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170 蒼天。

「鎧になった……?」


生地のように解けた槍は、ジェイクの体を覆い光沢のある青い鎧へと姿を変えた。

槍本体もなくなったわけではなく、一般的なサイズとして残っている。


「私ね、この姿あまり好きじゃないのよ」


少し無機質にも思える格好だったが、ジェイクが動き出すと青白いオーラを纏い始めた。


「だって――――私の美しさが台無しなんだもの」


後半の言葉は――背後から聞こえてきた。


瞬間移動したわけじゃない。

目の前には、通った軌跡が残像として残っている。


でも――――まったく反応できなかった。


「――屈めッ!」


ロイドの言葉でハッとして、倒れるように前屈みに転がった――

ヒュッと、先ほどまで僕が立っていた場所を何かが通過する。


遅れて、白い髪が数本宙を舞っていた。


「マジか……」


リズと同格か、あるいはそれ以上の速さ……?


「今のは警告よ。次は躱す暇なんてあげないわ」


まだ本気じゃないらしい。


「……変わった槍をお持ちなんですね」


まさか変身道具だとは思わなかった。

しかも鎧を着たのに速さが増すとは……。


「あれは古代遺物の一種だな。俺も色々持っちゃいるが、あのレベルの物は持ち主を選ぶ」


ロイドはジェイクの槍を物欲しそうに見ていた。


古代遺物……そういうのもあるのか。


「ちょっと、私の個人情報を勝手に話さないでくれるかしら」


見た目は厳つくなったのに、話し方が変わらないのでどうにも調子が狂う。


「なるほど……じゃあロイドさん、がんばってください」


僕はスッと上空に飛び、間合いを広く取った。


あんなのとやりあったら命がいくつあっても足りないよ。

いつでも逃げられるようにしておかないと……。


「嘘だろ……何しに来たんだよお前」


それな。

なんだかロイドさんの勝算が益々なくなってしまったようで申し訳ないことをした。

せめて骨は拾ってあげよう。


「祈るぐらいなら逃げようとするなよ……」


そう言いつつも、ロイドの片手はバッグの中で何かを探っている。


しかし、ジェイクはどちらも見逃すつもりはないようだった。


「安心なさい。どうせ二人ともここで死ぬんだから」


またも青い軌跡が動き出す。

残像というよりは、青白いオーラの残滓が残っているようにも見える。


そう……見えているにも関わらず、やはり反応できない。


(あぁそうか……意識だけなんだ)


あまりにも刹那の時間――――意識だけは認識しているが、体が反応できる速さではなかった。


「こなくそッ!」


ロイドは辛うじて回避したように見えたが、腕がだらりと垂れ下がる。


「次はあなたね――」


ジェイクの視線は上空にいる僕へと向いた。


でもさすがに空を飛べるわけでは……



――ゾクリと悪寒が走る。



それは咄嗟の行動だった。

まだそこには何もない……誰もいない上空に、レイバレットを最大火力で放っていた――――


「あら、意外と良い勘してるじゃない」


素通りするだけに見えたレイバレットは、甲高い金属音を奏で鎧に弾かれた。


この感覚は覚えがある。

邪教騎士……自我のない魔神が纏っていた漆黒の鎧とまったく同じ反応だ。


そこ気づいたところで、突き出される槍に対しあまりにも無力だった。

体が反応しない……したところで僕は防御魔法を使えない。



だからこそ――――あっさりと神頼みすることになった。



「……何? この手応えは……」


ジェイクの槍は弾かれるでもなく、半透明の白い神力の壁によって受け止められていた。


「あんまり使いたくなかったんだけどね」


相変らず淡く体が発光するのは目立つ。

しかし使っていなければ、今頃胴体に風穴が開いていたことだろう。


ジェイクにとっても想定外だったのか、一旦距離を取った。


「ふーん……真正面から受け止められるなんて久しぶりだわ」


顔は見えないが、どことなく楽しそうに思えるのは気のせいだろうか。


「じゃあ次は――――本気でいくわ」


ここにきて、初めてジェイクは大きく構えを取った。

ただ槍を向けるだけでなく、あからさまな特攻を意識した構え……。


(隙だらけとも言えるけど、レイバレットは通じなかったしな……)


かと言って神力の槍は隙が大きいし、雷は扱いが難しい。

ここはもう一度壁で受け止めて、小さな範囲での雷なら確実。

それでいて派手なことにはならない……かな?


