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167 迫る者たち。

「あまり気は進まんが、この街のことはこの街の住人に聞くのが一番だからな」


ロイドは、普段通りややくたびれた服装で冒険者ギルドへとやってきていた。


Sランクは基本的に通常の依頼は受けない。

そもそも存在自体が特殊なので、気が向いた時に指名依頼を受ける程度なのだ。


「相変わらず王都のギルドは人が多くて鬱陶しい……」


ロイドはそんな愚痴を零しながら、併設された酒場の方へと足を進める。


そんな彼を、誰も気にも留めなかった。

ただ一人を除いては……。


「あらやだ、歩く骨董品がこんな所に何の用なの」


その日もギルドの酒場でパフェと女性に囲まれていたジェイクは、露骨に嫌そうな顔をした。

それに対してロイドはニッと笑う。


「おいおい、久しぶりに会ったのに随分な物言いだな」


「再会を喜ぶような仲じゃないでしょ」


憎まれ口をたたきながらも、ジェイクが手で合図すると周囲の女性たちは席を外していった。

それを見てロイドは向かい側に座り、給仕に声をかける。


「お姉さん、一番安い酒を頼むわ」


ロイドに渡された薄汚れた銅貨を見て、給仕は怪訝な顔をしていた。


「天下の冒険王が安酒とはねぇ……」


「うるせぇ、高い酒はどうにも口に合わねぇんだ」


早速とばかりに、テーブルに置かれた常温のリンゴ酒で喉を潤した。



「んで、何か用なの?」


ジェイクがそう尋ねると、ロイドは懐から一本の瓶を取り出した。


「お前さんには先に報酬を見せておいたほうがいいだろ?」


「なにこれ、中に何か入って……」


そこでジェイクは目の色を変えた。


「……本物なんでしょうね?」


「間違いねぇよ。俺が収集物を市場に流さないのは知ってるだろ?」


ロイドが報酬として取り出した瓶の中身は、振りかければどんな食べ物でも甘味にしてしまう古代の魔道具だ。

どんな甘味になるかはランダムで、製造方法も謎に包まれている。


「たしかに……最後に見たのは何年前だったかしら」


時折遺跡などで発見されては、オークション等で高額取引されている。

ジェイクは少し考える素振りを見せるものの、すでに答えは決まっていた。


「いいわ、信じましょう。私は何をすればいいの?」


「話が早くて助かるぜ、少し場所を変えるとしよう」





ロイドとジェイクは、教会の近くにあったベンチに腰を下ろした。


「……この辺でいいだろう」


「てっきりもっと人の少ない所を選ぶと思ったのだけど」


教会周辺は決して混雑しているわけではないが、それなりに人通りがある。

人に聞かれたくないような話ではないのか、とジェイクは違和感を感じた。


「なに、単刀直入に言おう。俺の次の標的は――――あれだ」


そう言ってロイドは教会を指差した。


「……それは大冒険ねぇ」


ジェイクは知り合いだと思われたくないため少し距離を取る。


「まぁ話は最後まで聞け」


「そうね……最期の言葉ぐらい聞いてあげるわ」


ジェイクはさらに距離を広げた。


「聞く気すら怪しいじゃねーか」


「当たり前じゃない、教会よ? 邪教ならまだしも……あんた何考えてんの」


オルフェン王国の人間は信心深い。

そもそもナーサティヤ教の評判は非常に良いし、悪い所を探す方が難しいのだ。

それを敵に回すということは、即ち国を敵に回すことと等しい。


「ま、ハズレだったら俺は大罪人だな」


ロイドとて、現時点では教会そのものに対する何かの確証を得られたわけではない。


「どんな理由があればそんな博打に出られるんだか」


「言うほど博打でもないと思うがな」


ロイドが不敵に笑うと、ジェイクは真剣な眼差しを向ける。


「……もう何か掴んでるってこと?」


「まぁそれなりに」


それを聞いて「はぁ」とジェイクはため息を漏らした。


「はいはい、どうせあんたは止めても無駄よね。んで、私に何を頼みたいの?」


「そうだなぁ……」


ロイドは少しもったいぶったように間を空ける。



そして、腰から短剣を抜いた――――



「とりあえず、知ってること全部話してもらおうか」


決して素早い動きではなかったが、とくに反応しなかったジェイクは首元に短剣を突きつけられていた。


「……これは何のつもりかしら」


ジェイクは表情を変えることなくそう尋ねる。

それに対し、ロイドは鋭い視線を向けた。


「とぼけるなよ――――異端審問官様よぉ」


