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169 冒険王の戦い方。

ロイドの戦い方は至ってシンプル。

とにかく道具頼みなのだ。


適材適所で魔道具を使い、常に広い視野で戦っている。

その身のこなしこそ一流だが、単純な戦闘力はSランク冒険者の中でも最底辺に位置するだろう。

それでも、蒼天の二つ名を持つジェイクと互角の戦いをしていた――――


「こちらを嗅ぎ回る程度なら見逃してあげたのに、なんでわざわざ教会の目の前で牙を向けたのかしら」


ジェイクの槍が突風のように空気を抉る。


「見逃されちゃ困るからだよ――ッ!」


ロイドがスクロールを広げると、氷の壁が目の前に現れ、一撃だけ巨大な槍を防いだ。

そして腰に差しておいた細長い瓶をジェイクに投げつける。


「答えになってない……わね!」


ジェイクは槍を振った風圧だけで瓶を弾く。

そのまま地面に叩きつけられ、中身の液体が地面へと飛び散った。


「……人をおちょくってるのかしら」


中に入っていたのは何の変哲もない水……ただのブラフだったらしい。


「さぁ……でも次も同じとは限らねぇぜ?」


ロイドは不敵な笑みを浮かべる――――が、内心焦っていた。


(やっぱこいつの槍おっかねぇ……これでもまだ全然本気じゃないんだからたまったもんじゃないよ)


騙し騙し戦っているロイドに対し、ジェイクはまだまだ余力を残している。



しかしジェイクもまた、ロイドを最大限警戒をしていた。

本気を出していないのではなく、相手の出方が読めないでいたのだ。


(相変わらずあれこれと変わった魔道具を使うわね。やりにくいったらありゃしないわ)


先程のただの水もそう。

こちらの警戒心が薄れたところで、次はこっそり劇物を混ぜてくるに違いない。


長期戦になればなるほど相手の術中にはまり、短期決戦で片付けるには場所が悪かった。


(最初の一撃で仕留めるべきだったわね)


下手すれば教会を盾にされかねない。

だからこそロイドはこの場所を選んだのだろう。


「それでも――ッ!」


負ける気はしないと言わんばかりに、ジェイクは槍を振り回す。

ただそれだけで、射程外のロイドは風圧で体制を崩した。


「おっと危ねぇっ」


風に身を任せ軽く身を捻る。

同時に、外套越しに短剣を投げた――――


「――ちッ」


ジェイクは咄嗟に槍を振るう……が、背筋にゾクリと悪寒が走った。

気付けばロイドが大きく間合いを空けている。


「それは大袈裟に躱すべきだったな」


「しま――ッ!」


短剣から魔力反応を感じ取るが、すでに回避が間に合う段階ではなかった。


「どかーん」


と、ロイドが爆発音を口にする。


…………が、特に何も起こることなく短剣は弾かれてしまった。


「……あれ? おかしいな、この間整備したばかりなのに」


首を傾げるロイドにジェイクは怒りを覚える。


「やっぱりおちょくってるわね……」


「いやいや全然そんなことないから! ただ思ってたより骨董品が過ぎただけで……」


何とかなだめようとするも、ジェイクは槍の切っ先を向ける。


「風穴開けてあげ――――


――と言いかけた辺りで、ジェイクの目の前で大爆発が起きた。


「だから言ったろ、大袈裟に躱すべきだって」


爆発したのは空間そのもの。

短剣はあくまで座標の指定と、ただの起爆剤だった。


「時間差あるから元は土木用なんだけどな」


ロイドは周囲を見渡し、民間人が巻き込まれていないことを確認した。

そして……ジェイクの無事も確認した。


「……ま、こんなんじゃ通じないか」


「ちゃんと効いてるわよ……少しだけね」


軽く煤を払うジェイクからは、とてもダメージがあるようには見えなかった。


「でもわからないわね……。わざわざ私を教会前まで連れてきた上で戦いを挑んで……その割に攻撃は半端だし」


「半端で悪かったな」


たしかにロイドは、ここでジェイクと一線交えるのが目的だった。

決着をつける必要はないので本気を出してるわけではないが……


(蒼天のジェイクが敵だとはっきり分かっただけでも十分な成果だよなぁ)


しかしどうにも煮え切らない。

やはりこちらから少し歩み寄る必要がありそうだ。


(さて、ここからは命に関わるぜ)


