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166 強制労働中の大魔導士。

――エルラド王国、王都エルヴィン。


エルリット宅の隣に位置している魔女の屋敷に、最近一人の女性が新たな住人となっていた。


「魔石が一つ……魔石が二つ……」


帝国の叡智とまで呼ばれた大魔導士マリオンは、ひたすら宝石に魔力を込めていく。

もちろん何か悪巧みをしているわけではない。

これが家主から半強制的に与えられた仕事なのだ。


「ちょっと、まだこれだけしかできてないの? 昔からあんまり成長してないのねぇ」


ルーンは出来上がった魔石の量を見てがっかりしていた。

山のように積んであるはずだが足りてないらしい。


「先生……これは一体いつ終わるのですか」


ただ魔力を消費するだけの単純作業にマリオンはうんざりしていた。

食事はちゃんと出るし睡眠時間もあるのだが、敷地内からは出してもらえない。


そもそも何かの報酬で私の身柄を引き取ったらしいが、はたして何が狙いなのか……。


「別にやめたいならやめてもいいわよ。その時は牢に逆戻りだけど」


「……続けます」


いっそのこと牢のほうがマシかも、と一瞬迷ってしまう。


「まったく……修行途中で逃げ出した弟子がどれだけ成長したかと思えばこの程度なんて」


たしかにマリオンは過去、一度逃げ出している。


星天の魔女ルーンの教え方は、基本的に実戦形式で死ぬほど辛い。

その辛さから逃げ出し、でも引き留めに来るのを期待した時期もあった。


(……期待されてなかったんだろうな)


彼女は――――逃げ出したマリオンを放置した。


最初は惨めな気持ちになり、魔法の道を諦めかけた。

しかしその後、外の世界で天才と呼ばれ、魔法使いとして頭角を現し始める。

その頃からだろうか、師に対する気持ちは徐々に怒りへ変わっていった。


なんだ……先生の教え方が悪かっただけではないか――――と。


実は才能に嫉妬し、潰そうとしていただけなのだろう。

そしていつしか、魔女を超えたつもりになっていた……。


(今だからわかる……この人は次元が違う)


実力がわかるようになったのを喜ぶべきか、届かない頂に絶望するべきか……。



「ま、魔法陣の転移だけは褒めてあげてもいいけど」


「え……?」


ルーンの言葉に、マリオンは自分の耳を疑った。


褒める? 先生が……私を?

