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190/222

190 Sランクの戦い方。

「あ、あれは……昔見た光と同じ……この国はもう終わりじゃ」


魔女の逆鱗に怯えていた老人は焦燥し全てを諦めていた。


やはり過去に何かあったらしい。

ホント、師匠って何歳なんだろうね……。


「あんた今すっごい失礼なこと考えてるでしょ」


「んなことないっす」


危ない危ない……せっかく心強い味方が現れたのに機嫌を損ねたら台無しだ。


「綺麗……」

「あれも魔法なのか……?」

「魔女がもう一人……?」


師匠の魔法に見惚れる者は多かった。

無論、教皇としては面白くない展開だろう。


「星天の魔女ルーンか……引き立て役として申し分ないな」


教皇は狙いを変更する。

――が、それよりも速く無数の光が教皇を取り囲んだ。


「なんだこれは――――」


光が膜となって教皇を包み込むと、声が途切れ何も聞こえなくなった。

同時に、今にも放たれそうだった神力も消失していく。


一先ず危機を脱したと思い、師匠の近くまで飛翔した。


「助かりました師匠。でもあれってどういう魔法なんですか?」


僕は神力相手に魔法じゃ絶対通用しないと思っていた。

それがどうだ……教皇はなすすべなく身動きを封じられている。


さすが師匠だ、と羨望の眼差しを僕は向けたのだが、師匠は呆れた目をしていた。


「はぁ……あんた見てわかんないの?」


「わかりません……」


怒られてしまった……。


「あんなの魔力で膜張って徐々に中の空気を抜いてるだけよ。魔法と呼ぶのもおこがましいわね」


「えぐ……」


最終的にあの中は真空状態になってしまうようだ。

このままだとけっこうなショッキング映像になる気が……。


「でもそっか……そういうのは生き物である限り通用するのか」


そもそも、教皇は魔神の力を使ってはいるものの、肉体そのものへの変化は今の所見られない。

こういう搦め手は普通に通用するんだな。


「さすが師匠」


まったく遠慮のないやり方だ。

絶対この人過去にとんでもないことやってるよ。


「まぁ、あの分だとそう長くは持たないだろうけどね」


「へ……?」


師匠がそう告げると、教皇を覆っていた膜はガラスのように砕け散った。


「はぁ…はぁ……ふんっ、星天の魔女の魔法もこの程度か」


強がってはいるが、大分呼吸が荒い。


(他人の生命力で延命してても体は見た目相応なのか)


