹部が熱くなるのを感じる。


「クレスト…公爵……」


目の前の剣が背後から刺されたものだと理解した頃には、赤い液体がゆっくりと伝っていった……。

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