たったそれだけのことで心が揺れる。


「でも有効射程に難有りってとこかしら」


「そ、そうなんですよ! でも人や物の転移より圧倒的に魔力消費が少なく、安定性や戦術面も考えると――――」


マリオンはとにかく話した。

自分の成果を……自分はここまで昇りつめたのだと。


認められたことで二人のわだかまりは解け――


「――ていうか、あんた老けたわね」


「先生が変わってなさすぎなんです!」


やっぱりこの魔女は嫌いだ……。



◇   ◇   ◇   ◇



元々落ち着かない学園生活だが、今日はとくにひどかった。


授業中、前に座っているキララさんは、手鏡を使って後ろにいる僕をチラチラと覗き見ていた。

本人はバレてないつもりなのだろうか。

これにはローズマリアさんと共に苦笑い。


「咎めなくてよろしいのですか?」


「目的がよくわからないので……」


隣のローズマリアさんも少し落ち着かない様子。


でも下手なことしてまた揉め事になるのは面倒なのだ。

キララさんは触るとどう起爆するかわからない地雷みたいなものだからな……。



昼食時、クロード殿下は当たり前のように僕らと昼食を共にしていた。

おかげでまた注目を集めてしまっているが、キララさんの意識が別にいってくれるなら僕としては助かる。


「はぁ……また彼女の視線を感じるな」


クロードは深いため息をつく。


おそらく休学前からキララさんはずっとあんな感じだったのだろう。

でもイケメンは苦労するといい。


「あ、そういや今日の昼食はカトレアはんも手伝ってくれたんやで」


そう言ってメイさんがサンドイッチを取り出すと、クロード殿下は目の色を変えた。


「……エルリット王女、お願いがあるのだが……」


「たくさんあるので殿下もどうぞ」


今更他所に行けとも言えないしね。

そしていざとなったらキララさん相手に盾となってください。



「あのぉ、私まだまだ新参者だから友達が少なくて……良かったらご一緒してもいいですか?」


思ったよりも早くその時がやってきたようだ。


先日と違って控え目な態度だが、やってることは大胆だよ。

リズやメイさんもいるけど王族二人に侯爵令嬢が一人……僕だったら近づけないね。

……今は渦中にいるけど。


そもそも僕の方こそ新参者のはず。

キララさんには後ろにお友達? が二人もいるじゃないか。


「えっと……後ろにいるお二人は?」


「え?」


キララさんは、付いて来てしまったミハエルとシモンを見て露骨に嫌そうな顔をしていた。


「やあクロード、キララは賑やかなほうが好きなんだ。私も同席させてもらっていいかい?」


ミハエルが「パチンッ」と指を鳴らすと、複数の生徒たちが瞬く間にテーブルやイスを運び出した。


従者が生徒として通っているようだ。

ミハエルは殿下を呼び捨てだし、これが3大貴族の一角か……同席の許可はまだしてないけど。


「ミハエル……私は静かなほうが好きなのだが?」


要するに「どっかいけ、こっち来るな」とクロード殿下は思っている。

この人割とハッキリ態度に出すよね。


「ハハッ、クロードは相変わらずだな」


しかし効果はない……ミハエルは笑いながら席に着いた。

シモンもちゃっかり席を確保している。


(この空間は嫌な予感する……)


脳が警鐘を鳴らす。

僕の左にはローズマリアさん、右にはリズが座っているのだが、一応貴族らしくそこそこの間を取ってある。

そこには人一人座れるだけのスペースが……。


「エルリット様、お隣失礼しますね」


嫌な予感は見事に的中した。

やっぱりキララさん大胆だよ。


「キララ、僕の隣空いてるよ?」


気付いたシモンが声をかける。

そりゃみんな一定間隔空いてるのに、一人だけ間に入ったら気づくよね。


「エルリット様って意外と庶民的ものを好まれるんですねぇ」


キララさんはまるで聞こえていないかのようにシモンを無視する。

おかげで僕は、食事中ずっと彼に睨まれることになった……。


………………


…………


……


その後も、キララさんはずっと僕に話しかけてきた。


僕は状況について行けず、「はぁ」とか「へぇ」といった気の抜けた返事ばかりしている。

目の前にお目当てのクロード第1王子がいるというのに……キララさんの狙いがわからない。


「それで、私の世界では電気でいろんな機械を動かしてるんですよ」


「へぇ……そうなんですね」


知ってます。

僕も使ってましたから。


「あと馬車の代わりに車っていう鉄の箱みたいなので移動したりとかぁ」


「はぁ、そんなものが……」


それも知ってます。

何なら所有してました。


リズは興味がないようで聞き流している。

メイさんは目を輝かせてメモを取っていた。

いかん……この世界に技術革命が起きてしまう。


「あ、そういえば私、今度式典で祈りを捧げるんですけど、良かったらエルリット様も見に来てくださいね」


「へぇ……そうなんですね」


つい反射的にそう答えてしまった。

見に行くも何も多分正式に招かれてます。


「エルリット王女は国賓として招待してある。おそらく最前列か、それに近い位置で見ることになるだろう」


僕の代わりにクロード殿下が補足してくれた。

これにはキララさんもご満悦だが、シモン君の表情はどんどん険しくなっています。

心なしかローズマリアさんも元気がないように見える。


なんとも居心地の悪いお昼休みになってしまった……。



「楽しそうだなぁ……」


ウィリアムは今日も遠目でエルリット王女を観察している。

なぜ誰も自分が輪の中に入っていないことに気づいてくれないのだろうかと、時折空を見てため息をついた。

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