ここまで使った魔道具は、所詮普段使いの牽制用。

そしてこれから使うのは――――


「――取扱注意の本番用だ」


複数のスクロールを取り出し――封を切った。


それまでどこか様子見していた二人から、あきらかな殺気が放たれ始める。


「ま、丁度体も温まってきたところよ」


ジェイクのその言葉を皮切りに、シンと周囲の空気が静まり返る。


二人にはもう見えていた。

このままぶつかり合えばきっと倒れるのは……


「おらよ! 出し惜しみなしだ!」


「――シッ!」



スクロールの魔法とジェイクの槍が、一瞬だけ火花を散らす。

その二つが交差する空間が、眩い閃光に飲み込まれた――――



「ちょッ――取って置きの古代魔法が……」


「――あっぶないわね」


魔法は発動直後に消滅し、槍は閃光に弾かれる。

そして二人の視線は、自然と閃光の発生源へと向いた……。



◇   ◇   ◇   ◇



レイバレットを放った後、距離を取った二人の間に僕は立った。


どちらの味方でも敵でもない、そんな上手い介入の仕方が出来たと思う。

しかしロイドさんはなぜか苦笑い。


「そっちが来たかぁ……」


ボソリとそう聞こえてきた。

なんだかすごく失礼なことを言われた気がする。


「閃光……これは一体何のつもりかしら」


槍の男は、こちらを睨みつけるでもなく、ただ冷たい眼差しを向けていた。


……ていうか近くで見るとホント不自然なサイズの槍だな。

それに話し方もちょっと……いや、それは人それぞれか。


とにかく、こちらは中立であることをアピールしつつこの場を諫めてみるとしよう。


「何のつもり……というか、二人こそこんな街中で危ないじゃないですか」


周りを良く見ればわかるはずだ。

巻き込まれてケガをした人や、泣き叫ぶ一般人の姿が……


(……そういう人はちょっと見かけないな)


どちらかといえばただの野次馬が多い。


「なんだよ、加勢に来てくれたんじゃなかったのかよ」


「止めにきたんです」


ロイドは心底残念そうな顔をしていた。


「あら、そういうことなら私は被害者よ。そこの耄碌ジジイが先に手を出してきたんだから正当防衛だわ」


それを聞いてロイドに目線で問いかけると、ニカッと満面の笑みを浮かべ親指を立てた。


「えぇ……」


今は中立でいたいのに敵認定したい気分だ。


「んだよ、ちょっと冒険してみただけじゃねぇか。加勢に来たんじゃねぇなら引っ込んでろ」


そう言ってロイドは一本の傘を取り出した。

一見武器には見えないが、槍の男は表情が変わる。


「……嫌な予感がするわね」


「その反応は間違ってないぜ」


ロイドは傘の先を向ける。


「こいつは受けた雨を蓄積させた上で自在に操れる古代遺物だ。つまり……こういうことができるんだよッ!」


たかが水――――されど水。

超高圧で鋭く発射された雨水は、金属すら容易く切断できる天然の刃へと変化した――――


「チッ――!」


男は槍のでかさを活かし盾にするが、水である以上質量に圧されていく。

その結果――自然と体は後退していった。


「ホント色々持ってるわね。じゃあこういうのはどうかしら!」


男が槍を手放すと、まるでドリルのように回転しロイドへと向かっていった。


「悪いがこいつは盾にもなるんだよ!」


傘を広げると、沿うような形で水の盾が生成され槍を受け止める――――が


「いつまでそれが保てるのかしら」


「くそッ……バレてんのか」


実際には、盾は何度も破壊されている。

その度に瞬時に新しい水の盾が生成されているような状態だった。


まずい……早く二人を止めないとリズとセリスさんが来る。

そうなれば間違いなくロイドさんが捕まるだろう。

これに関しては自業自得だが、この人は絶対何か情報を掴んでいるはずなんだ。


「あぁもう! 言葉が交わせるなら一々戦わないでよ!」


再び僕は割って入るようにレイバレットを放つ。

1発じゃ足りない……アーちゃんの分体からも、2発3発と放ち強引に槍の軌道を逸らした――――


「ふぅ、助かったぜ」


「助けたわけじゃないです」


結局助ける形にはなってしまっている。

そしてそれは、敵意を抱かせるには十分だったらしい。


「ちょっと邪魔ね……いいわ、二人一緒に相手してあげる」


軌道の逸れた槍は、自然と男の手元へと戻った。


「へっ、結果的に加勢するような形になっちまったな」


「なんて日だ……」


もっと力強く嘆きたい気分だが、人の目があるので弱々しく肩を落とした。


敵意を持たれてしまっては仕方がない……改めて男の槍を観察する。

やはり武器として扱うには不自然なぐらい大きい。

あれではおそらく小回りは利かないだろう。

となれば、空を自由に飛べるこちらが圧倒的に有利のはず……。


「ここからは……優しくないわよ」


男の雰囲気がガラリと変わる。

同時に、ロイドは少し後退った。


「やっべぇ……」


男は、何かの儀式のように槍を正面に持った。


「気ぃつけろ、蒼天のジェイクは半端ねぇぞ」


「蒼天って……」


できればもっと早く知りたかった情報が出てきた。

さらにロイドは後退っていく。

まさか逃げる気じゃないだろうな……。


「あいつの槍はな、言ってみればまだ封をした状態なんだ」


それが今、解放されようとしていた――



「――槍装武展そうそうぶてんグランテピエ!」



ジェイクがそう言い放つと、槍がまるで生地のように解け別の形を形成していった……。

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