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180/222

180 創られた欠陥品。

「どうした、殺せよ……どうせ失敗した時点で俺は処分される運命なんだからよ」


本音を言えば死にたくない。

しかしまぁ、どの道もう長くなかったしな……。


さて、目の前の王女様はどんな反応をするだろうか。

安っぽい同情と哀れみの眼差し。

あるいは非情な選択と冷たい眼差しか――――


「処分って……降格処分的な?」


「この流れでそんな解釈ある?」


な、なんだこの王女は……。

真剣な表情だっただけに考えが読めない。


「処分と言ったら殺処分だよ。どうせ俺なんて使い捨ての駒なんだからな」


それも最後の残りカスだ。

最後の任務と言っていた辺り、すでに用済みな存在だろう。

どうあがいても避けられない死……ままならねぇな。


「戻っても殺されるだけだから、いっそのことここで殺せってことですか……」


「そういうこった」


ま、見たところこの王女様にその選択はできそうにないな。

でも部下には恵まれているようだし、これは拷問コースか……嫌な最期になりそうだ。


すると、王女は何かを閃いたようだった。


「どうせ死ぬなら知ってること全部喋ってくれてもいいんじゃ……?」


「なんて図々しい発想だよ」


おかしい……この王女はふざけてるわけじゃなさそうだが、どこか緊張感に欠ける。


「駄目か……けっこう忠誠心高いんですね」


この王女――――尋問は絶望的に向いてない。

そんな流れで誰が話すというのか。


しかし、あの男に忠誠を誓っていると思われるのも少し癪だった。


「忠誠心か……それがあったらむしろ楽だったんだろうな」


何も考えず、産みの親であるクソ上司のために死ぬ……。

そのほうが楽だったかもしれない。


「え? それなら……あ、そうか、呪術で口封じされてるんですね?」


王女は勝手に何かを察していた。

しかし呪術で口封じか……たしかにあの男ならやりかねないな。


「アゲハさん、呪術の痕跡とか見えますか?」


「……いえ、見えませんね。ただ、発動条件次第では何が呪いに変化するかわかりませんから……」


そこまで聞いて、クリフォードは段々不安になってきた。


(救世主のこと……あっさりゲロっちまった)


あれは認めただけだし、セーフなのか?

だとしたら何を口をしたら即始末されるのだろうか……。


「うーん、今のところ話すことが発動条件だと思うので……これならどうでしょう」


王女は目の前に紙とペンを用意した。


「筆談なら多分大丈夫なのでは?」


「多分て……」


確証もないのに俺の命はベットされた。


(……いや、待てよ? これはチャンスかもしれない)


ここまで観察した結果、王女は常に隙だらけだ。

腕さえ自由になればどうとでもなるかもしれない。


「いやいや、こんな状態でどうやって書けっていうんだよ」


縛られた腕を王女に見せつける。


これはちょっと露骨か……?

……冷静に考えたらこんなことで拘束を解くはずもない。


「そういうことなら仕方ないですね、リズ」


王女の言葉に従って、赤髪の剣士は腕の拘束を解いた。


「マジか……」


王女ってのはここまで平和ボケしてるものなのか……と活路を見出した瞬間、殺気が首元を撫でた――


「バカなことは考えるなよ?」


一瞬――赤髪の剣士に首を撥ね飛ばされる錯覚を覚えた。

これは……脳が警鐘を鳴らしている。


(むしろ状況悪化してない?)


ギロチンが落ちる一歩手前で紙とペンを渡された気分だ。


「えーっと……知ってることと言っても、一体何を書けばいいのか……」


苦しい時間稼ぎだと自分でも思う。


「僕たちが知りたいのは、教皇とクレスト公爵の目的です」


「まぁ……そうなるよな」


ペンを握る手が震える。

まずは教皇からにしておこう……。


「…………教皇に関してはこんな感じか」


王女は早速紙に目を通した。


書いた以上のことは俺も知らない。

これで駄目なら土下座でもするか。


「これは……クレスト公爵に聞かされたことと同じ内容ですね」


「それ以上は知らないっす。さーせんっした!」


俺は土下座した。


王女もすでに知っている情報だったらしい。

あんのクソ上司め、どこまで俺を追い詰めれば気が済むんだ。


「まぁ教皇の方はある程度目的がわかってるのでいいとして……問題は公爵ですね」


王女はジッとこちらを眺めた。


まずい……早く書かないと怪しまれてしまう。

呪術は怖いが……ええい、なるようになれ!


