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016 食い倒れの街、ダイカサ。

「なんとかぁ、夕暮れ前に着きましたねぇ」


街に入る前から聞こえていた賑やかな声が、街に入ったことでさらに大きくなる。


「これはすごいな……」


「ですね……」


リズさんと僕は、街の賑やかさに驚きを隠せない。

街の大きさ自体はミストの街よりやや小さい、小麦畑を含めると倍程の大きさだ。


そして何より屋台の量……圧巻だ。


「それではぁ、明日と明後日の二日滞在予定なのでぇ、三日後の朝にぃ、北側の門近くの合流でお願いしますぅ」


街に入って早々、チロルさんと別れる。


「我々はどうする? とりあえず警備隊の兵舎に行くか?」


「そうしましょうか」


野盗を門番に引き渡したところ、お頭と呼ばれた男だけ指名手配中だったそうな。

あとは門番に渡された証明書を警備隊の兵舎に持っていけば、報奨金を受け取れるらしい。


「じゃあ報奨金をもらったら宿を探しに――――ッ!」


「急に立ち止まってどうした?」


感じる……感じるぞ。


「……やきだ」


この強い香り……。


「たこ焼きだぁぁぁぁぁぁッ!」


屋台へ駆け寄る。

間違いない、たこ焼きがある。


「急に走るな、まったく……」


「すいません……あぁもう我慢できない、たこ焼き一つください!」


懐かしいソースの香り……我慢などできようものか。


「たこ焼き? これはだま焼きって言うんだよ、嬢ちゃん」


ツルツル頭の店員に訂正される。

形から入るとはやりおるな。


嬢ちゃんと呼ばれてもいい。

名前が違ってもいい。

この世界でたこ焼きが食えるなんて……。


「はいよ、いっちょ上がり。金貨3枚ね」


「んなッ!? 高すぎだろ!」


わかってないなリズさん。

これはそういうことだよ。


僕は何も言わずに、スッと銅貨を3枚出す。


「なんだ、嬢ちゃんよくわかってんな」


だま焼きという名のたこ焼きを受け取る。


「ん? んん? 何がどうなって……」


「まぁまぁリズさん、ほらあ~ん」


リズさんの口へだま焼きを1個運ぶ。


「はっ…はふ…あつッ!」


そうでしょう、そうでしょうとも。

出来立てだもんね。

そして次は自分の口へ……


「あっ…んッ…はふっ!」


熱いッ! だが口の中からは逃がさない。

そして、ちょっとだけカリッとした生地から飛び出してくるトロトロの溶岩。

それは熱さに慣れた頃に、口の中でソースと絡みあう。

だが、これだけでは物足りない……そう、食感が物足りないのだ。

そこで! 機は熟したと言わんばかりに存在を主張し始めるタコを噛み締め……噛み…しめ……



――――そこにはあるべきはずの食材がなかった。



◇   ◇   ◇   ◇



「ほら、ここが警備隊の兵舎のようだぞ……まだ落ち込んでるのか?」


そりゃね、期待が大きかった分ガッカリもしますよ。


「普通に美味かったと思うんだがなぁ」


「まぁそりゃ味はね、そうなんですけどね……」


よくよく考えてみれば、海に面していない街でタコを扱ってるはずもない。


「せめてこの証明書が大金に化けたらな……」


「金貨1枚でももらえたら儲けものだな」


「そのときは良い宿にでも泊まりましょうか」




兵舎の入口で証明書を見せ、中に通してもらう。

そして、隊長室と書かれた部屋へ通される。

中にいたのは、40代ぐらいの貫禄ある男性だった。


「キミたち二人か、バルコのやつを無傷で捕らえたというのは」


「はい、これ証明書です」


証明書を渡すと、ホッとした顔をしていた。


「ふむ、間違いないな。ありがとう、礼を言うよ。これは報奨金だ」


渡された報奨金は金貨が10枚……10枚!?


「えっ! こ、こんなにですか?」


「そんな大物だったのか……そうは見えなかったんだがな」


報奨金の相場はよくわからないけど、金貨10枚は絶対に小者じゃないよね。


「いや、大物というわけではないんだ。実際これまでの被害額は大した金額じゃない。逃げ足は速いが、人手の少ない行商人だけを狙う小者だよ」


「ならなぜ……?」


「……こんなんでも、ある商会の次男なんだ。つまり、商会なりのけじめというやつだな」


落ちぶれて野盗になっちゃったってことかな。

人数も少なかったしね。


こうして報奨金、金貨10枚を受け取り兵舎を後にした。




「予想外の大金が手に入ったな」


「そうですね、良い宿を探すつもりでしたけど、高級宿もありですね」


リズさんと宿を探しながら街を練り歩く。


「高級宿があるかはわからんが、風呂付きの宿とかいいかもしれんな」


風呂付き宿か、それぐらいの贅沢は許されるよね。


「となると、大浴場のある宿か、あるいは浴室付きか……」


大浴場も悪くないけど、部屋にお風呂あるのが理想的ではあるよね。





「二人部屋しか空いておりませんが、よろしいでしょうか」


風呂付き宿を探して辿り着いたのは、小綺麗な二階建ての宿。

そして裏手には馬宿……驚きの別料金。

しかし、受付の対応はすごく丁寧なので安心感がある。


食事はついてない、食堂もない、素泊まりのみ。

屋台に行けということらしい。


「個室は空いてないんですか……どうします?」


「私は二人部屋で構わんぞ?」


まったく意識されてないのも、それはそれで悲しい。


「じゃあ二人部屋を3泊でお願いします」


「3泊ですね、それでは銀貨6枚になります」


――高ッ!




案内された部屋にはベッドが二つ、窓際にテーブル、そして椅子が二つ。

広さはあまり広くない。

そしてドアがあり、脱衣所と浴室があった。


「値段の割に高級感はないですね」


「風呂付きというのは、それだけで価値があるからな」


これで高級感まで求めたら、金貨使うレベルになるわけか。


「さて、明日はどうする? 私は剣を見たいが……」


「この街の武器屋って良い物あるんです?」


「どうだろうな。中央都市ほどではないと思うが……これよりはマシだろう」


リズさんは、柄がひしゃげた剣を抜く。

剣身もボロボロだった。


「僕は食べ物以外はこれといってほしい物はないので、リズさんに付き合いますよ」


武器はいらないけど、かっこいい剣とかには興味がある。男の子だからね!


ありがとう、っと言いながらリズさんは鎧を脱ぎ、インナーに手をかけ――――


「……そういえばキミは男だったな。私は風呂に入りたい、何が言いたいかわかるな?」


「あっ、はい。屋台で夕飯でも買ってきます」


「そこまでしろとは言わないが……いや、お願いしようか。キミが行ったほうが味に期待できる」


合点承知ッ! おまかせあれ!




屋台を回り夕飯を選んでいく。

見たことあるようなのはけっこうあるが、どれも名前は違うし色々と惜しいものが多かった。


キャベツなしのお好み焼き、パサパサの小籠包、大根のないおでん。

こんなの怒り心頭だよ。


「……ま、味はどれも悪くなかったけどね」


帰って食べるはずが、ついついお腹いっぱいになってしまった。


リズさんには、無難に具無しの焼きそばと焼きたてのパン、あとはワインを1本買って行くことにした。


(ワインは僕がちょっと飲みたかっただけだけどね)



部屋に戻ると、リズさんは風呂上がりで着替え終わっていた。

だが上はタンクトップに、下は下着のみ……。


(……結局目のやり場に困るやん)

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