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018 さらに北へ。

ダイカサの街に来て3日目の朝、北側の門でチロルさんと合流した。

今日でこの騒がしい街ともお別れだ。


「ホントはぁ、この街で護衛を増やそうかと思ったんですけどぉ、お二方はEランクでも優秀なようなのでぇ、ケチってそのまま行きますぅ」


ここから先はやや危険度は上がるものの、街道を通れば基本的には安全だそうな。


「でも最近は変な噂もあるのでぇ、警戒だけはしててくださいねぇ」


「噂……ですか?」


「とりあえずぅ、出発しますねぇ、時は金なりですよぉ」


話し方はノンビリしてるくせに……。


こうして、中央都市エルヴィンに向かって荷馬車は進み始めた。




「それでぇ、噂のことなんですけどぉ、ダイカサとエルヴィンの間にぃ、大きな湖があるんですよぉ」


話ながら、チロルさんは地図を広げる。

以前リズさんに見せてもらった地図より、詳細に書き込まれている。


「ユア湖……ですか?」


「はいそうですよぉ、大きな湖ですのでぇ、側に食堂と宿があるんですけどぉ」


ほほう?

わざわざ街から離れた湖で食堂? 宿屋?

それはつまり、名物料理があるということなのでは?


「ユアってお魚の料理が美味しいということでぇ、こちらの街道を通られる方はぁ、皆さん立ち寄られるんですよぉ」


湖の魚か……鮎みたいなものかな?

それは是非とも立ち寄らねばなるまい。


「でもぉ、最近狂暴な魚が混じってるとかぁ、聞くんですよねぇ」


えっ、ピラニアでも混じってんの?


「狂暴な魚か……だが海ならともかく、湖ではたかがしれてるのはないか?」


狂暴というワードにリズさんが反応する。

でもたしかに、狂暴といっても魚は魚だしな……。


「あくまで噂程度の話ですからねぇ」


「ちなみに、チロルさんはもちろん立ち寄るんですよね?」


じゃないと僕が魚料理を食べられない。


「そうですねぇ、明日の夕暮れまでに着いたらぁ、立ち寄りたいですねぇ」


遅れたらあきらめろということか。

誰も邪魔してくれるなよ……。


だがそうは行かないのが旅というものなのだ。


………………


…………


……


翌日、僕たちは白くて首の長い鳥形の魔物に追われていた。

空からこちらを狙う魔物は、1羽…2羽としだいに数が増えていき、気が付けば8羽程まで増えてしまった。

立ち止まれば瞬く間に囲まれてしまうので、今は全速力で荷馬車を走らせている。


「あれはぁ、アイルグースですぅ。標的を凍らせて食べる危険なやつですぅ。こんなとこで人を襲うなんて聞いてないですぅ」


アイルグースは口から氷の礫を放ってくる。


「ハッ!」


リズさんが剣圧で礫の軌道を反らす。

……もう驚かないよ。


そしてこちらがマナバレットで反撃しようと指先を向けると――左右に散開してまた氷の礫を吐き出してくる。


「鳥形の魔物は眼が良い。おそらく魔力の流れを見られてるぞ」


幌で狙える角度が限定されてるのを見越して、散開しているようだ。


「私だけは見逃してほしいですぅ」


チロルさん……それは最初にやられる人のセリフだよ。


「いっそのこと幌を取っちゃえば……」


そうしたらこちらから僕が狙い放題になるのに。


「それはダメですぅ。これ借り物なんですぅ」


ホントにケチな人だな。



「このままでは埒が明かんな、どこか身を隠せる場所で迎え撃ったほうがいい」


「それはダメです!」


そんなことしたら夕暮れまでに間に合わなくなっちゃうじゃないか……食堂に!


