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181 モードレッド家。

エルリットは、クリフォードの話を聞くのが段々と苦痛になってきた。


(話長いな……)


けっこう衝撃的な部分もあったが、そこを過ぎたらただただ苦労話が続いていた。

まぁ……邪魔するのもなんだから好きなだけ喋らせてあげよう。


「リズはどう思います?」


「邪神像から創られた人間か……にわかには信じ難いが、あの顔が真実だと物語っている気もする」


創られた存在は皆同じ顔……それでいて術者であるクレスト公爵の面影があるのは、遺伝子情報でも組み込まれているのだろうか。


「これがクレスト公爵の目的の一旦だとして、その先にあるのは……」


まさか人を創ろうとしているのか? と口には出さなかった。

結論を出すには、僕はクレスト公爵のことを知らなさすぎる。


「どうしたエル」


「いえ……公爵のことはカトレアさんに聞いたほうが早いかもしれませんね」


リズはコクリと頷いた。


さて……そうなるとクリフォードはどうしたものだろう。

解放するのは論外だろうし、実害がないので始末するのもいかがなものか。

残り少ない寿命だと聞かされては放置してても結果は同じだし……でも、見たところ元気そうだよなぁ。


「真冬に変な山小屋探し回った時は辛かったよ。何せ防寒着すらなくて――――」


クリフォードの苦労話はまだ続いている。

これは全体の何合目辺りなんだろうか。


「周囲の魔力が毒……か」


本来人が自然と体に取り込んでいる魔力。

それが毒だとすれば、少しずつ……確実に体を蝕んでいく。

生まれた時から世界に否定された存在……。


(すごい深刻そうな内容のはずなんだけど、どうにも彼を見てるとそう感じさせないな)


未だ話し続けるクリフォードは、どこか活き活きとしていた……。


………………


…………


……


「――――というわけなんだよ」


クリフォードは話し終えると、どこかスッキリとした表情になった。

しかし、すぐに周囲の状況に虚無感を覚えることなる。


「あれ? 王女と化物剣士は……?」


部屋には、忍び装束を着た女性しかいない。

服装と髪色が違うが、すぐに自分が尾行した町娘だとクリフォードは察した。


「あなたの話が長いのでとっくに出て行きましたよ。私は監視で残ってます」


「マジか……」



◇   ◇   ◇   ◇



敷地外からは見えぬ中庭で、極細の直剣が空を切る。


突きは目にも止まらぬ速度で、斬撃は蝶のように舞う。

標的はいないが、彼女にはそれが見えていた。


「はぁ……はぁ……これじゃまったく届かない……」


アンジェリカは剣を振る度、歯痒い思いをしていた。


なぜ――――私はこんなにも弱いのか。


剣姫と呼ばれ、才能に恵まれ努力もした。

一部とはいえ、魔神の力に適応するだけの器もあった。


(……いや、縋ってるだけか)