肉体ごと若返ることは不可能らしい。


「それでもあの力はやっぱり厄介だな」


しかしそれほど強い神力の気配は感じなかった。

破壊するのに苦労したというよりは、何が起こっているのか理解するのに時間がかかったようだ。


「おぉ! さすが教皇様だ」

「でもかなりお辛そうだぞ」

「教皇様一人で大丈夫なのか……?」


見ていた民衆は不安な表情をしていた。


「さっさと避難すればいいのに……」


僕はともかく、教皇は民衆を巻き込むことに躊躇しないかもしれない。

異世界人呼び出して自分の延命に使うような奴だし……。


「は? あんたが人質にしてたんじゃないの?」


「してませんよ!」


師匠も巻き込むことに躊躇しないかもしれない……。


「ふーん……ま、たしかに邪魔っちゃ邪魔ね」


そう言って師匠がパチンと指を弾くと、王都上空で大爆発が起きた――――


大きな振動と爆音に、悲鳴が響き渡る。

教皇を狙ったものではないが、人々を戦慄させるには十分だったようだ。


「これで動きやすくなるでしょ」


「ひどぉ……」


蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う表情は恐怖に染まっていた。


「それよりあんた、その荷物はどうするつもりよ」


師匠は僕が抱える魔神を指差していた。


「どうって……とりあえず安全なところへ?」


「安全な場所ねぇ……じゃあとっとと行きなさい」


邪魔だと言わんばかりに、シッシッと追い払われた。


「そうは言っても、いくら師匠でもあれの相手はちょっと分が悪いのでは……」


「あぁん?」


すげー睨まれた。

でもこの状況で一番頼もしい存在ではある。


「わかりましたよ……できるだけ早く戻って来ますね」


「はいはい、ゆっくり運んでやんな」


師匠にしては珍しい気遣いだが……ここは素直に従っておこう。

そう思い、背を向けた時のことだった――


「――逃がさないわよ」


地上から一本の槍が天を突いた。


「蒼天のジェイク……」


投擲したはずの槍は、即座にその手に戻っている。

ジェイクの姿は、すでに全身鎧姿で臨戦態勢だった。


「あなたは教皇のしていることを知って――――


「もちろん知ってるわ」


ジェイクの声はひどく冷めきっている。

でもどこか焦っているような印象を受けた。


「あなたはまだ得体が知れないけど、私はもう誰にも負けない……」


まずいな……彼の攻撃は本気で神力を使わないと防げない。


冷や汗と共に後ずさりしかけた僕の前に――――二人の人影が姿を現した。


「変わり果てたなジェイク」


「まったく、世話の焼ける後輩だよ」


剣神ヤマトと戦女神ヴィクトリアはジェイクに武器を向け立ちはだかった。


「お二人とも、どうしてここに……」


「ふっ、愚問であろう」


ヤマトさんはこちらに背中を向けたままそう答えた。

よくわかんないから聞いたんだけどね……。


「格好つけてるけど、この親馬鹿はリズのこと心配で様子見に来ただけだから」


「おまっ、それを言うなよ!」


相変らずのようで少しホッとした。


「ほら、ここは私らに任せてさっさと行きな」


「……恩に着ます」


Sランク冒険者三人という心強い助っ人に助けられ、僕はその場を離れた……。


………………


…………


……


ジェイクは離れていくエルリットを追うことはしなかった。


「あんたたちまで私を否定するのね」


対峙する二人は隙を見せていい相手ではない。

ジェイクは飛翔し、軽く間合いを取った。


「……ヴィー」


「わかってるよ。そういえばジェイク、あんたにこれを見せるのは初めてだったね」


ヴィクトリアは大きな斧槍を空に掲げた。


「――斧装武展ふそうぶてんテスタロッサ!」


その言葉に応えるように、斧槍は布のように解けヴィクトリアを包み込んでいった。



「なるほど……母親似ってわけね」


ジェイクの目に映るヴィクトリアの姿は、前回戦ったリズと酷似している。

斧槍は完全に鎧と化し、武器としての役割はどこにもなかった。

違いがあるとすれば、こちらのほうが鎧としては頑丈そうだ。


「さて、この状況でもまだ戦うかい?」


それは警告だった。

二対一……それも個々に大きな戦力差はない。


だから――――ジェイクは前に進んだ。


「いいわ……魅せてあげるわよ」


その言葉が始まりの合図だった。

ヤマトは軽い動作で跳び上がると、空中で加速し姿を消した。


「――ッ!」


ジェイクは咄嗟に体を傾け槍で横薙ぎに払う。

何もなかったはずの空間に、「ギンッ」と鈍い金属音が鳴り響いた。


「鈍ってはいないようだなジェイク」


「そっちこそ、相変わらず変態的な動きしてるわね」


ヤマトは純粋な剣士、当然飛行魔法など使えない。

ならばいかようにして空中で軌道を変え、さらに加速することができたのか……


(昔一回だけコツを聞いたことあるけど、私には理解できなかったわ)


『足場がないなら空気を足場にすればいい』

コツと呼ぶにはあまりにも雑な答えだ。


(こいつの剣は軽い……けど危険だわ。神に届きうる剣は神具をも斬りかねない)


ヤマトは再び音もなく姿を消した。

ジェイクは目ではなく気配でその存在を追う。


(これなら地上戦のほうがマシね)


大きく槍を薙ぎ払い、ヤマトとの間合いを確保し地上に降りる。

その選択が――――間違っていたのかもしれない。


降り立つと同時に、ヒヤリとしたものを首筋を撫でた。


「斬り落とすつもりだったのだが……相変わらず頑丈な鎧だ」


鎧には傷一つ付いていないように見える。

――が、ジェイクにはたしかに首の皮一枚切り裂かれた感触があった。


「くっ……」


鎧の中で、僅かではあるものの首筋に流れる血が技量の差を物語っている。

認めよう……神具がなければ、自分はこの男の足元にも及ばないと。


だけど――ッ


「もう私は負けられないのよッ!」


ジェイクは、ただ全力に突きを放った。

しかしそれは、剣神の刀によっていなされる。


それでも構わない……槍が届かないなら手足を使う。

体術もへったくれもない。

無様な姿を晒してでも食らいつく――――


「――歯ぁ食いしばったほうがいいぞ。うちのカミさんおっかねぇから」


ヤマトはそれだけ言い残すと、その場に低く屈んだ。

代わりに、大きな拳が目の前に現れる。


それがヴィクトリアの拳だと、ジェイクは瞬時に理解した。


剣神の斬撃より遅い……

あの小娘よりも遅い……

これなら今からでも受け流すことは可能……一瞬でもそう判断した自分を呪いたかった。



あっ……これ無理――



そもそも触れてはいけなかったのだ。

ジェイクの意識はそこで深い闇の中へと沈んでいった……。

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