クレストはとんでもないクソ野郎だ。


勝手に人を創っておいて出来損ない扱い。

自分の娘でさえあっさり切り捨てる。

そのくせ自身が表舞台に上がらぬよう、都合の悪い部下は呪術で口封じ。

教皇と協力関係にあるようで自分では何もしない。


大体いつも与えられる任務が意味不明なんだよ!

邪神像を置いてこいだの経過観察しろだの……


「……あのクソ野郎、一体何がしたいんだ」


どうせ聞いても『お前が知る必要はない』とか言いそうだな。

けっ、こっちだって興味ないっつーの!


「あの……聞きたいのはこっちなんですけど」


王女が困った顔でこちらを見ている。

俺の脳は……考えることを放棄した。


「…………ですよねぇ」


そう答えると、殺気という名のギロチンが首を撥ねた気がした……。


………………


…………


……


「えーっと、つまりあなたも公爵の目的は知らないんですね?」


「はい……そうなります」


王女は「んー」と何か考え始めた。


でももういい、拷問でも何でもしてくれ。

どうせ結果は変わらねぇよ……だってホントに知らないんだもん。


「エル、こいつの言い分を信じるのか?」


「そういうわけじゃないですけど、間違った情報を与えられるよりは何もないほうがマシかなと」


間違った情報……王女がそう口にした瞬間、俺はハッとした。


(そ…その手があったかぁ……)


そうだよ……適当に偽情報でも書けば良かったんだ。

だが時すでに遅し、今更俺にできる悪あがきは残されていない。


(はぁ……こういうとこなんだよなぁ。兄弟……ちょっと遅くなったけど、俺もそっちに行くぜ)


先に逝った兄弟たちの顔が頭に浮かぶ。

……全員同じ顔だけど。


「それもそうか、じゃあこいつはどうする?」


「そうですねぇ、何か他に聞きたいことあったかな……」


赤髪の剣士と王女はこちらの処遇に悩んでいるようだ。

というか王女が敬語で、護衛の剣士がタメ口ってどんな関係なんだよ。


「あっ、そうだ」


王女は何か思いついたようだった。


「それじゃあ、あなたのことを教えてください」


「……へっ、俺?」


質問内容が予想外で変な声が出てしまった。


「差し当たって名前がわからないと不便なんですが……」


王女は特にふざけているわけではないようだ。


「まさかとは思うが、顔だけじゃなく名前まで同じじゃないだろうな」


赤髪の剣士からは嫌悪の視線を向けられた。

何番目の兄弟か知らんが、よほど嫌われてるらしい。


「名前か……」


今まで名前を尋ねられることはなかった。

それは誰かにつけられたわけじゃない……自分でつけたものだ。


「俺の名前はクリフォード……そう、クリフォードだ」



◇   ◇   ◇   ◇



「お前まで行くのかよ……」


男は、自分と同じ顔をした男の背中を見送った。

正直同じ顔なんて薄気味悪い事この上ない存在なのだが、最後の一人になってしまうと自分がおかしいのかと思ってしまう。


顔は同じだが中身はまるで別物だ。


野心に目覚め、反旗を翻した者はあっさり処理された。

当然だろう、所詮自分たちは都合の良い駒なのだ。


何かに魅入られ、教会を後にした者は放置された。

これは意外だったが、ただ都合が良かったから泳がされただけなのだと、後々知ることになる。


他は短い寿命を擦り減らし死んでいった。

周囲を漂う魔力の流れは、我らにとって毒らしい。


世界に否定された存在……世界から呪われた存在……なぜこんな欠陥品に作られてしまったのか……。


神像を使った邪神像――――それが我らの産みの親である。


だがそれも人を創ろうとした失敗作でしかない。

だからこそ、もう一人の産みの親であるクレスト・モードレッドは落胆していた。


『神像をもってしてもこれが限界か……』


とにかく彼は神の力に強い拘りを持っているようだった。


そんな男の面影がある自分の顔が、少し気持ち悪い。

あぁ、これもまた呪いか……。


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