少し自分が情けなくなる。


目指すべきビジョンも見え、覚悟も決めた。

しかし肝心の力が今の私には足りない。


「くそっ……!」


魔神の力を得た時の全能感が、ふと頭をよぎる。

せめてあの時ぐらいの力が今使えたらと……


「あーもう、そんなだから付け込まれるのよ」


両手で頬を叩き喝を入れる。

前世の自分とは違うのだ。


あの頃、守るべきものは何もなかった。

この世に生を受けて、自分の中に守るべきものができた。

それを守ろうとして、自分の外に守りたいものができた。


「ふぅ……」


剣はメイヴィルが研いでくれたおかげか、良く手に馴染んでいた。

そっと目を閉じ、正面に構える。


守るべきものは私の外にある……そのための力を外部に求めるな。

その力はきっと、私の中に――――


「あのーアンジェリカさん……相談というか報告というか、お話があるんですけどもぉ」


ふと気づくと、エルリットが恐る恐るこちらの様子を伺っていた。


「……あんたホント間が悪いわね」





僕はアンジェリカさんにクリフォードの件を報告した。

最初こそ不機嫌そうに話を聞いていたが、出生の話になると真剣な表情へと変わっていく。


「まさかホムンクルスみたいな話が出てくるとは思わなかったわ」


「ですよねー」


僕も漫画やアニメでしか見たことないよ。


「じゃあクレスト公爵の目的は……完璧な人間を創りだすこと、なんて単純な話ならいいんだけど」


アンジェリカさんは中庭の隅へ視線を移す。

そこには、木陰で本を読むカトレアさんと、昼寝中のメイさんの姿があった。


「ね、実際のとこ公爵ってどんな人間なの?」


アンジェリカさんの問いに、カトレアさんはそっと本を閉じた。


「父の人間性のことでしたら、私も良くは知りません」


そう答えた瞳は、どこか冷めきっていた。

あまり親子関係が良好とはいえないようだ。


「自分の父親のことでしょ……って、私が言えた義理じゃないか」


アンジェリカさんは気まずそうな視線をこちらに送る。


「つい最近まで自分の父親すら知らなかった僕に振らないでくださいよ」


大体、エルラド王が僕の父親だなんて未だにしっくりきてないんだから。

こういうのは、ちゃんと父親との思い出がある人に託さないと……


「リズはどう思います?」


「ふむ……剣士としてなら尊敬してるぞ」


「父親としては?」


「ちょっとうざかったな」


ヤマトさん子煩悩っぽいもんなぁ……。

ヴィクトリアさんはサバサバしてて、ある意味バランスが取れているのか。


「……そういえば、公爵夫人……カトレアさんのお母さんはどんな方なんですか?」


それはふとした疑問だった。

娘を犯罪奴隷にされて平気だったのだろうか。

それも旦那さんの手によってだ。


「母……ですか。良くも悪くも、貴族らしい貴族……でしょうか」


あまり母親との関係も良くなさそうな答えだった。


「というと?」


「何よりも体面を気にする方です。常に毅然とした態度で、重い腰は社交界で茶を嗜む以外のことで動くことはありません」


カトレアさんの答えが、悪い貴族の見本としか思えなかった。


「父とも典型的な政略結婚だったようですし、お互い不干渉な部分が多かったように思います」


なんだか冷めきった家庭環境のように感じる。

貴族だと使用人もいるからなんとも言えないけど。

少なくとも、ここから公爵の目的を探るのは難しいようだ。



「ま、そっちは追々探っていくとして……面倒な捕虜ができたわね。どう扱ったものかしら」


そうそう、今一番アンジェリカさんに相談したかったのはそれだった。

本人はこのまま手ぶらで帰っても、待っているのは殺処分らしい。

かといって目的を達成したところで、もうそれほど長くないのだとか。


「アンジェ、奴は転移魔法らしきものを使う。監視は必要だぞ」


リズはそれで一度彼を逃している。

アゲハさんを監視に残したのは正解だった。


「この屋敷に地下牢はないし、それでいて監視も必要か……」


アンジェリカさんが思案していると、ガサッと音を立てて人影が木から飛び降りてきた。


「俺にも部屋を用意してくれるなら、その役目任されてやってもいいぜ?」


自然と会話に混ざって来たが、見覚えのない人だ。

まるで試合に負けたボクサーのような顔をしている。


「……どちら様ですか?」


「ロイドだよ! あぁくそっ、まだ顔の腫れが引かねぇ」


そういえばメイさんに連れていかれた後姿を見てなかったな。


「何をやったらそんなボコボコにされるんですか……」


「それがよぉ前に帝国で会った時、何で知らない振りしたのか聞かれて……」


あの時か……ロイドがメイさんを見て表情を変えたのは覚えてるよ。

なんとなく二人の関係性というか、上下関係が想像できる。


「正直に言ったら殴るじゃん、って言ったら殴られた」


「想像してたより上下幅があった……」


すやすやと眠るメイさんを見て、僕は怒らせないようにしようと誓った。


「まぁそれはいいや……巻き込まれたくないし。それで、監視役とかできるんですか?」


「おうよ、丁度良い魔道具を持ってる」


ロイドはニヤリと笑い、何もない空間からランタンを取り出した。

蒼天のジェイクと戦った時にも思ったけど、変わった魔道具をいくつも持っているようだ。


とはいえここはフォン家の屋敷、部屋の件は僕の一存ではどうにもできない。

そう思い、アンジェリカさんに判断を仰いだ。


「ちょっと胡散臭いけど……いいわ、私の方から交渉しといてあげる」


「よしッ! 空模様が怪しかったからな、そろそろ屋内で寝たかったんだ」


空を見上げるが、とても良い天気に見える。

何かの隠語だろうか……。


………………


…………


……


アンジェリカの交渉のおかげで、ロイドはクリフォードと共に部屋へと案内された。


「まぁ……部屋だよな」


あまり広くないし窓もないが、雨風が凌げるのでそれは構うまい。

後は……謎の木箱がいくつも置かれている。

中身はよくわからない工芸品などが入っていた。


「なぁおっさん、これ部屋っていうかさ……」


「おっさんじゃない、ロイドだ」


藁もある、シーツをかぶせればベッドの完成だ。


「ロイドってあの冒険王か……いや、まぁそれはいいとしてさ、ここって倉庫じゃねーの?」


「……やっぱりそうだよなぁ」


案内されたのは、おそらく不用品置き場となっている倉庫だった……。

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