そうロイドが口にすると、ジェイクから僅かに殺気が漏れ始めた……。



◇   ◇   ◇   ◇



ようやく落ち着かない学園生活から解放される週末――――


冒険者モードでふらりと出かけようとしたところ、アンジェリカさんに引き留められてしまった。

なんでも式典用にドレスを新調したので、今日は合わせておきたいらしい。


「……それってアンジェリカさんのですよね?」


「もちろん私の()あるわよ」


余計な一文字が付いていた。


「そんな何着もドレスなんていらないのに……」


不本意だが以前着たドレスを持っている。

できればそれもあまり着たくはないのだが……。


「何言ってるのよ。王族がいつも同じドレス着てたらいい笑い者よ」


外聞的なものは大事らしい。


「そういうものですか……ていうか新調って、いつのまに採寸を……」


以前のようなお古を調整して着るわけじゃない。

新調したものをさらに合わせる、ということはけっこうしっかりしたドレスなんじゃなかろうか。


「そんなんこの間ウチが測っといたで」


「あ、そうなんですね」


そうかそうか、メイさんがこの間測ったのか……。


「……この間?」


おかしいな、僕にはそんな記憶がないよ。


「エルはぐっすり寝とったから憶えとらんやろ」


「そっかー寝てる時かー」


王族のドレスより寝室のセキュリティを見直すべきだよ。



「……ん、客人だな」


リズが窓から外に視線を移す。


「仕立屋の人……ではないみたいですね」


僕も外を確認すると、そこにはローズマリアさんとシャーリィさん、それと……


「……堂々と来られたら困るとは言ったけども」


変装のつもりなのか、眼鏡と不自然な髭を付けた殿下の姿もあった。


たしかにパッと見、王子には見えない。

だが存在自体が不自然だ……なぜ金髪のくせに茶髪の髭を付けたんだ。


「とりあえずカトレアさんに相手をしてもらいましょうか」




クロード殿下とカトレアさんは、堂々と庭でお茶会するわけにもいかないので客間で談笑している。

学園ではどこか冷めた態度のクロード殿下も、ここでは優しい目をしていた。


(……いや、いいんだけどね)


冷静に考えたら人の家でイチャイチャしてるだけなのでは?

邪魔したら悪いので僕は途中で席を外したけど……。


「そういえばローズマリアさんは?」


「あのほんわかした姉ちゃんならアンジェ嬢に呼ばれとったで」


ふむ、ならば僕もそちらに……


「ほな、エルはこっちでドレス合わせや」


僕の体は、僕の意志とは違う方向へ引きずられていった……。


………………


…………


……


ローズマリアが案内された部屋には、アンジェリカが一人で待ち構えていた。


「アンジェリカ様、相談したい事というのは……?」


といっても大方予想はできる。

カトレアに関することか、あるいは交易に関してか……


「あなたのわかる範囲で答えて欲しい事があるのよ」


「何でも仰ってください」


二つ返事でそう答えたローズマリアは、普段通り優しい笑みを浮かべていた。


「新興とはいえ、他国の王家に賊やゴロツキを雇って嫌がらせを行う……その動機はなんだと思う?」


交易に強いフォン侯爵家は情報網が広い。

これを使わない手はないだろうとアンジェリカは考えたようだ。


「私の口からはちょっと……ただ、父なら何か知っているかもしれません」


当然オルフェン王国の貴族界も一枚岩ではない。

それぐらいのことを平然と行う者たちもいるだろう。

かといって憶測でその名を口にするのは軽率すぎるのだ。


「そう……じゃあもう一つ。救世主に毒を盛るとしたら、その動機は?」


淡々と問いかけるアンジェリカは、どこか冷たい目をしていた。


「可能性として高いのは嫉妬……だと思いますが、これも私ではちょっと……」


それがわかったら苦労しない。

そもそも質問内容がおかしいのだ。


「アンジェリカ様、結局のところ本当の動機なんて犯人にしかわからないことですし、あまり気にしすぎても仕方がないのでは?」


無論、動機から犯人を絞ることも可能だろう。

しかしそれには情報が少なすぎるのだ。


「そうね、犯人にしかわからないことよね…………じゃあ聞き方を変えるわ」


間を空けると、アンジェリカの声のトーンが段々と下がっていった――――



「――――どうして、あなたは毒を盛ったのかしら」



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