と、次の瞬間――――ジェイクの姿が揺らいだ。


「――ッ!」


ほとんど条件反射のように壁を作る。

狙い通り槍は壁で受け止められ、僅かな衝撃だけが頬を撫でていった。


(よし、作戦通り……)


……本当にそうだろうか?



――――頬を伝う何かが、その答えだった。



「はあぁぁぁぁぁッ!」


ジェイクと共鳴するように、鎧と槍はより色濃くオーラを放出し始める。

気迫に気圧されそうだが、それでも壁は健在で――――



ピシッ――と欠ける音が聞こえた。



同時に、槍との距離が僅かに詰まる。


「うそでしょ……」


一度瓦解し始めれば壁というものは脆い。


次に聞こえてきたのは――――薄いガラスが割れるような音だった。

それも一つではなく、いくつも折り重なって聞こえてくる。

その度に槍は確実に僕の胸元へと距離を詰めていた。



ただの壁じゃダメだ――――



今度は冷や汗が頬を伝う。


イメージするのは、シルフィやアイギスさんの使っていた結界。

それを狭い範囲で、より強固な盾として形成する。


しかし――槍の動きを完全に止めるには至らなかった。


「こんのぉぉぉッ!」


神力を流し込む両手が熱い。

もっと……もっと強固な盾じゃないと――――


ただ必死にそう願った結果――――盾は漆黒に染まった。



「ぐッ――!?」



ジェイクは体ごと弾かれ、屋根の上で膝を付く。


(弾き飛ばされるとは思わなかったわ……)


腕は痺れてやや感覚も鈍っているが、どうにも腑に落ちない。

盾というよりは何かが反発したようにも思えた。


「黒い神力……まるで魔神ね」


ジェイクに言われて、僕もハッと気づいた。


「ほ、ホントだ……真っ黒じゃん」


「何で使った本人が驚いてるのよ」


今初めて知ったからです。

でも、なんとなくこちらのほうが自分の意志を反映しやすく、使い勝手が良いように感じる。


そこで、ジェイクの視線はまったく別の方向を向いた。


「……逃げられると思ってるの?」


ジェイクは僕とは違う方向に槍を投げる。

それはこっそり背を向け退散しようとしていたロイドの目の前に突き刺さった。


「に、逃げるわけじゃねーよ。ちょっと日を改めるだけだ」


……逃げるつもりだったな。


「やっぱり逃げるつもりだったわね」


「うるせー! 俺はお前らみたいな化物とドンパチやれるほど人間やめてねーんだよ!」


と逆切れ気味に啖呵を切ったロイドは、背後から首根っこを掴まれた。


「え? あっ……」


振り返ったロイドは青い顔をしていた。

そこには近衛騎士のセリスや、包囲するように警備兵の姿があったからだ。


どうやらリズが呼んできてくれたようだ。

僕と目が合うと手を振っていた。


ロイドを捕まえたセリスさんは、先程戦っていた僕とジェイクに声をかける。


「事情聴取をせねば公平な判断はできないが……一先ずこいつの身柄は抑えるべきか?」


その尋ねられると、一瞬だけ僕とジェイクの視線が合った。

本来僕らは戦う理由がない。

おそらく考えていることは同じだろう。


「そのおっさんが急に襲い掛かって来たのよ」


「僕はただ二人を止めようとしただけです」


どんな情報を握っているかわからない人物だし、ホントはこの展開は避けたかった。

でもね……僕に全てを押し付けて逃げようとする後ろ姿を見た瞬間、どうでもよくなってしまった。

一度牢にでも入って反省してください。


僕らの証言に、ロイドは泣きそうな顔でこちらを見ていた。


「おいおいやめてくれよ。ここの牢屋の飯まずいんだよ」


……一度じゃ足りんか。



◇   ◇   ◇   ◇



「この力は……!」


クレストは急いで窓から外を見た。

大聖堂の近くで、非常に興味深い力を感じ取ったのだ。


「ジェイクがアレを使っているのか……珍しいな、相手は一体……」


片方は見知った人物。

しかしもう片方は……


「……ふ……ふふっ……ふははははっ!」


クレストは笑いが止まらなかった。


計画は最終段階だったが、ずっと何か足りない気がしていたのだ。

その足りない何かを埋めてくれるピースがたった今見つかった。


「ついに見つけたぞ! 紛い物ではない本物を――――」

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