「リズさんはこのままチロルさんの護衛を、ここは僕が出ます……絶対に後から追いつきますんで」


「…………わかった。だがいつまでも戻らないようなら……私はエルを優先するからな」


そんなこと言われたら惚れてまうやろ……。


無言で頷き、僕は荷台から飛び出した。

飛行魔法でアイルグースの群れに突っ込んでいく。




近くで見ると思ったよりも体長が大きい、70cmぐらいだろうか。

群れを突き抜け、真上から両手でマナバレットを放つ。


1羽、2羽と撃墜していく中、相手もこちらを包囲しながら氷の礫を放ってくる。


荷馬車とは反対方向へ飛びつつ、包囲を逃れながら体を捻り、時には身を翻し礫を躱し――狙いを定め3羽、4羽と仕留めていく。


「空中戦ならこっちだって!」


動きに制限はない。射撃角度の制限もない。


「雷よ、矢と成り敵を穿て、ライトニングアロー!」


雷の矢を3本放ち、すべて回避される…が


「――そこッ!」


回避したところにマナバレットを撃ちこんでいく。

7羽目まで仕留めたあたりで、残り1羽が遥かに高い上空にいることに気がついた。

そして、一際大きい氷の礫――いや、塊が放たれる


「それなら――ッ!」


マナバレットに術式を干渉させ、指先の魔法陣から複合魔法へと昇華――



――――放たれた閃光は、雲を突き抜け吹き飛ばし、円形の青空を見せた。





「エルリットさん……あなたの犠牲は無駄にしないですぅ」


「おい、不吉なことを……ん? なんだ……?」


リズの視線の先では、1本の光の柱が空に穴を空けていた。


「ハ……ハハッ、これはすごいな……」


「なんですかあれはぁ、天変地異の前触れですかぁ?」



◇   ◇   ◇   ◇



「はぁ…はぁ…なんとか追いついた……もう魔力残ってないです」


追加の魔物が来ないように、低空飛行しながら速度を上げてようやく追いついた。

思ったより荷馬車が進んでいたので、かなり魔力を消費してしまったのだ。


(チロルさん……僕の事本気で置いていく気だったでしょ……)


荷台で寝っ転がる。

今日はもう絶対に働かない覚悟だ。


「あぁ、ゆっくり休んでくれ……しかし無茶をしたな」


「だってこうしないと、魚料理を楽しめない可能性がですね……」


リズさんがあきれた目で見てくる。


「あきれた理由だな。ま、ケガはしてないようだし、それほど苦戦はしてないのだろう?」


「まぁ……あれぐらいなら」


使った魔力のほとんどは荷馬車に追いつくためですから。


「それにしてもぉ、エルリットさんはぁ、すごい魔法使いだったんですねぇ。もちろん私は信じてましたよぉ」


よく言うよ。




「そういえば、アイルグースでしたっけ? 魔物の名前。素材的な価値ってどんなもんなんでしょ」


ポーチには7羽の死体が入っている。

最後の1羽は……首から上しか残らなかったので回収しなかった。


「羽は高級羽毛ですしぃ、お肉としての価値も高いですよぉ」


高級羽毛ということは羽毛布団になるのか。

自分用にほしい。


「でもおかしいですねぇ、アイルグースの主食ってお魚さんだったはずですけどぉ……」


チロルさんは一人でブツブツ言い始めた。




「しかし良かったのか? キミは手の内を隠してるようだったが、こんなあっさり見せてしまって」


リズさんはともかく、チロルさんにはあまり見られたくはなかった。けど……


「リズさんの規格外っぷりを見てると、そんなに気にしなくてもいいのかなって思えて」


自分なんて人間の範疇ですよ。


「……それは褒めてるのか?」


「規格外の強さだ、って褒めてます」


「そうか? 私なんてまだまだだよ。父上と母上にはまるで歯が立たないからな」


そのご両親……人間ですか?





「着きましたよぉ、ユア湖ですぅ」


辺り一面に広がる大きな湖が赤みを帯び始める夕暮れ時に、街道は湖のほとりへと差し掛かった。


「綺麗なものだな……だがすでにいくつかテントがあるようだ」


宿があるのにテントが……と考えると、もはや空き部屋はないのかもしれない。

でもそんなことはどうでもいい、食堂だ。

大事なのはそっちなんだ。


「リズさんは一応、宿の確認をお願いします。僕は……食堂に!」


「……一人で先に食うなよ?」


リズさんに釘は刺されたが、もちろんそんなことはしない。

すでにバターの香りがここまでしてきてるんだ、この至福の一時は誰かと分かち合わないと……。


この香りは、ユアのバター焼き? それともホイル焼き?

だが食堂の周囲には、ふかし芋にバターを乗せて食べている人を多く見かける。


(ここまで来て、なんて物を食べてるんだ君たちは)


いや、それも悪くないよ? 悪くないんだけどねぇ。


食堂の従業員を見かけ、こちらから声をかける。


「すいません、魚料理というのは一体どんな……」


「あっ、すいません。今日のユア料理はもう終わりました」


……? チョットナニイッテルカワカンナイ

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